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アナタと歩く英雄譚  作者:
第四章
37/51

第一話 救いを求めて


『来るな、化け物』


 違う。化け物なんかじゃない。


『消えろ』


 なんで? 好きでこうなったんじゃない。


『力を貸せ、神殺し』


 その名前で呼ばないで。

 兵器として、扱わないで。

 

 

 ――誰か名前を呼んで


 誰か……誰か……









「行くぞ。ホル」


 名前を呼ぶ声。

 神界で生まれ、孤独を生きる自分とは決して出会うことは無かった。その少年。

 厄介事が嫌いなめんどうくさがり、でも困っている人は放っておけない。

 とんだ、お人好しである。

 

 最初はどうせこの少年も自分を武器、兵器としか見ないと思った。

 しかし、彼は自分と真っ直ぐ向き合い、信頼してくる。

 『ホル』としての存在を受け入れてくれた。


 だから、彼が他の武器を手に取ろうとしたとき、怖かった。

 自分の居場所が無くなるんじゃないかと……彼に捨てられるんじゃないかと……

 初めてできた居場所を失う恐怖。


 それは自分に世界の楽しさ、他者と接することが、これほどまでに楽しいことを教えてくれた彼を失うことと同じ恐怖だった。

 そんな彼が力を望んだ。

 誰かを守れる力を、降りかかる災厄を振り払う力を。

 

 だから、力を与えた。

 『神殺し』と呼ばれる万物を破壊する力。

 本当の自分を彼に見せた。


 また、恐怖を抱かれるだろうか?

 彼は離れて行ってしまうだろうか?


 怖かった。本当に怖かった。

 築き上げたすべてが壊れてしまうんじゃないかと、本気で思った。


 だけど、彼は『神殺し』としての自分も受け入れる。

 これからも頼むと言ってくれた、運命共同体だと、信頼できると。

 それが嬉しくて、初めて他者に自分の全てを受け入れてもらえて……


 本当はこの旅がずっと続けばいいと思っている。

 それは変わらない。ずっとそばに居たいと。

 ハーレムを作れば、彼もこの世界に留まってくれるかもしれない。


 しかし、ハーレム専用のチートは彼にとっては、邪魔なものでしかないようだ。

 彼は本能的に気が付いている、『他者から向けられる好感度は、自分が他者に向ける好感度と同等』、この裏に潜む、他人は本当の自分を見てくれないと言う、孤独と恐怖に。


 だから、彼がこんな世界から早く帰りたいと言う気持ちがなんとなく、理解できた。

 他者が本当の自分を見てくれないのは辛い。『神殺し』とそれだけしか扱われなかった神界での生活、まさにそのままである。


 複雑な気分だ。この世界に留まってくれれば、彼はその孤独と恐怖に晒され続ける。

 同じ異界人にならチートが適用されない、だから彼女たちなら引き止められると期待したが、彼の意志は固く、変わりそうにない。


 いつ、この旅は終わり。

 いつ、彼と離れるのか。

 そして、いつかまた会えるのか。


 最近はそんなことばかり、頭に浮かんでは消える。

 だけど、旅が続く限り彼を助け、彼に降りかかる災厄を振り払う剣となり、彼が守りたいと思う人を守る盾となる。

 それが使命だと、そう思っている。


 何があろうとも傍に居る……どんなことが起こっても……









 冷たい。まどろみの中で取り戻した意識が最初に感じた感覚だった。

 身体に当たる雨が、体温を奪っている。

そして身体の感触から、自分がうつ伏せで倒れていることに気が付く。


(ここは?)


 身体を起こし、周りを見渡すと、惨劇の場となったリリアネットの屋敷が目の前にあった。

 重い頭で昨夜の記憶を呼び起こす。


(ベスドラが助けてくれて……衛兵が来て……ソラトさんたちが捕まった……)


 ベスドラの乱入で窮地を脱したソラトたちだったが、駆けつけ衛兵に拘束されてしまった。

 そして、ソラトは武器化した状態の自分を連行される際に、地面に捨てた。

 武器化が解除されたのは、ソラトとの距離が離れすぎて『魂の刻印(ルーン)』のスキルが解除されたからだろう。


 自分を捨てるとき、彼がなんと言っていたか、必死に思い出す。


『頼むぞ。ホル』


 彼はそう言った。

 確かにそう言った。

 彼らに掛けられたのはリリアネット殺害の容疑だ。


 そのせいで王都まで連行される。

 それは衛兵の会話から覚えている。

 罪に問われれば、最悪死刑だってこともありえる。

 死んだリリアネットは、ギルドや王都と取引をする大商人で、重要人物なのだから。


 助けないといけない。

 彼をこんな所で死なすわけにはいかない。

 かと言って、誰かに使ってもらわなければ、力を発揮できない自分一人では到底無理だ。


 誰かに助けを求めるしか……


 ホルは立ち上がり、フラフラと宙に浮く。

 雨が降るせいで、かなり動きにくいが急がないといけない。

 焦る気持ちを胸に、ホルはギルド本部を目指した。















(真奈美お姉ちゃん……帰ってこなかったな……)


 滉一は自室のベッドの上から、外に降る雨を見てそう思った。

 昨夜、家を出ていった真奈美は結局朝まで帰ってこず、不安だけが先行する。

 千佳も不安で眠れなかったのか、滉一の部屋に来てテリーと一緒に居た。


「滉一。お姉ちゃん、何かあったのかな?」


「分からない。何も連絡が無いんじゃ……どうすることも……」


 最近はウルカグルのギルドマスターに言い渡された、『特命クエスト』のせいで、真奈美とは別行動を取ることが滉一たちは多かった。

 彼女が受諾した特命クエストがかなりの危険を伴うから、自分たちを遠ざけた。


(僕って、情けないなぁ)


 迷宮に潜り、何もできなかったあの日から、そう思う日が多い。

 勇者だのなんだの称賛されても、目の前の大切な人を見殺しにしかけた、情けない男だ。

 颯爽(さっそう)と自分たちの窮地を救った、彼とは程遠い。


(ソラトお兄ちゃんなら……こんな時、どうするかな?)


 頼りになるのか、ならないのか分からない、不思議なその背中。

 彼はいつもどうすれば、生き残れるかを考えていた。

 そして、自分にとって受け入れがたい選択でも、それがベストならどんな理不尽なことも受け入れる。


 ――英雄とは名詞ではなく、動詞だよ


 とある人に言われた。今は『魔王討伐部隊』に居る『あの人』

 元気にしているだろうか、力と名声を得て変わってしまった『あの人』

 真奈美の最初の想い人にして、この世界に来てばかりの頃に助けてくれた『あの人』


 ソラトと『あの人』は似ているような気がする。

 だから、真奈美もソラトに惹かれ始めている、変わる前の『あの人』の幻想に重ねているような気もするけど……根本は違う。

 それが滉一の結論だった。


 上手くは言えない。でも、ソラトは『あの人』と同じ道を歩かないような気がする。

 そもそも、ソラトは自分たちとは全くの異質だ。

 自分たちはこの世界でもう一度、生きるチャンスを与えられ選ばれた。


 だから、チート()を『得た』。ずっとそう思っていた。


 しかし、彼はチート()を『与えられた』と言った。


 そのせいか、彼はずっと『与えられた』意味が分からないと言って、いつも悩んでいる。

 そんな風に考えたことのない、自分にとってそれは新鮮だった。

 この世界でもう一度、命を与えられた意味、その理由。考えるだけ無駄なのかもしれない。

 前の世界のように、突然死ぬことだってあるのだから。


 だけど、憧れたあの背中に近づくには、必要なことに思えた。







「滉一。誰か来た」


 千佳のその言葉で滉一は自分の世界から戻る。

 耳を澄ますと、家のドアをノックする音が聞こえた。

 玄関まで行き、一応警戒をして、扉を開ける。


「初めまして。中に入れてもらってもいいですか?」


「至急。伝えたいことがある」


 そこに居たのは、外套に身に纏った、猫耳を持った女性と、金髪のエルフの女性。

 猫耳を持った人はギルド本部の受付で見たことがある、最近来たばかりで周りの男たちが噂していた。

 エルフの女性には見覚えがない。そもそも、二人がまともに話したことのない自分になんの用なのか。


 滉一が必死に考えようとしていると、二人に間から宙に浮いた妖精が顔を出した。


「コーイチさん。ソラトさんとマナミさんが拘束されました」


「ホルさん!?」


 ホルの言葉を聞く必要があると判断した滉一樹は三人を部屋に招き入れ、千佳とテリーも呼んで話を聞いた。

 空人と真奈美が要人殺害の容疑で王都に連行され、最悪殺される可能性があること、それを助けるのに力を貸してほしいこと。


 アリュラと名乗るエルフ、ギルドの職員であるネナの二人は空人の知り合いで、助けに行きたいが力が足りないと判断し、滉一と千佳に声をかけた。


(二人が連れ去られた……どうするかなんて、決まっているよね? ソラトお兄ちゃん)


 こんな時、憧れるあの人はきっとこう言う。


「分かりました。助けに行きましょう」


 ――今度は自分が助けて見せる


 滉一は静かに、そう自分に誓った。


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