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アナタと歩く英雄譚  作者:
第二章
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第十二話 決意の光


 目の前に現れた石の壁をホル(長剣)で切り裂く、人ひとり分くらいの大きさに空いた穴を潜ると、滉一君と真奈美さんの姿があった。

 そして、彼らと戦う二つの『生物』。


 滉一君と戦うのは、像ほどの大きさをした三つの首を持つ犬で、聖剣による攻撃をいくら受けてもダメージが見られない。

 そして真奈美さんと戦うのは人の姿をした、グラマーなお姉さん。

 背中からはコウモリのような羽が生えており、空を飛んで真奈美さんの魔法攻撃を避けていた。


 おいおい、なんだこの生物たち。


 本物のチートを持つ二人と互角以上の戦いをする『敵』に戦慄する。

 どちらに加勢すべきか、それとも加勢すらするべきでは無いのか、考えているとテリーが話しかけてきた。


「小僧、貴様はコーイチに加勢しろ。我々ではケルベロスを殺すことは出来ん。早急に魔族を殺し、この場所を離脱する必要がある、我とマナミで魔族を殺す。貴様は時間稼ぎだ」


 あの女は魔族なのか……

 魔族。人よりも魔力、魔法に関する知能が高く、魔王が治める地域に住む人型の生命体。

 魔王軍の主力も魔族だって、ギルドマスターの爺さんが言っていたような気がする。

 

 そして、三つの首を持つ犬はケルベロスで殺すことはできないらしい、理由が気になる所だが、今はそんなことを聞いている場合ではない。


「分かった。千佳ちゃんは後ろで見ていて」


「は、はい!」


 千佳ちゃんがテリーから降りて、部屋の隅に移動する。

 そのことを確認してから、テリーが俺を乗せたままケルベロスに接近し、背中から飛んだ。

 ケルベロスの頭上から落下する形で近づき、魔法を発動する。

 

「『制裁者よ、汝の命、我が刃となりその命を燃やせ』、フレイム・エンチャット!」


 火属性付加の魔法を発動させ、武器の威力を上げる。


「ホル! 二連攻撃(セカンドストライク)、六の型!」


 合図と同時に右手に持った長剣が光を放ち、弓へと姿を変える。

 火の魔法で造られた矢を構え、ケルベロスの真ん中の頭に向かって放つ。

 直撃した矢が爆発し、ケルベロスの頭が火に包まれる、そこでようやく俺に気が付いたのか、残り二つの顔が向けられた。


「二撃!」


 (ホル)が再び光を放ち、槍に姿を変える。

 狙いを真ん中の頭の一点に絞り、魔法で威力が格段に上がった槍で突き刺した。

 しかし、皮膚は驚くほど固く、少しも突き刺さらない。


「マジか!」


 このままではケルベロスの攻撃をくらう、ケルベロスの頭から後ろへ飛び下り、滉一君の隣に着地する。


「ソラトお兄ちゃん! 大丈夫!?」


「手がしびれた」


 右手をブラブラと振って痺れを取る。

 まるで高硬度の金属にでも弾かれたような感触だ。

 魔王軍のオーガを貫いた時と同じ方法では、ダメージを与えられそうになかった。


 少し離れた場所でテリーが真奈美さんと合流している。

 これで俺たちの戦力は整った、あとはどうやってこの状況を切り抜けるのか。


ケルベロス(こいつ)って、ホントに殺せないの?」


「神属性の武器がないと無理なんだよ。僕の聖剣には付属してない」


「ホルは神属性の武器になることは出来ないのか?」


『……無理ですね』


「どうしたもんか……」


 殺せないわけではないが、俺たちの今の装備では殺せない。

 この魔物を操っているのが、あの女の魔族だとしたら、テリーが言うようにあの魔族を始末することが最優先だ。

 あの魔族は真奈美さんたちに任せるとして、問題はどうやって時間を稼ぐかだな。


 俺が後衛から弓で気を散らして、滉一君が隙を見て近距離で仕掛ける……これぐらいしか思い浮かばない。

 次の手をどうするか考えていると、女の魔族が俺に気が付いた。


「あらら? あんな子、あなた達のパーティには居たかしら?」


 よそ見、そう取れる行動に隙があるように思えた。


「どーも、新入りです!」


 詠唱破棄でファイヤーボールを発動させ、魔族の女に投げつけた。

 魔族の女は鼻を鳴らすと、長く伸びた赤い爪で火球を切り裂く。


「こんな初級魔法で魔王軍の将の一人である、このベスドラを倒すなんて、生意気な坊やね」


 魔王軍の将って嘘だろ……そんな化け物と出会うなんて想定外だぞ。

 ベスドラと名乗る魔王軍の将は空を飛びながら、俺たちを眺め、満足そうな笑みを浮かべた。


「その白いワンちゃんが居るってことは、全員揃ったようね……トラップ発動」


 言葉が合図となって、部屋の床が急速に緑色に輝きを増す。

 それに比例して身体に異常が出る、手足が鉛をつけたように重く、上手く動かすことが出来ない。

 まさか、この部屋自体に罠を仕掛けていたのか……


 動きが鈍くなったのは、俺だけではなく滉一君たちも同じようだ。

少しずつなら動けるが、戦闘なんて到底不可能でこのままでは間違いなく殺される。

 どうする!? 何かいい手は?


 必死に頭を回転させ考えるが俺の手札ではどうすることも出来ない。

 そんな俺を真奈美さんが呼んだ。


「空人! 二人を連れて逃げて!」


 そう言った真奈美さんは自分に魔法をかけて、この重力を相殺した。

 動きが鈍い俺たちとは違い、普段の動きを取り戻していた。


「アハハ!! さすが大魔術師様♪ 同質の魔法をかけながら動くなんて!!」


 ベスドラが声高く笑い、ケルベロスを近くに呼んだ。

 そして、長く伸びた赤い爪を小さな舌でなめる。


「でも、その状態で私たちの攻撃を防げるかしら? それに私、あなたのこと嫌いだから苦しませて殺して、あ・げ・る♪」


「あんたのその顔、性格と同じように醜くしてやるわ。かかって来なさい!!」


 真奈美さんの挑発に乗った、ベスドラとケルベロスが彼女に襲い掛かる。

 魔法かけながらの戦闘はかなりの負担で、基本的に中遠距離からの魔法を得意とする真奈美さんは接近を許すとかなり脆い。

 今のままでは二体の波状攻撃にいずれ接近を許すことになる。


 勝てるわけがない。


 それは分かる、だけど彼女の覚悟を無駄にするわけにいかず、俺は重い身体を動かし滉一君の手を引いた。


「ソラトお兄ちゃん!!? このままじゃ真奈美お姉ちゃんが!」


「分かってる。だけど、今は俺について来い」


 暴れる彼の手を引いて、部屋の隅で丸くなる千佳ちゃんに声をかける。

 彼女は俺を目上げ、何かを訴えていた。

 何が言いたいのか、それは分かっている。

 けれど……今は……


「千佳ちゃん。この場所から離脱する。テリーを呼び戻してくれ」


 彼女は首を横に振る。


「い、嫌です! お姉ちゃんを置いて行くことなんて……私には出来ません!」


「早くするんだ。逃げるなら、真奈美さんが敵を引き付けている今しかない」


「絶対に嫌です! お姉ちゃんを守ってくれるんじゃないんですか!!? 約束したのに置いていくんですか!! この嘘つきぃぃい!!!」


 泣きじゃくる千佳ちゃんの声を押さえつけるように、声を出した。


「いいから俺に従え! 真奈美さんの覚悟を無駄にする気か!!」


 俺の怒鳴り声に黙った千佳ちゃんは、怯えた目で見つめてくる。

 情けないと自分でも思う、約束の一つも守れない情けない男だと。

 だけど今、真奈美さんの覚悟を無駄にすることは出来ない、俺のするべきことはこの二人を連れて無事に離脱すること。


 俺の怒鳴り声に状況を理解した滉一君はもう暴れずに、大人しくなった。

 固く握った拳から血が流れ、彼が今どれくらい悔しい想いをしているかを表している。

 彼だって、本当は今すぐにでも飛び出したいと思っていた。


「分かりました……テリーを呼び戻します……」


 千佳ちゃんは消えるとか思うほどの小さな声でそう言うと、手に魔力を集め光の球体を生み出す。

 その球体から、子犬ほどの大きさに戻したテリーを真奈美さんの近くから呼び出し、ギュッと抱きかかえた。


「恨むなら、俺を恨んでくれ」


 そう言うだけで精一杯だった。

 俺にもっと力があれば、何があろうとも誰であろうと救ってみせる、主人公(彼ら)のような絶対的な力がれば、この子たちにこんな悲しい顔、させることだってないのに。


「アハハ!! どうしたのもう終わり!!?」


 ベスドラの声で振り返る。

 そこには杖を持った右手の肩を抑え、すでに満身創痍の真奈美さん。

 もう長くは持たない、今すぐ助けに行かない限りは。


「空人」


 いつもきつい口調の彼女からは想像も出来ないくらい、優しい声だった。


「ありがとう」


 こちらからは背中しか見えないから、彼女が今どんな顔をしているのか分からない。

 でもきっと、笑みを浮かべているんだろう……


 クソ、なんで俺は……こんなに情けないんだ。

 

 助けに行きたい、死なせたくない、だけど力が足りない。

 自分が死なないことが最優先のくせに、他人の死が迫っていることは見逃せない。

 中途半端だ、それは前から分かっている。


 でも、目の前で人が死ぬ所なんて、誰も見たくないだろう。

 お願いだ、誰か俺に力をくれ。

 降りかかる災厄を振り払えるほどの力を、目の前の人を守れるだけの力を……誰か……誰か……


『ソラトさん……マナミさんを助けたいですか?』


 左手に握った(ホル)が聞いて来た。


「当たり前のこと聞くな」


 助けることが出来るのなら、助けに行きたい。

 だけど俺にはそれをするだけの力がない。


『なら……私が力を貸しますよ』


 ホルがそう呟き、(ホル)が輝きを増して、光が俺を包み込んだ。

 優しく、暖かい光は彼女自身なのだろうか、さらに輝きをました光が視界を白に染める。

 そして、光の中で彼女の声がした。


 ――あなたに……力を……


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