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アナタと歩く英雄譚  作者:
第三章
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第九話 潜入調査

 店内で大騒ぎをして、長居することも出来なくなり、とりあえず俺たちは店を出て、近くのカフェらしき店へと向かった。

 通りの往来が見える外の場所に置かれた、円卓の白いテーブルと椅子に三人で座り、適当な飲み物を注文する。

 店員さんがメイド服なのは、こっちの世界では常識なのだろうか。

 それとも、制服として広まっているのかどうか、真奈美とアリュラの間に流れる、一触触発の空気を前にして口に出す勇気は無かった。


 彼女たちから見えない俺の膝上で、ホルがニヤニヤしてこっちを見てくる。

 この店に入るまで間、俺の耳元で「修羅場か!? 修羅場なのか!?」とか言って、興奮しすぎて鼻血を出す始末。

 楽しんでもらうのは勝手だが、修羅場……には巻き込まれていないと思いたい。

 器用に複数の女の子を満足させるような、遊び人スキルがない俺に修羅場なんて、本当の墓場になりかねない。


 それに、実はネナさんと二人で旅をしていて、ベッドに押し倒された。なんてことも彼女たちはまだ知らない。

 言ったら、俺の命がいくらあっても足りないような気がするので、言うことは無い。

 嬉しいはずなのに、悲しいような、複雑な気分である。


「ところで、あんた。あの悪女の誘いを受けるの?」


 真奈美はいつも直球勝負だ。

 それが彼女の良い所でもあるが、アリュラの前で言うと俺に負い目を感じるかもしれない。

 だから、その話は二人の時にして欲しかった。


 一度、言ってしまったからには、誤魔化すことは出来ない。

 それにそもそもアリュラは、どうやって俺が引き取ったのか気になっているはず。

 適当なそれっぽい嘘で流そうと思っていたが、目論見通りにはいきそうになかった。


「受けるつもりはないかなぁ。アリュラも無事、取り戻したし。出来れば関わりたくないね」


 何故か真奈美の表情が険しくなるが、見なかったことにする。


「ねぇ、誘いって? それにソラトはどうやって私を引き取ったの?」


「この街に来る前に、魔王軍の将軍……マンファンだっけ? そいつを倒した腕を見込んで、親衛隊に入れって言われたんだ。で、恩を売りたいからってアリュラをくれた」


 俺の言葉を聞いた二人が、ポカンと言う擬音語がピッタリの顔で見てくる。

 あれ? なにかおかしいこと言ったかな?


「アンタ。あの狼男を倒したの?」


「私も名前しか知らないけど、魔王軍の超主力じゃない。どんな、ルート通ったらそんな奴に会うの?」


 そういえばネナさんが、魔王軍でも一位、二位を争う魔族だとか言っていた。

 確かに強かった、勝てたのは本当に運が良かっだけで、あれが実力や腕だと思ってハードルを上げられたんじゃ、たまったもんじゃない。


「なんか、偶然村に居てさ。ホント、勝てたのは運が良かった」


「前のケルベロスと言い、ベスドラと言い。なんか、憑いているのかしら……」


 真奈美さんが頭を抱えた。


「ま、待って! 最近ギルドで噂されている、『ケルベロス殺しの冒険者』ってのも、ソラトなの!?」


「まぁ、一応。でも、あの時はホントに無我夢中だった」


 あの時は、初めて『神殺し』の力を使い、生まれて初めて誰かを助けるために『力』を求めた。

 今、目の前に居る真奈美を守るために、本当に必死だった。

 ケルベロス殺しなんて言われても、周りの盛り上がり程、俺自身は強くない。

 火事場の馬鹿力と言うやつだ。


「あの時は、わ、私を守るためだったもんね!」


 真奈美が顔を赤くして、俺の黒歴史を掘り返してきた。

 クソ、今思い出しても恥ずかしい。

 非常時であの時の勢いだったとはいえ、女の子の目の前で俺はなんて恥ずかしい発言をしたんだ。

 あんなのは、主人公たちの特権だ。道の端に転がる石ころが言うもんじゃない。


「ふーん。この子を守るためねぇ……」


 アリュラがジト目で睨んでくる。

 もう何を言っても裏目に出る気しかしない。


「でも、ソラトは私を助けるために、この街に来てくれるものね」


「まぁ、最初の頃は俺が助けられたし。無事に助けられてよかったよ」


「最初の頃……?」


 今度はキッと真奈美が睨んできた。

 どっちからも睨まれる俺って……なんか悪いことしたかな?

 そして、膝の上に座るホルが、二人に聞こえない大きさで話しかけてきた。


「両方に『俺の女だから心配するな』って、言えば万事解決です! さぁ、ハーレムへの一歩を踏み出すのです!」


 何が万事解決だ。

 そんなこと言うと、余計に心配事が増えてたまったもんじゃない。

 いつの間にか、互いを視線でけん制し合う彼女たちを余所に、何か俺が炎上しなそうな話題を考える。


「そういえば、真奈美はなんであの屋敷に居たんだ?」


 真奈美は一度目線を上にして、考える。一呼吸おき、アリュラの顔を確認して、再び間を置く、そして俺の顔を見て話し始めた。


「アンタがこのエルフの子を信用しているから、言うけど……迷宮で見つけた球体覚えてる?」


 迷宮内で見つけた緑の濁った球体。

 アクセル周辺の魔物数を増大させた、原因にして魔物を召喚する魔法の核となった物だ。


「もちろん」


「他言無用でお願いしたいんだけど、あの球体の使い方や製造法の書かれた、魔道書があの屋敷の何処かにあるらしくて。それを探しに色々なコネを使って、侵入したんだけど……」


 そこまで言い切って、真奈美は俺に人差し指を向けた。


「何故か俺が居たと」


「そうゆうこと。次どうしようかは今考え中」


 彼女は腕を組んで、上を向いてため息を吐いた。

 なんか、邪魔したようで少し申し訳ない気もするが、それなら俺を無視して任務を遂行すればよかったのでは? 

 と、思うけど声には出さない。


 そんなことを言って、怒りを買えば魔法で消し炭にされる。

 どうするかなぁ……あの球体の調査は彼女に依頼されたことだが、一応関係した身としては放っておくのもどうかと思う。


 それに、魔物が召喚される現象は早急に原因を解明する必要性があった。

 その原因を担っている球体の詳細が、あの屋敷にはある。

 何か手伝えること……待てよ。ようはあの屋敷に潜入できたら後は何とでもなるのなら……


「俺が親衛隊に入って、屋敷を調べればいいんじゃない?」





















「これほど早く、親衛隊への申し出を受けて下さるとは、嬉しく存じます」


「これもお美しい、貴女の頼みとなれば当然のことです」


 俺はリリアネット・マドロラの屋敷で、親衛隊への誘いを受けると返答をしていた。

 昨日と同じ応接室で、ホルと二人でリリアネット・マドロラと向き合う。


「その子が妖精さんね? 可愛らしい女の子ね」


 俺の肩に乗るホルを彼女が指さす。

 ホルは顔を赤くして、頭を下げた。


「は、はい。ソラトさんと旅をしているホルです」


 こいつは前回と同じく、彼女の魔性の気に当てられてしまった。

 いつものノリは微塵も見られない。


「先ほども申し上げたように、今まで通りギルドの依頼は、受けてもらっても構いませんわ。必要な時に(わたくし)の傍に居て、この屋敷で寝泊まりしてもう以外は基本的に自由にして下さいませ」


 親衛隊と言うものは、拘束されると思っていた俺としては、ギルドの依頼を受けてもいいと言うのは意外だった。

 それとも、ギルドへの投資者としての顔がある以上、一応上位冒険者に位置する俺を、個人の都合で拘束するのは具合が悪いのか。


 何はともあれ、タダで寝泊まりする場所を手に入れ、自由な時間が多いので屋敷を調べることは容易そうだ。


「ご期待に添えるよう、頑張ります」


 雇い主との面談を終えて、メイドさんに使う部屋に案内される。

 お金持ちの屋敷らしい、豪華な装飾と、来賓用のソファーとテーブルに、作業をする専用の机まである。

 ベッドも一人で使うには大きめで、部屋にはベランダに繋がる大きな窓が一つある。

 宿でここまでの部屋に泊まるには、いくら出せばいいのか考えると少しため息が出た。


『アンタ。何鼻の下伸ばしてんのよ』


 左の手首に着けている、金色の装飾が施されたブレスレットから声がする。

 声の主は大魔術師の真奈美。


 真ん中の緑色の宝石が、このブレスレットの核となっているらしい。

 真奈美に持っていけと、強く言われたこのブレスレットは、遠く人と会話することが出来る魔法の道具で、かなり高価で貴重品だそうだ。


 そんなもんを渡してどうする気だ……


「伸ばしてない」


『チッ』


 舌打ちが聞こえるとは、結構な感度だった。


『ソラト! 向こうが美人だからって変な気起こさないこと!』


 なんで、アリュラの声まで聞こえるのだろう。

 二人は近くに居るのか……


「……起こさないから任せとけ」


『今の間は何?』


 真奈美のドスの効いた低い声。

 怖い、本人は目の前に居ないから、何もされる心配がないのに恐怖を感じる。

 それに、あんな美女に迫られたら、正直理性を保てる自信は無い。


 潜入。と言うわりに監視されているようで、気分は滅入るだけだった。


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