第一話 異世界へ
「森だな」
「森ですね」
ホルは俺の言葉に同調した。
辺には木々が隙間なく並んでいる。
人が通るためだろうか、木々が伐採され道ができている。
元の世界に帰るためにやるべきことは多くあるが、生き残るためにまずはこの世界のことを知らなければいけない。
神はアイテムボックスに説明を入れておいたと言っていたが。
「アイテムボックスってどうやって開くんだ?」
「こうですよ。『開け! ボッぉぉぉぉクス!!』」
ホルが右腕を天に向かって伸ばしポーズを決めた。
アイテムボックスを開くだけで、そんなに気合を入れなければならないのか!?
異世界おそるべし……
深呼吸をして集中力を整える。
俺の異世界デビューだ、気合を入れて叫ぶぜ。
「よし、行くぞ。開け! ボッぉぉぉぉクス!」
「ププ……ホントにやった……って、頭握らないでください!! 潰れるぅぅぅう!!!」
「おい、開かない上に黒歴史を残したじゃねぇか。
どう責任とってくれるんだ?」
「念じれば開きますぅぅぅうう!!! ホントですから離してくださいぃぃぃい!!!」
ホルの頭から手を離し、アイテムボックスを念じてみると、右腕の周辺に黒い渦のようなモノが出てきた。
四次元ポケットかよ……
右手を突っ込み、神の入れたという説明を念じると手に紙のようなものが当たった。
引き抜くと、半分に折られた手紙で開くとこの世界について、簡単な説明が書かれていた。
『やぁ! 相葉空人君! 異世界の空気はどうだい?
部屋では説明しそこねたけど、君に与えたチートは「相手から向けられる好意は自分が相手に向ける好意に同等」というものだ。詳しくはステータス画面で見たり、実際に体験してくれ。で、君と一緒に行った、ホルだけど。彼女には君のチートは効かないということと、彼女は武器になれるから戦闘時は頼りにするといい。最低限のお金と、無理しないのなら大丈夫なステータスになっていると思うから、大いに楽しんでくれ! 幸運を祈っているよ!
追伸:君の他にも異界人や魔王とかもいるから気をつけてね』
読み終えると手紙は透明になり消えてしまった。
さて……何から突っ込むべきか……
魔王とか物騒な存在は、異世界の定番とは言え避けたかった。
それに他の異界人ってなんだよ、完全に未知との遭遇だぞ。
とりあえずは……
「ホル。お前、武器になれるか?」
「え!? なれますけど……その……」
小さな妖精は顔を赤くしてモジモジし始めた。
何というか……いじめたくなるな。
「どうした? 神様からの話だぞ? 嘘なのか?」
「嘘じゃないです! 武器になるとその……擦れて……」
「なんだ?」
「擦れて……感じるんです……」
この妖精は何言ってるんだ?
「武器なると感触がそのまま伝わるんですよ! だから、私を武器化させて木とかに擦って、レイプする気なんですよね!!? いいですよ! 私はそんな不純な快感などに屈しません!!!」
ホルは涙目で小さな胸を張った。
レイプする方法が斬新すぎる。
ダメだ、この妖精は色々とダメだ。
神といい、偉い連中の頭はどうなっているんだ。
「する気はないが。いざって時は頼るからな。頼むぜ」
「いいですよ! 私が尻軽女ではないことを証明してあげます!!」
シャドーボクシングをする妖精はほっといてだ。
次はステータスだな、アイテムボックスと同じように念じれば開くことができるのかだろうか?
しかし、いくら念じてみてもステータスを見ることができない。
まさか……叫ぶ必要があるのか?
いや、落ち着け、そう決め付けるのはまだ早い。
あんな過ちを短時間で二度もするわけにはいかない。
「あ、ステータスは呟けば見れますよ」
「早く言え。ステータス」
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名前:ソラト・アイバ
種族:人間
レベル:1
筋力:60
生命:40
敏捷:60
器用:50
魔力:40
スキル
相思相愛:《ユニーク》
剣術:《1》
弓術:《1》
槍術:《1》
火魔法:《1》
詠唱破棄:《1》
生活魔法:《1》
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目の前に現れた半透明の画面に、ステータスが浮かぶ。
このユニークとついている『相思相愛』とやらが、神の言っていたチートスキルのようだ。
あとはだいたい意味が理解できる、スキルの横の数字は熟練度だろう。
小さいほうが初級クラスってことかな?
生活魔法とやらがどこまでの生活を実現してくれるのかは未知数だが、ありがたいことに代わりはない。
詠唱破棄もついさっき、黒歴史を刻んだ俺にはありがたい。
毎度、詠唱などを叫ぶと思うと、恥ずかしくて死にたくなる。
ただ、ステータスの値が高いのか低いのかまったく分からない。
「何をやっているのですか?」
「ステータスを見てる」
ホルが俺の顔の横から覗き込む。
「見えませんよ?」
他人には見えない設定なのか?
どうやったら見えるのだろう?
よく、探すと画面の端にボタンがある。
そこを押してホルに閲覧許可を出す。
「こんな感じだ。どう思う?」
スキルは自分で選択肢したわけでもなく、ステータスもこの世界の基準で高いのか低いのかも不明。
まさに俺の基準はこの変態妖精へと託された。
ホルが顎に手を当て「うーん」と唸りステータスを眺める。
判決を言い渡される罪人みたいで少しだけドキドキする。
「さっぱり分かりません! いいんじゃないですか!?」
こいつに聞いた俺が馬鹿だった。
「お前一応、神様とか同じくくりなら分かるんじゃないのか?」
「管轄外なので分かりません!」
「お役所仕事かよ!」
神様とかの世界も分業制のようだ。
「じゃあ、この世界について知っていることは?」
「エーオプノスについてですか? 神様が作ってこの前、いい出来だと自画自賛していました」
役に立たない情報をゲットした。
そして、この世界の名は「エーオプノス」と言うらしい。
俺以外にも異界人が居るということは、そいつらも同じ理由で連れてこられたのか?
「他にも異界人がいるってどうゆうことだ?」
「アレですよ。転生ってやつですよ」
「転生?」
「こっちの世界で魔王と戦って、死んだ人たちが元の世界に生まれ変わることを拒否する場合があるんです。その場合、ソラトさんの世界で死んだ人たちと交換で転生させるんです」
「俺は死んでないんだが?」
「神様の職権乱用ですね」
そうゆうことか。
てか、あの神様どんだけハーレム主人公に対して不満を持っていたんだ。
「つまり、俺は不当な理由でこの場所にいるわけだ。だったら、元の世界に帰ることもできるんじゃないか?」
「無理じゃないですか……さっきから連絡しているのですけど、繋がりません。
あの人、きっと今頃、謹慎処分になっているのでしょう」
ダメだ、あの神は本当に残念なやつだった。
神の社会の階級やシステムはよく分からないが、謹慎処分になるようなことを勢いでやるのだから、神というものは恐ろしい。
ともかく、あの神による帰還は期待できない。
元の世界に帰る別の方法を模索しなければいけない。
結局、異世界でサバイバルか。
まぁ、なんとかなるか……いや、なんとかしなければならない。
俺はまだ好きな子に告白すらしていないのだ、死ぬわけにはいかない。
いや、帰ったら話しかけることから始めよう。
「ソラトさん? 制服姿でなんで拳を握っているんですか?」
ホルに指摘されて自分の格好を見た。
その姿は元の世界で着ていた服装、そのままだった。
「何か着れるものはっと」
アイテムボックスを開いて念じると、生活用品一式と書いた張り紙のしてある、袋が出てきた。
中を開けると、衣類と小さな別の袋が入っている。
よし、とりあえず着替えるか。
「お、犯される!!」
何か勘違いしているホルを放っておいて、皮の服を着て、皮のズボンを履く。
革のブーツに履き替えて、外套を身に纏えば中世ファンタジーのそれらしい格好になった。
「なんか一気にボロくなりましたね」
「文明差があるんだろう。地球の格好じゃ目立つし、仕方がない」
「なるほど」
脱いだ服をアイテムボックスに入れて、小さな袋を取り出した。
今度は旅セットと書いた張り紙をされた袋が出てきた。
中身は食料や水、ランプや羽毛等といった、野宿製品とも言える中身だった。
その中にはお金も入っており、小さな革の袋に入っていた。
中を開けて確認すると銅貨10枚と銀貨5枚、入っていた。
相場は分からないが、一週間くらいは生活できると信じたい。
早いうちに金を稼ぐ手段を見つけないといけないな。
そんな俺にひとつ気になることが浮かんだ。
「ホルって強いのか?」
「さぁ? 自分のステータス知りませんし。でもきっと優秀に違いありません!」
こいつ、ホントに役に立つのか?
それにその自信はどこから湧いてくるんだ。
ステータス画面を開き、ホルをタップすると彼女のステータスが表示された。
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名前:ホル
種族:妖精
レベル:1
筋力:5
生命:10
敏捷:10
器用:10
魔力:20
スキル:なし
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「無能じゃねぇか!」
「し、失礼な! 童貞ソラトさんの友達くらいにはなれます!!」
はぁ……と息を吐いて、ホルに近づき頭を掴む。
そして、次第に力を込めてゆく。
「痛い、痛いですソラトさん!」
「もう一度だけ聞くぞ、何ができるって?」
「す、好きな人に初めてを捧げると誓った、ソラトさんの友達になれます!」
「そうか、命は要らないようだな。そういえば俺、さっきお前を殺すと誓ったんだわ。
楽しかったぜ、お前との日々忘れずに生きていくよ」
「ジョ、ジョークです! 潰れる! 頭がトマトみたいにぷちゅって潰れる!」
手の力を次第に緩めた。
「そう言えばホルって、死んだらどうなるんだ?」
「今の動作の後にその質問は怖いですが、身体が消滅したら魂がソラトさんの体内に入って、身体の再構築後に口から出てきます」
「細菌からのエイリアンかよ!!!」
想像するだけでもなんと恐ろしい。
こいつが身体を失うことだけは断固阻止しなければならない、
口から妖精をリバースなど、絵ヅラが放送禁止の壮絶な状態が完成してしまう。
ホルのお仕置き方法は後で考えるとして、これからどうするのか考えないとな。
はぁ……と息を吐いた。
まだ、この世界が異世界だと実感もなく。
本当は夢なんじゃないかと思っている自分もいる。
職権乱用で謹慎処分となった神は言った、「歩いていると死ぬかも知れない世界だ」と。
そんな物騒な世界で俺は生き残ることができるだろうか……
ラノベ主人公のような属性を俺は持っていない。
彼らのような圧倒的チートも、機転の利く頭の回転の早さもない。
あるのは他者の好感度と自分の好感度が同等になる、役の立たないチートだけ。
少しばかりの不安と、知らない世界への高揚は、ため息ともに身体から出たような気がした。