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アナタと歩く英雄譚  作者:
第二章
20/51

第九話 迷宮突入


 迷宮。RPGで分かりやすく言えば、ダンジョンと言う類の物になるのだろう。

 規模の大きさに差はあれど、基本は同じである。

 地下へと多層に分かれ、内部は迷宮独特の特殊な魔力に侵された魔物たちで溢れている。


 そして、地下深くに潜っていけば行くほど魔物たちの強さは上がり、その数は減ってゆく。

 深くに潜るには相当の危険が伴うが、それ相応の見返りも当然ながらある。


 迷宮の魔物からは希少な素材が採れる。迷宮の深くになればなるほど、そこの魔物は迷宮特有の魔物となり、地上で見ることは叶わなくなる。

 つまり、その素材で作られた武器はその迷宮に潜った証でもある。


 さらに、かつてその迷宮に挑んだ冒険者たちの装備が、魔力に浸食され変貌することもあり、特殊な装備が手に入る。

 それらを売ればかなりの金に換えることもできるので、迷宮攻略を専門にする冒険者もあるとか。

 それらをコレクションにして集めているお金持ちも多数存在する。


 宝の山にして夢の詰まった迷宮。

 そして、多くの命を飲み込んできた墓場。

 そんな場所に今から飛び込もうとしている。

 今更ながら、胃がキリキリと締め付けられる。


 日が昇ってすぐに村を出発し、樹齢数百年はあろうかという巨大な木々に囲まれた森の中を歩くこと数時間、迷宮の入り口にたどり着いた。

 山の壁に空いた、人工的な手が加えられた石で造られた穴。

人ひとりが入れるほどの大きさをした、その穴からは不気味な空気が放出されている。


「じゃあ、もう一度確認よ」


 タイトな黒いローブ、手には魔法補助となる杖を持った真奈美さんが今回の目的を説明する。


「おそらく迷宮の内部にある、今回の魔物発生の原因を突き止めることが目標。ただし、外れの可能性もあるので絶対に無理はせず、4人で固まって行動すること。今回は迷宮攻略が目的ではないから全員それを頭に入れておいて。絶対に生きて帰ってくる。それが最優先よ」


「りょーかい」


「が、頑張ろうね。テリー」


「わう!」


「グフフ。ソラトさん。暗闇はチャンスですぜぇ」


 何がチャンスなのか俺には理解できない。

 それにそんな余裕があるのなら、俺は胃がこんなにキリキリするはずもなく、そんなことを考えるホルの余裕を分けてもらいたいほどだ。


「空人。ちゃんと聞いてた?」


 一人だけ返事のない俺を真奈美さんがギロッと睨む。


「おう。バッチリだ」


 親指を立てて答えた俺に真奈美さんはため息を漏らすと、背中の杖を手に取った。


「じゃあ、行くわよ」


 俺を先頭に千佳ちゃん、滉一君、真奈美さんの順に迷宮へと侵入する。

 腰につけた光の強いランプに照らされた石の壁が浮かび上がり、怪しい空気が立ち込める。

 数十メートル先まで今は見えるが、迷宮はさらに奥へと続いていた。


「ホル。武器化してくれ」


「了解です」


 ホルが光を放ち、弓へと姿を変える。

 それを手に取ると、索敵スキルを発動させた。


 辺りに魔物の反応は無く、地形は真っ直ぐ伸びた一本道で最奥に下へと繋がる階段があった。

 あれが下層に繋がる階段のはず、他に行くところもないし行ってみるしかない。

 先頭の俺が足を進め、全員でゆっくりと前進する。

 

 滉一君はまだ聖剣を発動させていない、これは彼のチートが対象物、相手を必要とするからである。

 テリーもまだ子犬で千佳ちゃんに抱きかかえられている。

 どれくらいの長丁場になるか分からない場合、彼女は闇雲にテリーに魔力を与えないようにしていた。

 与えすぎると彼女自身が動けなくなるからだ。


 14歳二人のチートは意外と奇襲やそういった予想外の攻撃に脆い。

 しかも、今回の迷宮のような狭い場所では真奈美さんの魔法は使えない。

 もし使えば、周りが崩れて、生き埋めになるかもしれないからだ。


 つまり、この状況で最も奇襲に強いのは、索敵スキルが使える俺だと言うことになる。

 何時周りを囲まれるかも分からない迷宮では、索敵スキルは先手を取るために貴重であり、ホルが弓になればミスオンで購入した、対アンデット用の矢が使える。

 とりあえず、役に立てそうで一安心した。


「ソラトお兄ちゃん。魔物の反応無いの?」


「おう。今の所は皆無だな」


 滉一君は少し残念そうに肩を落とす。

 迷宮の魔物と聞いてどんな魔物が出て来るのか、彼は村を出るとき楽しみにしていた。

 ちなみに俺と真奈美さんが村で聞き込みをした結果は、主にゾンビなどのアンデット系の魔物が多いらしい。


 噛まれても感染の心配はないと聞いて、もの凄く安心した。

 もしも感染するとして、感染したらきっと、真奈美さんに魔法で消し炭にされる。

 それは自信をもって言い切れた。


 石造りで長い廊下のような道を歩き、階段までたどり着いて、一段一段足元を確認してゆっくりと降りてゆく。

 一番下まで降りるとそこには異様な光景が広がっていた。


「キレイ……」


 千佳ちゃんがボソッと呟く、それも無理はない。

 円形の広大な空間、まるで闘技場のような場所、そして何より異様なのはこの場所に浮かぶ緑色の粒たち。

 石造りの地面から沸々と湧き上がる緑色の粒は、淡い光を放ちながら天へと昇り、天井までたどり着くと消えていった。

 その粒が光を放つせいで床は緑色に輝き、部屋全体が薄らと緑色にライトアップされている。


「迷宮にこんな場所があるなんて聞いたことがない」


 真奈美さんが俺の横に並び、周りを見渡す。

 村で聞いた話では迷宮内には光は届かず、ランプが必須と言われた。

 それなのに明るい場所が迷宮内にある、しかもAランク冒険者の真奈美さんが困惑するほど、この場所は異様らしい。


「一気に怪しくなってきたな」


『下に何かあるんですかね?』


 ホルが言うように下層に何かある可能性は大いにある、この緑色の粒は下から湧いて来ている。

 普通に考えれば下に何かあると言うのが当然の答えである。

 問題は魔物の強さが下に行けば上がること、そしてそれが俺たちの求めている『何か』なのかどうか。


「真奈美お姉ちゃん。下に進む?」


「……行きましょう。この粒の原因を突き止めないと」


 二人のやり取りを横目に千佳ちゃんに目をやった。

 彼女は今にも泣きだしそうな顔でテリーをギュッと抱いている。


「不安?」


「え? ……はい……少しだけ」


「ウゥゥ」


 なんでテリーは俺が千佳ちゃんに話しかけただけで唸っているのだろう。

 千佳ちゃんのチートは滉一君と真奈美さんの二人に比べると弱い。

 『魔物との契約』、ここまでが千佳ちゃんの力であり、戦うのはテリーの強さだ。

 もしかすると、この子も俺と同じで引け目を感じているのだろうか。


「大丈夫だよ。あの二人は強いし、微力ながら俺もいる」


「微力だなんて……オークと戦っているソラトさんは、凄かったです」


「滉一君に助けられてばっかりだったけど」


 肩をすくめた俺に千佳ちゃんが笑う。

 このままだと、ロリコンではないが、ロリコンに目覚めそうだ。

 煩悩を消す意味を込めて、索敵スキルを発動させ部屋全体の気配に探りを入れた。


 おいおい、この反応数はなんだ。


「千佳ちゃん。今すぐテリーに魔力を与えて」


「ま、魔物ですか?」


「ああ。それも凄い数だ」


 索敵の結果は、部屋を埋め尽くすほどの多数の魔物が全方位から。

 しかし、まだ姿は見えない、上でも左右でもない、ならば答えは一つだ。


「真奈美さん! 滉一君! 魔物が来るぞ! 全方位、それも下からだ!」


 伝えた瞬間に石の床を突き破り、手が飛び出て来た。

 それは次々と出てきて、加速的に増えていく。


「千佳ちゃん!」


 近距離戦に弱い千佳ちゃんを右腕に抱えて、上へと飛び上がる。

 数メートル上へと逃げることが出来たが、弓を持った状態では、スキルによる身体能力の補正が長剣や槍の時より小さく、ジャンプの高度が思ったよりも低いことに舌打ちが出た。


 魔物正体はアンデット系の代表格であるゾンビだった。

 滉一君はすでに聖剣を抜いており、真奈美さんも杖を構え迎撃の準備を完了している。


「テリー、お願いっ」


 千佳ちゃんが魔力を与え終わったテリーが青色に輝き、飛び下りた。

 役目を終えた千佳ちゃんを背中に移動させ、両手を使えるようにする。


「しっかり、掴んでいろよ」


「は、はい!」


 耳に流れてくる風切音の中に千佳ちゃんの返事を確認した。


「ホル、二連攻撃(セカンドストライク)、五の型!」


 腰から矢を取りゾンビの軍団に一発打ち込む。

 ゾンビの間を抜けて床に突き刺さった矢は、小さな爆発を起こした。

 それに巻き込まれたゾンビがバラバラに吹き飛び、小さなスペースが出来る。

 テリーが着地するには十分なスペースだろう。


「二撃!」


 床に着地する直前、合図でホルが長剣へと姿を変える。

 それを右手に握り、床へと着地した。

 そして、正面から襲ってくる三匹のゾンビの首を飛ばす。

 周りにゾンビが居ないことを確認して、背中から千佳ちゃんを降ろした。


「小僧、チカは無事か?」


 ゾンビの間を抜けて、先に着地していたテリーが横に並ぶ。


「無事だよ。テリー」


「だってさ」


「それくらいは貴様でも出来るようだな」


「手厳しいようで」


 テリーの許しを得た所で改めてゾンビの集団と向き合う。

 数はかなり多く、オークの集団を討伐した時によく似ているが、真奈美さんの大規模な魔法を使えない分、こちらが圧倒的に不利だ。


「千佳ちゃん。俺の傍を離れるなよ」


「は、はい!」


 近距離戦に弱い千佳ちゃんに忠告し、周りを見る。

 滉一君が蒼色の聖剣でゾンビたちを凄まじい勢いで切っている。

 その近くで魔法の詠唱をしている真奈美さんの姿。


 どんな魔法を繰り出すつもりだろう、なんて思っていると真奈美さんが杖を振った。

 そして俺と千佳ちゃんを囲むゾンビたちに雷が落ちた。

 一気に倒すことは出来そうだけど、これってやばくないか? 床の耐久値を超えているような気が……


 嫌な予感は当たって欲しくない時ほど、よく当たる。

 俺たちの足元にある石が徐々に崩れていく。

 やばい! このままじゃ!


 ジャンプして飛ぼうにも土台となる床がない。

 そして、足場を失った俺と千佳ちゃん、そしてテリーは迷宮の下層へと落ちていった。


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