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アナタと歩く英雄譚  作者:
第三章
33/51

第八話 店では静かに

 まどろみの中で意識が灯る。

 首が痛いのはソファーで寝たせいで、身体が怠いのは二日連続で『神殺し』の力を行使したらだと思う。

 ソファーから出て立ち上がり、肩を鳴らして筋肉を動かす。

 

 あー、思った以上に怠いな……


 やはりホルの能力を最大限引き出す『神殺し』の状態は、人間である俺の身体には相当な負担となるようだ。

 まだ、最低値の段階である『Ⅰ』の状態しか使っていないのに、この負荷だと言うことは、最大値の『Ⅴ』の状態だとどうなるのだろうか。


 なんとなく想像はつく、最悪の場合死ぬとかそんな所だろう。

 でも、魔王や魔族の信仰する『神』とやらの最強クラスを相手にしない限り、使うような場面はそうそう来ないはず。

 それに、ホルの力があれば、『Ⅴ』まで行かなくても、途中の段階で倒せるかもしれない。

 神界が生み出した究極決戦兵器とは、よく言ったものだ。


 ベッドに目をやる。鉄の首輪が外れたアリュラの寝顔とその枕元で専用のベッドで眠るホル。

 呼吸に合わせて肩が小さく上下に動くホル(彼女)を見て、最近思うことがある。


 ――何故、あの神は俺にホルを託したのか


 神すらも殺すことの出来るホルなら、魔王はおろか、魔族たちの『神』すら殺せるだろう。

 むしろその為のホル()だ。

 あの神は俺に「ハーレム主人公」をしてくれと言ったが、神様たちは他の異界人たちにも『神の祝福(ギフト)』を与えて、エーオプノス(この世界)に転生させている。


 もう一度、人生をやり直すには厳しい世界にだ。

 魔物の襲われて死んでいった異界人も居るだろう、魔王軍との戦争で死んだ奴だっているかもしれない。

 神様の慈悲と言うには、あまりに無常だ。

 それとも、神から見れば人間(俺たち)なんて、どうでもいいと言うことか?

 だとしたら、わざわざ力を与えて転生させる意味がない。


 あるとした、何か目的があって、その為に異界人を送り込んでいる……まさかな。

 万能である神が不自由をしていて、人に頼るなんて聞いたことがない。

 それに彼らは不自由をしないから神なのだ。


 意外とホルを与えてくれたのは、偶然と気まぐれだったのかもしれない。

 だとしたら、感謝しないといけない。

 彼女が居なかったら何度死んでいたか分からない、何度他人を見殺しにしていたか分からなかった。


 でも、得た力を勘違いしてはいけない、これは俺の力ではなくホルの力なのだから。


「ン……」


 アリュラがモゾモゾと動き、目を覚ました。

 身体を起こし、まだ眠気が残る瞼こする。そして、首を触り昨夜まで自分のついていた首輪が無いことに気がつき、目を大きく見開いて、こちらを見つめてきた。


「ソラト……首輪は?」


「壊した。アリュラを奴隷に貰う気は無かったし」


「ありがとう……本当にありがとう」


 彼女は深々と頭を下げる。

 そして、事の顛末を教えてくれた。


 とある依頼でウルカグルまでの道中で魔物を狩ることになり、パーティを組んで魔物の討伐に成功。

 そこまでは良かったものの、パーティを組んだ男の中にリリアネット・マドロラの親衛隊が居たらしく、その男が金にモノを言わせてアリュラの行動に不正があったとギルドに報告。

 その後、資格のはく奪として罪人となり奴隷にまで身を落とされた。


「ムカつく野郎だな。ぶっ飛ばしに行く?」


 アリュラが奴隷となる原因をつくった親衛隊の男は、毎日彼女に会いに来るなどの嫌がらせをしていたらしく、商品としてリリアネット・マドロラがアリュラを気に入らなければ、すぐにそいつの手に渡っていたかもしれないとこと。


 危なかった。

 でも、他の男が持っていた場合は、強引に奪っていたかも。

 そうなったら、俺が犯罪者か。


「もういいわ。こうして、ソラトが助けてくれたし、もう関わるのはごめんね」


 彼女がそう言うのならそれでいいのだろう。

 問題は俺がリリアネット・マドロラの誘いをどう断るかだ。

 アリュラを取り戻した以上、親衛隊とやらに入る理由は無い。

 だけど、相手が相手なだけに、ちゃんと断れるのか心配である。


 そんなことを思いながら、ホルを起こして一階の食堂へと向かい、朝食を食べている時、アリュラがまだボロボロの布を着ていることに気が付いた。

 

さすがにこのままじゃちょっとな……


 人前に出るにはあまりにみすぼらしい格好である。

 胸はもともとそうなんだけど。

 

 だから、朝食を食べた後はアリュラの服を買うために宿を出て、露店の多い通りへと向かった。

 広場はかなり人が多く、移動する時は上手く人ごみの間を抜けないといけないほどだ。

 中央には彫刻で装飾の施した噴水もあり、この場所の雰囲気をより開放的にしていた。


「ねぇ、ソラト。ホントにいいの?」


 灰色の外套を身に着けて、横を歩くアリュラが効いて来た。


「なにが?」


「服なんて買ってもらって……」


「いいよ。いいよ。ついでに装備も整えよう。色々とあって、結構お金あるから」


「色々ねー……」


 何故かアリュラはジト目で睨んでくる。

 なにがご不満なんでしょうか。


「一緒に居たあの子は何者? 仲がよろしくなかったけど、知り合い?」


 真奈美の事か。

 あの子は俺が奴隷を買ったと思っているから、もう口を聞いてくれないんだろうなぁ。

 そう思うと少しだけ悲しい。


「知り合いだよ。仲は……そうだな。俺があの子に一方的に嫌われた」


「何したの?」


「色々と」


 アリュラがまたジト目で睨んでくる。

 理由を言わないことは彼女に不信感を募らせるだけだろうか。

 だけど、自分のせいだなんて言えるわけもない。

 だから曖昧に誤魔化し、女性の服が売っている店へと入った。


 女の店員さんにちょっとだけ、驚かれた表情をされたけど、事情を説明するとアリュラを連れて店の奥へと消えた。

 試着やら何やら勝手にしてくれるのだろう。

 アリュラには予算をすでに渡しているので、買い物は勝手に終わる。


 なので、店の内部、入り口の近くに設置された椅子に座り、買い物が終わるのを待つことにした。


「ソラトさん! これをマナミさんにあげて、仲を修復しましょう!」


 ホルが何処から持ってきたのか、黒のパンツを見せてきた。

 確かに似合いそうだけど、そうゆう問題じゃない。


「火に油注いでどうすんだ。悪化するどころか、今度こそ殺される」


「でも、このままじゃ、疎遠になってしまいます! 誤解を解いて、ハーレム要員に加えないと!」


「誰も居ないハーレム要員だけどな」


 ホルは「クソ! 私は諦めない! エロさか!? エロさが足りないのか!?」と言って、下着コーナーに姿を消していった。

 あいつが何を求めているのか全く分からない。

 だけど、楽しそうで何よりだった。


 そんな風にホルの様子を見ていると、店の入り口が開いた。

 

 新しい客か……


 そう思って、店内に入って来た客に目をやる。


「「あ……」」


 入って来たのは真奈美だった。

 普段着なのか、薄いTシャツとショートパンツの姿は何となく新鮮に思えた。

 

 そして、目のあった彼女は俺に舌打ち。

 怖いなぁ、相当怒ってらっしゃる。


「アンタ……ここで何してんの? 女性ものしか売ってないけど?」


「アリュラ……エルフの子の服を買いに来た」


「は? ふざけてんの?」


「大真面目だ」


 笑みを浮かべた俺にとうとう怒りが頂点に達したのか、真奈美は俺の胸蔵掴み、もの凄い力で椅子から立ち上がらせた。


「服でも与えて飼いならそうってか!! こっちの世界とちょっと違う扱いしたら、惚れられるとでも思ってんのか!! どいつもこいつも、反吐が出るわ!!」


 怒号が店内に響き渡り、目じりを吊り上げ、激しく怒る彼女の様に店内の視線が集まる。

 どうやって、この状況を収めようか考えていると、買い物を終えたアリュラが店の奥から走って来た。


「ちょっと! アナタ、ソラトから手を離して!」


 アリュラが俺の胸ぐらを掴む、真奈美の腕を掴んだ。


「あなた、昨日の……あれ? 首輪は?」


 真奈美は昨日まで付いていた、アリュラの首輪が無くなっていることに気が付く。

 奴隷としての証が、無いことに。


「ソラトが外してくれたわ。それに、聞こえていたけど、誤解があるようだから言っておくわ。ソラトは私を助けてくれたの、だからその手を離して」


 アリュラに向けられていた真奈美の顔が俺を向けられる。

 女の子に仲裁に入られ、助けられる俺ってどんだけ情けないんだよ……


「アンタ……この子を助けるためにこの街まで来たの?」


「まぁ……そうなるかな」


 そう答えた俺の胸ぐらを真奈美が離した。

 乱れた首元を整え、真奈美を見ると、小さく頭を下げていた。


「ごめん……で、でも! ちゃんと言わないアンタが悪い!」


「言っても仕方ないだろ。お前には関係ないんだし」


「な!? 関係ないってなによ! 人の唇奪っておいて、ポイ捨てってこと!!」


「ポイ捨てってなんだ!? 俺は環境に優しいリサイクルを推奨する男だぞ!」


「そうゆうことじゃない!」


 真奈美と何時ものように言い争っていると、いつの間にかアリュラがジト目で睨んでいる。


「ねぇ、ソラト。唇奪ったってどうゆうこと?」


「いや……それはその……どうゆうこと、真奈美さん?」


「ここであたし!? てか、呼び名! 『さん』付けはやめて!」


「そんなことより、『意味が知りたかったら、会いに来い』って言ったのは、そっちだろ!」


「あたしじゃなくて、このエルフの子を助けに来て、会ったからダメ!」


「結局、あなた達の関係は何なの?」


 アリュラの言葉に俺たちは口を噤んだ。

 改めて考えると俺たちの関係は何なのだろう……

 同じ冒険者で、同じ世界から来た、それだけなら滉一君たちも一緒だ。

 何が一番適切か……


 それを必死に考えていると、ホルがこの現場に飛び込んできた。


「ソラトさーん! この下着なんか、マナミさんに着せたらエロくないですかぁ!!?」


 この一言で店内の視線が、俺への軽蔑の眼差しに変わったことは言うまでもない。


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