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アナタと歩く英雄譚  作者:
第三章
29/51

第四話 寝過ぎはよくない

「敵襲だーーーー!」


 部屋の外から聞こえる声、同時に悲鳴や爆発音が聞こえる。

 魔物の襲撃なのか、それとも別のモノなのか、詳しいことは分からないが、外ではすでに戦闘が開始されたようだ。


「ご、ごめんなさいっ」


 外の音で平常心を取り戻したのか、ネナさんが俺の上からどいた。


「え、えっと……その……」


「ネナさん。戦闘に巻き込まれる可能性があります。動ける服を着て下さい。外に居るんで」


「は、はいっ」


 まるで何事も無かったかのように振る舞う。

 ベッドから降りると、部屋の外に出て、ドアに背中を預ける。

 さっきのやり取りを思い出す俺の目の前を、慌ただしく冒険者たちが通過していく。

 外での戦闘はそれほどまでに激化しているのだろうか?


 ふとそんな事を思い、さっきの出来事を改めて思い出す。

 なんと答えるべきだったのだろうか、仮に彼女の気持ちを受け入れたとしても、元の世界に帰れば意味はなくなる。

 ならば、曖昧にせずにハッキリと断るべきだったのだろうか。


「入ってきていいですよ」


 部屋の中からするネナさんの声を聞いて、部屋の中へと戻る。

 彼女はギルドの制服である紺色のブレザーと赤いリボンを身に着け、ベッドの上に小さくなって座っていた。


 外の戦闘に参加するべきだろうか、この村には冒険者多く、ウルカグルも近いからそれなりの強さを持った人しか居ないはず。

 並の魔物ではあまり被害を与えることも出来ずに、あっさりと撃退されるのが関の山だ。


「あ、あの……ソラトさん、怒っていますか?」


「いえ、全く。だけど、その話の続きは後にしましょう」


「は、はいっ」


 逃げた。完全に俺は状況に任せて逃げた。

 いつかはハッキリと向き合わないといけない、それは分かっている。

 だけど、今向き合う勇気は無くて……この前、俺に自分の正体を打ち明けたホルのことをちょっとだけ見直した。


 そんなホルはベッドの上で気持ちよさそうに寝ている。

 参戦しようが、自衛しようにも、こいつが起きていないことには、何も始まらない。

 起こす前にベッドに縛り付けた紐を解いていく。


「おい、起きろ」


「うへへ……ソラトさん……そんな所ダメです、やめてくだしぁい……むにゃ」


 どんな夢見てんだこの変態は。

 気味の悪い笑みを浮かべる口の端からは、ヨダレが垂れている。

 一応、女性なのになんともだらしない。


 強制的に起こすため、ベッドを指で弾こうとした時だった。

 何かが部屋の壁を破壊して迫って来る、バキバキと音を立てて砕ける木の壁が迫って来るモノの威力を物語っていた。


 今すぐ部屋から出ないと、巻き込まれる。

 ホルをベッドごと掴み、ネナさんを抱きかかえ、部屋のドアに向かって渾身の力で床を蹴る。

 一瞬の浮遊感の後、ドアを破壊し、背中から廊下の壁に激突した。


「ネナさん、大丈夫ですか?」


「は、はいっ。ソラトさんこそ大丈夫ですか!?」


「こんな事は慣れっこです」


 胸の中で小さくなるネナさんの無事を確認した後、右手に握ったベッドを見ると、ホルはまだ寝ていた。

 こいつどんだけ起きないんだよ……


 顔を上げてさっきまで居た部屋を見る。そこにはすでに部屋は無く、外へと直接繋がっていた。

 そして、こちらを見つめる一つ目の魔物。


「サ、サイロプス……」


 ネナさんが呟く。三階に居る俺たちの位置に目がある巨大な身体と、手に持った棍棒を振る度に起こる凄まじい風と棍棒が当たった建物が木端微塵になるほどの怪力。

 どうして、こんな魔物がこの村に侵入できたんだ?


 普通は遠くから発見されて、早急に討伐されるはずである。

 まさか、ここでも魔物の召喚が?


 一瞬、考えすぐにやめる。サイクロプスが棍棒を振り上げたらだ。

 このままじゃ直撃コースで、受け止めるには巨大すぎる。

 今は避ける以外に選択肢がない。


「ネナさん! 摑まって下さい!」


 俺の首にネナさんの手が絡み、彼女の身体が固定される。

 回避のタイミングを見極めるために、サイクロプスが棍棒を持つ、右腕に注目していると、突然その右腕が切断された。


「無事かな、少年?」


 目の前に着地したのは、広場で武器を売っていた男。

 黒の外套にフードを被り、右手には刀のように反り返った剣が握られていた。


「あんた……」


「銀貨一枚を貰うには、あの情報では少なすぎる。これでチャラだ」


 男がサイクロプスに向かって剣を振ると、緑色の魔力が飛んでいきサイクロプスの首を飛ばした。

 巨大な赤の噴水が天に上り、首が地面に落ちる。

 そして、糸の切れた人形のように、胴が転がった。


 この男は一体……


「少年や。逃げるなら今のうちだぞ」


「は? どうゆうこと?」


「あれを見ろ」


 男は眼下に広がる広場を指さした。

 ネナさんに手を解いてもらい、彼女にホルのベッドを預けて、下が見える限界まで移動する。

 後一歩踏み出せば、三階から落ちるほどの際から見えるのは、インクをぶちまけたような夜空と、その下に広がる殺戮現場。


 無数の冒険者たちの死体が転がる村の中、キャンプファイヤーが燃える広場の中央に身の丈ほどの大剣を手に持つ一人の男。

 暗くて顔や髪の色は分からないが、その男の周りを囲む冒険者たちの様子から、奴が敵だと理解した。


「あの男は?」


「魔王軍の将の一人。マンファン」


「マ、マンファンってあの!?」


 男の言葉にネナさんが驚いた。


「ネナさんは知っているんですか?」


「は、はい。単純な戦闘能力なら、魔王軍の将軍の中で、一位、二位を争うほどの魔族です。ギルドでも魔王軍との戦闘時、彼に多大な被害を受けたことから、Aランク以上の冒険者以外は逃げるように推奨されています」


 化け物じゃねぇか……前回のベスドラといい、なんで旅先で面倒な奴と出会うんだ。


「なんで、そんな化け物がここに?」


「最近は魔王軍にも動きがあったらしく、軍事行動で動いていない魔族も多く確認されている。奴もその一人だ。数日前には街の一つが壊滅したと言う情報もある」


「どうするんだ? あんな化け物、すぐに倒さないとマズいだろ」


「……サイクロプスをこの村に入れたのは奴だ。奴を倒せる程の冒険者はウルガグルに居る、一部だけだろう。このままでは、村は壊滅。ここに居る者は皆殺しだ」


「そ、そんな……なんでこんなことに……」


 ネナさんがポツリと呟く。

 気持ちは分かる。確かに魔物に襲われ死ぬかもしれない世界だ、それでも村一つが壊滅するほどの現場に居合わせるなんて、思ってもいなかった。


「だから。早く逃げろ。命が惜しくばな」


「おっさんは逃げるの?」


「当然だ。今、奴と戦うのは得策ではない。アクセルに居ると噂される「ケルベロス殺し」を敢行した、命知らずの冒険者のようにはなれんな」


 命知らずって……俺はそんな風に言われていたのか……


 利口に考えれば、このおっさんの言う通り逃げた方がいい。

 でも、それじゃ俺が『あの時』力を望んだ意味がないと自分で思った。

 だから、どうするかはすぐに決まった。


「おっさん。俺は今からあいつを倒してくるから、この女の人の傍に居てもらってもいい?」


 ネナさんを指さし、男に頼んでみる。

 男はネナさんを一目見て、再び俺に視線を戻し、ため息を零した。


「少年が死ぬことを彼女が望んでいるとは思えんが?」


「そ、そうです! ソラトさん、今回は相手が悪すぎます! いくらあなたでも……」


 ネナさんが駆け寄って、俺の腕をホルのベッドを持っていない方の手で掴む。

 ギュッと力を入れられて掴まれても決意は変わらない。


「絶対に帰って来る。こんな所で死ぬのはごめんだ」


 彼女の手に持つホルの眠るベッドから、ホルの身体を掴んで引っ張り出す。

 胴体を片手で掴み、前後に激しく揺らした。


「おい! 起きろ! 久しぶりに本格的な出番だぞ!」


「おおう!!? 敵襲じゃ~~~~!!」


 敵襲はとっくに来ているんだと、心の中でツッコム。

 ホルが起きたことを確認して、揺さぶる手を止めて右の肩に乗せた。


「ソラトさん! もっと優しく起こして……って、なんじゃこりゃぁぁあ!!」


 ホルは目の前の全壊した部屋に驚きの声をあげる。

 寝起き草々いいリアクションである。ホントに芸人になれるんじゃないか?

 いや、今はそれどころではない。


「ホル。今からあの男をヤルぞ」


「そ、そっちの趣味に目覚めたんですか!?」


「アホか! 字と意味が違う!」


 こいつはなんでいつも緊張感をぶち壊すんだろう……

 今から戦う相手は魔王軍の将なのに、気合が抜けていきそうだ。


「ジョ、ジョークですよ! 怪我している人はみんなあの男にやられたんですか?」


「そうらしい。相手は魔王軍の将軍だって」


「なるほど! 鉄拳制裁タイムですね!」


「そんな偉そうなもんじゃない。村が壊滅するのが見たくないだけ」


 そう、村が壊滅するのが見たくない。

 誰かを助けるとかそんな大層なもんじゃない、結果的にはそうなるかもしれないけど、本質はもっと我儘な俺の勝手な拘りだ。


 深呼吸を一つして、集中力を高める。

 この世界に来た直後なら迷わず逃げた、何時からだろうか……目の前で起こった事を見逃せなくなったのは……


「行くぞ、ホル。魂の刻印(ルーン)、レベル(ワン)


「よしきた!」


 ホルの光が俺を包み込み、翡翠の魔力が右手に集まる。

 右手の甲に『Ⅰ』の英数字が浮かぶと、魔力が形を成して、翡翠の刀身を持った剣が精製される。

 その剣の黄金の柄をしっかりと握り、一振りすると光が散っていった。


「じゃあ。ネナさんをよろしく」


 俺の言葉に男が頷く、不安そうな目で俺を見つめるネナさんを、出来るだけ安心されるために、精一杯の笑顔を浮かべた。


「行ってきます」


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