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アナタと歩く英雄譚  作者:
第二章
25/51

第十四話 それぞれの気持ち


 途中で村を経由し、ミスオンに帰還したのは地上が闇に閉ざされてからだった。

迷宮調査の結果は、人の顔くらいの大きさをした濁った緑色の球体。

 俺が意識を失った後、迷宮内で見つけたらしい。


 真奈美が言うには、これが魔物を召喚するための道具で、魔力の流れを感じるとのこと。

 ただし使い方はもちろん、何で造られているかは分からず、詳しく調査するために大きな都市に持っていく必要がある。


 このことをギルドマスターの屋敷に帰った後、直接報告すると一度『特命クエスト』はクリアと言う形で後日報酬を渡すと言われた。

 そして、俺を除いた三人に改めて『不明物資の運搬』の特命クエストが依頼され、これを三人が受諾、ミスオンからギルド本部のある大都市『ウルカグル』への帰還が決定した。


 これでこのパーティも解散で、ようやく本物のチート持ちから解放され、危ないことに巻き込まれる心配がないと安心する反面、少し寂しい気持ちにもなる。


 用意された部屋のベッドから外を眺めそんなことを思う。

 先ほどから降り始めた激しい雨は、暗闇の中でも白く見える。


 視線を下げると、ベッドの上には神妙な面持ちで正座をするホルの姿。

 こいつなりに、今から俺に重大な話があるそうだ。

 内容の察しは大体つく、ケルベロスを殺したとき現れた『Ⅰ』の刻印に関することだろう。


 二人っきりになれば、どのみち聞くつもりだったので、何故ホルがそんな表情をしているのか分からなかった。

 もしかして、あの力は使ってはいけないものだったのだろうか。


「とりあえずだ、ホル。このスキルについて説明してくれ」


 ステータスを開いて、とあるスキルを指さした。


============================


名前:ソラト・アイバ

種族:人間

レベル:55

SP: 153


ギルドランク:C


筋力:312

生命:282

敏捷:304

器用:280

魔力:297


スキル

相思相愛:《ユニーク》

魂の刻印:《Ⅰ~Ⅴ》

剣術:《5》

弓術:《4》

槍術:《4》

火魔法:《2》

詠唱破棄:《1》

生活魔法:《1》

索敵:《4》


============================


 ケルベロスを殺したせいか、レベルが大幅に上がっていた、かなり溜まったSPの使い道は後で考えるとして、一番の疑問は新たに現れた『魂の刻印』のスキルだ。

 しかも、スキルLvは『Ⅰ~Ⅴ』の変動制になっている。

 ユニークでもない、この謎のスキルはタップしても説明が出てこなかった。


「そのスキル、『魂の刻印(ルーン)』はソラトさんと私の間に、契約がされたことを示しています」


 グッと顔を上げ、いつもは見せない真剣な表情。

 それでいて、今にも崩れそうで儚い表情。

 聞くべきか聞かないべきか、俺と彼女の間になされた契約について。


「言いたくないことなら言わなくていいぞ。このスキルの使い方さえ教えてくれればそれで大丈夫」


「いえ……私は伝えないといけない……伝える義務があるんです。もし、この話を聞いた後、ソラトさんが私から離れて行っても構いません。すべて受け入れます」


 言いたくないことだから、今にも泣きだしそうな顔をしているくせに、彼女の決意は固く、何を言っても意味が無さそうだった。

 彼女の瞳をジッと見つめて、その時を待つ。

 沈黙の会話がなされて刹那、彼女が口をゆっくりと開いた。


「私の本当の正体は……正体は、『神殺し』と言われる神界で生み出された、究極決戦兵器です。万物の物質、生物を壊し、破壊する……それは神も例外ではありません。そして、魂の刻印(そのスキル)はソラトさんが私の使用者となった証です」


「………で?」


「ええ!? そ、その……ソラトさんは神すら殺せる私の使用者となったんです!」


「それは今の説明で分かったけど……そんな泣きそうな顔してそれだけ?」


 正座を崩しアタフタし始めるホルを見て、ため息が出てしまう。

 こいつは俺に本気で捨てられると思っていたのだろうか?

 仮に俺にとって、どんなに受け入れがたい話だとしてもホルを捨ててこの世界を生き抜くことは出来ない。


 それにこいつは捨てられるかもしれないと思いながらも、あの時俺に力を貸してくれた。

 誰かを守れる力を望んだ俺に。


 この世界で生き抜くため、目の前の人を守るためにホルの力は必要不可欠で、居てくれないと困る存在だ。

 それを捨てるなどありえない話である。


「だ、だって……怖くないですか? すべてを破壊できるんですよ……? そのせいで……うっ、ひっく……ずっと……独りで……」


 両手で顔を覆い、とうとう泣き出してしまった。


 そうか、そうゆうことか。

 神界の住む神様とかは、『殺される』という概念が希薄なのだろう。

 そんな彼らからホルを見れば、『自分たちを殺せる』と言うだけ恐怖の対象となる。


 こいつはきっと、神界では誰からも疎まれ、相手にしてもらえなかった。

 だから、正体を明かせば俺が彼らと同じように恐怖を抱くかもしれないと思い、ずっと言い出せなかった。

 これはハッキリ言っておく必要があるよなぁ……


「いいか。俺がこの世界で生き残れているのは、ホルのおかげだ。そして、これからも生きていく為にお前の力が居る。それに……俺のチートが効かないお前は、この世界で信用できる数少ないうちの一人だ。だから……」



「だから……なんですか……?」


 チラッと上目遣いでこちらを見てくる、この変態妖精にドキッとする日が来るとは思わなかった。

 クソ……なんか、言うのが無茶苦茶恥ずかしい。

 かと言って、言いかけた言葉を引っ込めることも出来ず、勢いで言葉を放つ。


「何があっても一緒だ。運命共同体ってやつだな」


「じゃあ……ハーレムしてください」


 緊張感が台無しである。

 そして、それに対する返答も決まっている。


「……それは聞けないな」


「この流れは女の子のお願いを聞く流れじゃないですかぁ!」


「知るか! お前はなんで俺をハーレムの渦中に放り込もうとするんだ!」


「その方がソラトさんと一緒に居られると思うからです!」


「は? お前、それって……」


 下手すれば告白とも取れる発言に気が付いたのか、顔を赤くしたホルが自分のベッドに逃げ込んだ。


「か、勘違いしないでください!! この旅が長く続けばいいと思っただけです!! わ、私は神界に帰るのは嫌なんですから!」


 言い訳なのか、事実なのか、もう俺には何がなんだか分からない。

 混乱した頭を抱えていると、ドアがノックされた。


「私だけど、今大丈夫?」


 ドア越しの声は真奈美だった。

 こんな夜遅くにどんな用事だろうか。


「どうぞ。カギは開いているよ」


 ゆっくりとドアを開けて入って来たのは、真奈美とその横で顔を下にした千佳ちゃん。

 こんな遅い時間に二人で来るなんて、余計にどんな用事なのか分からなくなる。


「ほら千佳」


 真奈美に促され、千佳ちゃんが前に出て来る。

 千佳ちゃんが俺に用事? 何があったのか全く分からない。


「あ、あの! ごめんなさい!」


 ものすごい勢いで頭を避けられた。

 年下の女の子に頭を下げさしている、この構図はどうなのだろうか。


「千佳があんたに『嘘つき』って、言ったこと気にしていて、謝りに来たの」


 真奈美の説明で迷宮内でのやり取りを思い出す。

 確かに最初はケルベロスから逃げるつもりだったから、力づくで千佳ちゃんたちを連れ出そうとした。

 その時に「嘘つき」と言われたような気がする。

 あんなやり取り、全員無事に脱出できた今となっては、忘れていたことだが、千佳ちゃんはずっと気にしていたらしい。


「それなら気にしなくていいよ。みんなで脱出できたんだから」


「で、でも……私ソラトさんにヒドイこと言っちゃって……だから、ごめんなんさい!」


 俺が何を言っても千佳ちゃんは顔を上げそうにない、どうしたいいか困った俺を察して、真奈美が千佳ちゃんに声をかけた。


「千佳。空人もいいって言っているし、夜も遅いから部屋に戻りなさい。後は私が話しておくから」


 真奈美に促された千佳ちゃんは部屋を出るとき、もう一度俺に頭を下げていった。

 そんなに気にしなくていいのに。


「あの子、結構そうゆうこと気にしちゃうから。『ウルカグル』に帰る前にどうしても謝りたいって、譲らなくて」


「姉妹揃って頑固なんだなぁ」


「何か言った?」


 ギロッと睨まれ、背筋に冷たい汗が流れる。

 膝枕をしてもらって調子に乗っていた、異界人である彼女には俺のチートは効かず、俺が彼女の事を優しい人だと思っても、向こうからの評価は何も変わらない。

 まぁ、それが普通だし問題ない。


「あんたは『ウルカグル』には来ないの?」


「いつかは行きたいと思ってる」


 元の世界に帰るためには多くの情報が居る。

 ホルとの契約でちょっとのことでは一人でも死ななそうだ。

 別の街をめざし、旅を始めても大丈夫だろうし、情報を得るために大きな都市に行くのは必須だと思っていた。


「そう。なら、来た時は私たちを訪ねてね」


「えぇー、厄介ごとに巻き込まれないと確信があるのなら」


「訪・ね・な・さ・い」


 顔をグイッと近づけて、威圧してくる彼女の言葉を否定できる度胸もなく、弱い声で答えた。


「善処します……」


「よろしい♪ 楽しみにしているわ」


 ニコッと微笑んだ彼女は、少し離れて俺の顔をジッと見つめてくる。


「な、なんだよ?」


「……前髪にゴミがついてる。とってあげるから目をつぶって動かないで」


 どの道選択肢がなく、言われたとおりに目を閉じる。

 何か、痛いことされたらどうしようと思い、密かに腹筋に力を入れていた、俺を襲ったのは唇への柔らかい感触。


 驚いて目を開ける頃には、彼女の顔は離れていた。

 い、今のって……


「意味が知りたかったら、また会いに来てよね!」


 彼女はそう言って駆け足で部屋から出ていった。

 とりあえず、半開きのドアを閉めてもう一度、あの感触を思い出す。

 夢のような出来事に思わず頬が緩んでしまう。


「ハーレムも悪くないと思いません?」


 いつの間にかホルがベッドから顔を出していた。

 悪人の如き笑みを浮かべたホルにすべてを悟る。

 こいつは全部見てやがった。


 調子に乗った変態妖精にお仕置きの意味を込めて、以前買っておいた紐でベッドに縛り付けた。


「DVや!! 裁判や!!」


 とか言って、夜通し騒いでいたホルのせいで、次の日は寝不足だった。


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