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アナタと歩く英雄譚  作者:
第三章
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第十一話 人質と交渉と魔族

 パーティからの帰り、馬車に揺られ取り付けられた窓から外を見る。

 魔道のランプに照らされた屋敷が並び、道を歩いている人はおらず、時々馬車とすれ違う。


 真奈美から何も連絡が無かったことが気がかりだ。

 俺がパーティに付いて行くと知って、今夜は遠慮したと思いたい。

 何もなかったと、連絡がつくまでは祈るしかなかった。


「誰の事をお考えなのですか?」


 顔を前にすると、挑発的な笑みを浮かべるリリアネット。

 本当にこの人は俺の心が読めるようだ、顔に出やすいのか、それとも商人として鍛えた眼力なのか。

 ……後者だろうな、腹の探り合いに関しては妖怪並だと思う。


 でなきゃ、ここまでの財を成すことは出来ないはずだ。


「少し友人のことを」


「あの大魔術師の女の子のこと?」


 マジで妖怪か。


「よく分かりましたね」


「これでも、商人の端くれ。人心は心得ております」


 思わず肩をすくめる。

 ただ、次の言葉には背筋が寒くなった。


「あなたがあの子と何を企んでいるのか……楽しみですわね」


 今までとは違う冷たい笑み。

 まさか、この人……


 何から聞くべきか、そう思った所で馬車が彼女の屋敷へと到着した。

 メイドの人が馬車の扉を開けて、リリアネットの後に続いて降りる。

 そして、側近の男が馬車から降りた彼女に近づき、耳打ちをした。


「分かりました。ソラトさん。思ったよりも早くネズミが釣れたようです」


「ネズミ?」


「ええ。今晩、(わたくし)たちの留守を狙って、賊が屋敷に侵入したそうですわ。今は親衛隊に捕えられ、地下の独房にいるそうです。見に行きましょう」


 まさか……


 ざわつく胸とリリアネットの前後の言葉から考えられる可能性。

 それらを考慮したとき、嫌な予感しかしなかった。

 彼女の後に続き、屋敷へと入り、地下へと続く長い階段を降りる。


 一番下まで降りて、左右に牢屋が並び、さらに奥へと進んでいく。

 壁に掛けられたロウソクが照らす先。

 最奥の最も厳重に閉ざされた鉄の扉を開けると、鎧を着た二人の兵に囲まれ、その人は居た。

 部屋の壁から吊るされた鎖に繋がれ、両腕がバンザイするように伸ばさている。

 意識が無いのか、顔を力なく下に向け、身体中に小さな火傷の跡や擦り傷があった。


「真奈美!」


 捕まった彼女の名前を呼んで、近づこうとした俺を側近の男が前に回り込んで止めた。


「この女は屋敷に侵入した。貴様の知り合いと言えど、親衛隊の貴様が、肩入れするのを見逃すわけにはいかん」


「四の五の言うならぶっ飛ばすぞ」


 胸に入れたホル(ナイフ)を抜こうとした瞬間。男が「やれ」と口にする。

 その言葉が合図となり、真奈美の傍に居る兵士が何やらスイッチらしき物を押した。


「きゃあああああああ!!!!!」


 真奈美の身体が電気に包まれ、蒼白い光を発したと思ったら、彼女が悲痛な叫びをあげた。


「お前らぁ!!」


 足に力を入れ今すぐにでも飛び出そうとした。


「動けば致死量の電流を流すぞ?」


 男の言葉で動きが止まる。

 俺の動きを見て、兵がスイッチから手を離した。

 電流が止まった真奈美の首が、再びグッタリと下を向いた。

 荒い呼吸に合わせて、肩が上下しているから生きている。


 ひとまず安心するが、状況が悪いことに変わりはない。


 交渉するタイミングと思ったのか、リリアネットがゆっくりと歩き、側近の男の横に立つ。


「貴方が屋敷を調べまわしていたことは知っていました。欲しい物があるのなら、言って頂ければ差し上げるつもりです。ですが……これはチャンスと思ったのです」


「チャンス?」


「貴方を我が物にするチャンスです」


 再び冷たい笑みを浮かべたリリアネットは、真奈美に近づき、彼女の顎をクイッと持ちあげた。

 真奈美は電流を流され過ぎて、焦点が合っていない目でリリアネットを睨み返す。


「あなた方は何かしらの方法で連絡を取っていたのでしょう? ならば、(わたくし)がソラトさんに迫れば、焦ったこの女が釣れると思った……そして、この女を貴方は見殺しにはできない……」


 ここまで全部、リリアネット(この女)の掌の上だったってことかよ。

 すべての行動が筒向けであったことに驚き、相手は修羅場を潜り抜けた百戦錬磨の大人だと再確認する。

 向こうの世界じゃ高校生の俺たちの考えなんて、リリアネットの前じゃ悪知恵同然なのか。

 そして、次にリリアネットが何を言うかは大体予想が出来た。

 

 リリアネットは、弱った真奈美に向かって勝ち誇ったかのように、口角を吊り上げる。


「この人は(わたくし)が手に入れるの……小娘が邪魔しないで下さる?」


「あ……あんたなんか……空人が選ぶわけ……ない……」


「分かっていないわね……選ばせるのよ」


 そう呟き、リリアネットは真奈美の耳元へ口を近づけ、何かを呟いた。


「そ……そんな……」


 真奈美の目が大きく見開かれ、その視線で俺を見る。

 あの女……真奈美になんか吹き込みやがったな……


「さて、本題はここから……」


 リリアネットは真奈美の顎から手を離し、再び俺と向き合った。


「察しのよいソラトさんならお分かりだとお思いですが、貴方が(わたくし)をパートナーとして選ばなければ、この女を殺します。奴隷にするってのもいいわね。顔は悪くないし……だけど、主人に従順になるよう調教が必要かしら」


 口端を上げた彼女の表情には、残忍さと冷酷さが見える。

 悪女。そう呼ぶには十分な顔だった。


 どうせそんな事だろうな……今すぐ『神殺し』の力を引き出してこいつらをぶっ飛ばしてもいい。

 でも、そんなことをすればこの場で真奈美が殺される。

 最悪、滉一君らにも魔の手が伸びるかもしれない。

 今この場における返答に、選択の余地は無かった。


「分かりまりました。その申し出を受けます」


 俺の言葉にリリアネットは満足そうな笑みを浮かべ、そして次の瞬間、冷たく言い放った。


「その女を殺しなさい」


 な!?

 驚きと虚を付かれ、一瞬反応が遅れた。

 その一瞬の間に、側近の男が日本刀らしき剣を真奈美に向かって、振り上げていた。

 間に合わない。そう思った瞬間、頑丈な鉄の扉を破り、赤い線が伸びてきた。

 その線は側近の男の腕を貫き、腕を貫けれた男は剣を落とす。


 チャンスは今しかない!


「ホル! 魂の刻印(ルーン)! レベル(ワン)!!」



 ナイフが光を帯びて剣へと姿を変える。

 右手に握った翡翠の剣で、真奈美を拘束している鎖を切った。

 そして、彼女を抱きかかえ、部屋の端まで移動する。


「なんで……誰だ! 邪魔をしたのは!!」


 リリアネットが入り口となる鉄の扉越しに居る、誰かに怒号をあげた。

 中に居る兵、側近の男の視線を鉄の扉に向けられている。

 固い鉄の扉に線が入ったと思うと、ガシャンと音を立てて崩れた。

 いや、崩れたと言うよりは、切られたの方が正しい。


「あらぁ? お邪魔だったかしら?」


 肩を竦めて入って来たのは、ベスドラ。

 何故、魔族の彼女がこんな所に居るのか、色々と突っ込みたくなったけど、何はともあれ助かったことに変わりは無かった。


「貴女は魔族の……」


「ふーん……あなたが絶世の美女とやらね」


 向かい合うリリアネットとベスドラ。

 魔族の侵入に二人の兵と、側近の男が落ちた剣を拾い襲い掛かった。


「早い男は嫌いなの♪ ごめんなさいね♪」


 ベスドラは長く伸びた赤い爪で三人をあっという間に切り裂いた。

 身体が半分になった死体が三人分、床に転がる。

 あまりの一瞬の虐殺に、身体が動かない。


「な、なんで……」


 自分を守る者たちが居なくなったことに恐怖したのか、リリアネットの歯がカタカタと音をたてて震えている。

 ペスドラはそんな彼女にペロっと舌を出して近づく。


「く、来るな! 化け物!!」


 狭い部屋で逃げるには限界がある。

 ベスドラは壁際にリリアネットを追い詰めると、恐怖で尻餅をついた彼女の白い首に赤い爪を当てた。


「私のソラトを物にしようなんて……どの口が言うのぉ? それにあの娘は私が殺すの……ソラトの許可が下りたらだけど♪」


「ひっ……」


 ニコッと笑うベスドラとは対照的に、リリアネットの美しい顔が恐怖で歪む。


「言い残すことはある?」


「た、助けて……」


「い・や♪」


 ベスドラが爪を横に振った。次の瞬間、リリアネットの首が宙に舞い上がり、赤い噴水が天に伸びる。

 美しい顔を失った胴体が、力なく横たわった。


「呆気ないわ」


 ベスドラは長く伸びた爪を元の大きさに戻し、俺たちの方を見た。

 襲ってくると思い、ホル(長剣)を握る右手に力が入る。


「そんな警戒しないで、再会を喜びましょう?」


「一度、殺されかけた相手を警戒しないわけないだろ」


「つれないわぁ。でも、そんな冷たい所も好き!」


 小さくジャンプするベスドラに困惑する。

 結果的に助かったことには、感謝している。

 だけど、目的が分からない。俺たちを助ける意味が。


「あ、そうだ」


 ベスドラが手をポンと叩き、何かを思い出したようだ。


「今から衛兵が来ちゃうの。だから、とりあえず捕まって♪」


 助けに来たのか、捕まえに来たのかどっちだ……


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