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アナタと歩く英雄譚  作者:
第三章
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第一話 風の便りは凶報

 月光に照らされた荒廃した大地に佇む、黒色の煉瓦で造られた巨大な城。

 あらゆる攻撃を防ぐ結界に守られた魔王城の最上階には、魔神を祀る神殿がある。

 そして、その前に置かれた王座の前に座るのは、魔王と呼ばれる男。


 眼鏡越しの黒目が見据える先には、報告を終えたベスドラの姿がある。

 アクセル一帯で行われた、魔物召喚の実験結果は予想外の来訪者により、突然の終わりを告げた。

 万全を期すために神属性でした殺せないケルベロスを護衛に着け、さらに将軍の一人であるベストラまで配置した。


 いずれ来るであろう『異界人たち』との決戦に向けての準備で必要な実験であり、重要な拠点だったからだ。

 それがたった一人の異界人に妨害された。


 その少年は『魔王討伐部隊』の一員でもなければ、ギルドの『上位冒険者』でもない。

 戦場で姿を見たこともない、全くの無名だった。

 そんな一人の『異質』な少年。


 興味がないと言えば嘘になる。


「ねぇ、魔王様。私たちとって、あの子が障害になるってのは、分かっているわ。でも、私はあの子も自分の物にしたいのよ」


 ベスドラの提案に魔王である男は目を閉じ、黒髪を揺らして考える。

 王都の戦力、ギルドの持ち駒、こちらの目的……それを考慮し結論が出たのか、目をスウッと開けた。


「分かった。出来るのならやってみていいよ。我が軍門に下るのであればそれが一番楽だ」


「さすが、新しい魔王様は物分かりがいいわ」


 ベスドラは踵を返し、軽やかな足取りで去って行った。

 残されたのは魔王と呼ばれる男と、この場所に居る魔神と呼ばれる神。


『殺さなくてよいのか?』


 男性にしても低く、威厳に満ち、対峙したものに恐怖を抱かせる声。

 頭に直接響くその声は、魔族たちから神と崇められ、神界では『堕ちた神』と呼ばれる一体の神のモノだ。


「ケルベロスを殺せる異界人がいるのは想定外でした。今はその少年が我々の探し求める『当たり』なのか、見極めるべきです」


『もしそうだった場合は?』


「どんな手を使ってでも手に入れます。あなたが再び神界へと出向き、復讐するために必要な『兵器』ですから」


『貴様には期待しておるぞ。同胞を裏切り、前魔王を殺し、我が軍についた貴様をな』


「お任せ下さい。必ずや手に入れて見せます、我々の探し求める物……」


 ――『神殺し』を……ね。
















「教官ありがとうございました!」


「おう。お疲れさん」


 ギルドの入り口の前で、あまり歳の変わらない少年に頭を下げられ、少しだけ困惑するが一応ギルドランクは俺の方が上と言う手前、余裕のふりをして返事をする。

 Dランク昇格試験の教官。教官と言っても魔物を狩る所を見ているだけで、危なくなったら助けに入るという内容なので、今までとあんまり変わりない。

 合格かどうかの報告をするのが結構めんどうなんだけど……これも、与えられた仕事と言うことで割り切っていた。


「今度、一緒に魔物を狩りに行きましょうね!」


「俺が参加してよさそうな依頼があったらな」


 頬を掻きながらそう応え、「お疲れ様です!」と言って、去っていく少年の背中を見送る。

 真奈美たちが『ウルカグル』へと、『特命クエスト』の関係もあり帰還した後、改めてアクセルのギルドマスターに呼び出された。

 内容は俺のBランクへの昇格に関することでだ。


 ケルベロスを倒したこと、倒せなくとも魔王軍の将軍を撃退した功績が評価されたらしく、ギルドマスターの爺さんは嬉しそうにそう語ってくれた。

 すでに『ウルカグル』にあるギルド本部では、「いつこっちに来るんだ」と気にしているギルドの役員も居るらしく、ケルベロス討伐の噂は大分遠くまで届いているようだ。


 そろそろ大きな都市に、拠点を移動しようと考えていたが、今の状態で行けば厄介事に巻き込まれる予感しかしない。

 腰を据えて、元の世界に帰る方法を探したいと思っているのに、それでは遠回りになってしまう。

 それで踏ん切りがつかず、駆け出し冒険者が多いアクセル(この街)に留まっている。


「そろそろ何か事件が起きないですかねー」


 右の肩に乗るホルが物騒なことを言う。

 オーガの討伐から迷宮に入るまでが異常なだけで、今の状態が普通だと信じたい。

 厄病神にでも憑かれてないよな……もし、そうだとしたらどこに行けば祓ってくれるのだろうか。


「厄介事は勘弁だ。事件が起きるなら俺の目の届かない、関係のない所で起こることを祈る」


「多分、無理だと思います。ソラトさんって、巻き込まれるタイプの人だと思うんですよ」


「それは主人公たちの特権だ」


 ただでさえ道端の石ころのなのに、厄介事に巻き込まれるなんて不遇すぎる。

 巻き込まれるのなら、ちゃんとしたハーレムをする属性とまでは言わないが、ヒロインが付き添う属性は追加して欲しい。


 ギルド建物に入ると、屈強な男たちの視線が少しだけ向けられた。

 彼らがケルベロス討伐の件に関して、どこまで噂で聞いているかは知らない。

 仮に知らないとしても、この街でBランクの冒険者は目立つ。

 この街にCランク以上の冒険者いることは稀で、普通はより大きな町を目指して旅を始めるからだ。


 出来るだけ目立つことは避けたかったのに、どうしてこうなったのか、考えるだけで最近は頭が痛い。

 周りの視線を無視して、依頼の結果を報告するカウンターへと向かう。

 通常の依頼と違って、Dランク昇格試験に関する報告は別枠で設けられている。

 そこの職員さんが俺の顔を確認すると、ネナさんを呼んでくれた。


 最近は努力のかいもあって、字を読むことが出来るようになった。

 書いてあることの大体が分かるだけで、細かいニュアンスなどは分からない程度に。

 ただし、文を書くことはまだ無理で、受験者の書類提出を求められる、Dランク昇格試験の報告書はいつもネナさんに書いてもらっている。


「お、遅くなってすいませんっ。今日もご苦労様です!」


 毛先まで手入れのいき届いた銀色の髪を揺らし走って来た、彼女の頭につく猫耳がピコピコと動いて目線を奪われる。

 いつか触ってみたいと思うのは、肩の上でシャドーボクシングを始めたホルも同じ気持ちなのだろう。


「じゃあ。行きましょうか」


 ネナさんに連れられ、ギルドの奥にある階段を上り、二階の一室へと向かった。

 報告書を書いてもらう時は、決まってその場所だった。











「じゃあ。今回の人も昇格と言うことで」


「それでいいと思います。立ち回りとか、少し教えただけで凄く上手でしたから」


「分かりました」


 円形テーブルの向かいに座るネナさんが、手を動かし報告書にまとめの文を書く。

 テーブルの上に寝ころぶホルが「字が綺麗ですねー」とか言って、暇そうにしていた。

 今回も武器化したとはいえ、俺はそれを持っていただけで実際に使うことは無かった。


 因みにもうBランク冒険者として目立っているため、ホルの武器化はあまり隠さず普通に人前で使っている。

 この街が異界人に馴染みがないだけで、大きな街にでも行って、チートと言い張れば案外普通なのかもしれないと思い始めたからだ。


 それにBランクに上がって以降、依頼の紙が貼ってある掲示板の前に立っていると、周りの視線が突き刺さる。

 一応空気を読んで掲示板の依頼を避け、昇格試験の教官という仕事でお金を稼いでいるせいでホルの仕事は少ない。

 さっきの事件がどうこうの発言も、久しぶりに仕事が欲しいと言う意味もこめて言っているだけと信じたい。


 ……こいつの場合、本当に思ってそうで怖いけど……


「俺が教官として判断しても大丈夫なんですかね……」


 Dランクからは魔物討伐関連の依頼が解禁となり、もちろん命を落とす確率はEランクだった時よりもグンと上がる。

 魔物と戦う実力が足りていないのなら、落とすことも優しさだと思う。

 それに自分が監督を務めた冒険者が、後になって死んだとあれば、目覚めが悪すぎる。


「ソラトさんの評判はいいですよ? 受験者からもギルド内部からも」


「マジですか……」


「はい。何故かソラトさんが監督を務めた冒険者の人たちって、怪我が少なくて依頼の達成率がものすごく高いんですよ。それがEランク冒険者たちの間で噂になって、最近じゃソラトさんがいいって言う人も居るくらいです」


 アレだろうな……死なないように身体の動かし方や戦い方を俺なりに考えてきた。

 それをEランク冒険者たちに惜しみなく伝えている、彼らがあっという間にそれらを習得することは少しだけショックだけど……

 そのせいで怪我する率が減って、結果的に依頼の成功率が上がっているのだろう。


 怪我せずに、生きて帰るが土台となった考え方だから結果がそうなる。

 なんにせよ、この世界に来てから得た経験が役に立っているのなら何よりだ。


「……ソラトさん。実は一つ伝えておきたいことがあります」


 報告書を書き終えたネナさんが神妙な面持ちで呟いた。

 俺にとって悪い話……だよなぁ。


 と言っても、すぐに何かを思いつくわけもなく、黙って彼女の言葉を待つことにする。


「アリュラ……と言うエルフの女性をご存知ですよね?」


「はい。色々とお世話になったので」


 そう言えば最近、アリュラの姿を見ない。

 Cランクの彼女の事だから、何処か別の街に居るのだろうか?

 それに今思えば、俺は彼女よりランクが上になってしまったのか。


「実は……彼女が不当な罪に問われ、奴隷として買われたそうです」


「は?」


 あまりの事態に頭がついていかない。

 アリュラが奴隷として買われた? しかも、不当な罪に問われて?


「どうゆうことですか?」


「詳しいことは分かりませんが、とある富豪の中にエルフの奴隷を集めることを趣味に持つ方がいるそうです。その人が買ったとしか……」


 だからって、力づくでアリュラを奴隷にするなんて、度が過ぎているだろう。


「その富豪が居る場所は分かりますか?」


「ギルド本部のある街、ウルカグルです」


 あの街か……来れば厄介事は遠慮したかったけど、早々に行くことになりそうだ。


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