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アナタと歩く英雄譚  作者:
第二章
19/51

第八話 世のため人のため


 迷宮に最も近い場所にある村にたどり着く頃には、日が沈み始めていた。

 やっと手綱を取る手を休められると浮かれていた、俺の思いはあっけなく裏切られる。


「ソラトお兄ちゃん!」


 滉一君が俺を後ろから襲ったオークの首を聖剣で飛ばした。


「サンキュ! 助かった!」


 オーク。豚のような鼻に逞しく生えた牙。

 大きさは二メートル程で特筆すべきはその腕力と体力、一度狙った獲物は地の果てまで追いかけるしつこさは筋金入りだ。

 動きは鈍感なので、油断しなければ俺はもちろん滉一君の動きにはついてこられない。

 それでも圧倒的な数にモノを言わせ、次から次へと襲い掛かってくる。


「凄い数だね」


「まったくだ」


 二人で周りを囲むオークに愚痴ってしまう。

 村近くまで押し寄せ来たオークの数は、二百匹くらいに減ってきただろうか。

 最初に索敵スキルを使ったときは三百匹以上いた、村の近くでその数の魔物を見逃すわけにもいかず、俺たち四人は戦闘態勢に入った。


 村の近くで大規模な魔法は使いにくい、そこでまず俺と滉一君がオークの軍団に突入し一か所に集める。

 その後、迅速に離脱した所を真奈美さんが魔法で一掃。

 これを繰り返し、なんとかここまでへ数を減らした。


「乗れ! 小僧ども!」


 耳さわりのいい威厳に満ちた低音ボイス。

 声の主は千佳ちゃんの魔力で四メートル程の大きさに成長したテリーだ。

 魔力を受け取り、成長したこの姿なら人の言葉を話すことも、魔法を使うこともできる。


「ホル! 二連攻撃(セカンドストライク)、二の型!」


 握った長剣(ホル)を水平に振い、近くにいた五匹のオークの首を飛ばす。

 オークの身に着けた防具如きでは、長剣(ホル)の前では無いにも等しい。


滉一君がテリーの背中に乗ったことを確認し、俺もテリーの背中に跨る。

 地面を力強く蹴ったテリーが上空へと舞い上がる。


 眼下に広がるオークたちがあっという間に小さくなった。

 チートの力で大きくなったテリーの身体能力には舌をまくばかりだ、この機動力が無かったら、今頃俺たちは魔法に巻き込まれていた。


「二撃!」

 

 合図でホルが弓へと姿を変える、腰にさした矢を抜き取りオークたちに向かって放つ。

 一頭のオークに当たった矢は、オークの身体を貫き地面へと突き刺さった。

 そして、魔力の込められた特殊な矢の魔法が発動する。

 

 矢を中心に重力が発生し、引っ張られたオークたちが一つの場所に固まった。

 タイミングを見計らって、群れから少し離れた場所にある馬車から、真奈美さんが魔法を発動させる。

 オークたちの足元に蒼色の魔法陣が出現、その中から切っ先のするどい木々が飛び出し、オークたちは地面から突き出した木の根に足を、胸を、両腕を、頭を。様々な個所を貫かれ絶命する。


 相変わらずとんでもない火力だ。

 本当のチート持ちはまさに格が違う、これがAランク冒険者、魔王軍と戦争をする最前線で戦う者の力。


 テリーが軽やかに地面へと着地する。

 先ほどの陽動はうまくいった、おかげでオーク数は残り五十匹ほどだ、これなら俺と滉一君、テリーで片づけられる。


「俺が正面、滉一君が左、テリーが右をやるか」


「オッケー」


「我に命令するな」


 残りのオークが塊となって近づいてくる。

 さて、行ってみるか。

 俺たちはそれぞれの方向へと飛び出した。














 オークの群れを討伐後、俺たちは死体の処理に追われていた。

 使えそうな武器は剥ぎ取り、アイテムボックスへと入れていく、何処かの武器屋へ売れば結構なお金になりそうだ。

 死体は焼くために、一か所に集める。

 放っていたら血の匂いを嗅ぎつけた別の魔物や獣が集まってくる。


 そうなるとまた討伐する必要がある。

 冒険者が駐屯している街の近くでも面倒なのに、規模の小さな村の近くなんて最悪だ。

 下手をすれば村が壊滅する可能性だってある。


 今回だって、俺たちが偶然近くにいなかったらどうなっていたことか。


「何故、我がこんなことを」


 テリーがオークの死体を口で掴み、乱雑に死体の山に放り込んだ。


「そりゃ、俺たちはただの冒険者だからな」


「貴様はもう黙れ」


 おぉ、滅茶苦茶睨まれた。

 テリーは俺のことが嫌い……だよな。

 どうやら『相思相愛』は、獣や魔物には効果がないようだ。


 こいつは俺が獣と言ったことを根に持っている。

 その戦闘力からプライドが高く、獣と間違われることが何よりも嫌い。

 もっと早く教えてくれよ……千佳ちゃん……


「こうゆうことも大事だよ。テリー」


「コーイチはよく我慢できるな。他の上位冒険者は、こんな事(死体処理)はしたくもないだろうに」


 テリーが言うことにも一理ある。

 こんな仕事誰もしたがらない、精神的に辛いものがある。


 オークに限らず、死体から発せられる死臭は凄まじい。

 まだ日は経っていないからマシな方なのに、血と獣独特の生臭い異臭を発している。


『ほら。ソラトさんも滉一君を見習って、頑張りましょう』


「匂い嗅ぐのが嫌で武器化を解かないやつが何言ってやがる」


『そ、そんなことありませんよ? 奇襲があったときの備えですよ?』


 声が裏返ってるぞこの野郎。


「稼ぎは悪くないと思うし、単純な作業は命の危険が無いから嬉しいね」


『そんな姿勢で女の子がトキメキますか!? もっと、カッコイイこと言って下さいよ!』


「目立つ男が好きなミーハーより、こうゆう地味なことも見てくれる子の方がいいね」


『現実見てください! そんな子は二次元だけなんですよ!』


「かもな」


 ホルの戯言にそう応えて、手際よくオークの装備を剥ぎ取ってゆく。

 自衛のために魔物討伐の依頼もこなしてきた、なのに気が付けば『特命クエスト』とか言う得体のしれない依頼を受けている。

 本来なら俺はこういった地味な仕事はメインにこなしていくはずなのに……











 日が沈むころになって村に入ると、村の人たちに歓迎された。

人口は五十人ほどだろう。木造の家が十軒ほど確認できる。


どうやらこの小さな村では最近オークが畑を荒らしていたことに困っていたらしく、それを俺たちが全滅させたと知って喜んだ。

 そこで俺のチートを使って、宿代と食事代を無料(タダ)にしてもらうように交渉してみると快諾してくれた。

 しかもこの村には天然の温泉があるとか、人の為になることはするもんだなと改めて思った。


 宿で部屋を二つ借り、男女で別れる。ちなみにホルは男部屋(俺たち)の方だ。

 この宿は二階が客室、一階が食堂になっており、その奥から外の露店風呂に繋がっている。


「滉一、お風呂行こう」


 俺と高滉一君が部屋のベッドでくつろいでいると、部屋のドアをノックした後、千佳ちゃんの声。

 俺を誘ってくれなかったことに別に悲しんではいない。

 ホントはちょっとだけ傷ついたけど……


「うん! すぐ行く! ソラトお兄ちゃんも行くよね?」


「いんや。俺は後で行くよ。……ホル、二人と一緒に風呂入ってこい」


「りょーかいです! 今日の疲れを落としてきます!」


 ホルは敬礼のポーズをとって、滉一君の後に続いて部屋のドアへと向かう。

 そして、部屋から出るとき、俺の方を見てウィンクをしていった。

 察しが良くて助かる。これで二人に何かあったらホルが知らせてくれるだろう。

 それに真奈美さんもテリーを付いて行かせているだろうから、何も心配はない。


「さてっと」


 俺も用事を終わらせよう。

 そう思って、ベッドから立ち上がり部屋を出た。

 そこには隣の女部屋の前で腕を組んで、何やら考え事をしている真奈美さんの姿。


「あれ? アンタ風呂は?」


「後で行く。それより、情報収集の手伝いをしようと思って」


 迷宮探索を提示する時も彼女は事前に調べを万全にしていた。

 滉一君と千佳ちゃんの心配で仕方がない彼女のことだ、きっと二人が居ない間に少しでも危険を減らすために色々調べてきたのだろう。


 そして今回調査する迷宮も危険が多いだろう。

 真奈美さんはきっとこの村で色々と調べるつもりのはず。

 彼女に負担ばかりかけるのは申し訳ないし、手伝えることは手伝うべきだ。


「気が利くのね」


「役に立つがどうかは分からないけど」


「だらしない男ね」


「相変わらず真奈美さんは厳しいな……」


 二人で宿を出て酒場へと向かう。

 こうゆうときは、人のよく集まる酒場が基本だそうだ。

 こんな小さな村はともかく、女性が一人で輩の多い酒場に行くのはどうなのだろうか。


「今まで一人で酒場に行ってたの?」


「まぁね。あの子たち連れていくのは危ないし」


「女の子が一人でも危なくない?」


「ナンパしてきたり、絡んでくる奴はいるけど魔法でぶっ飛ばせば問題ないわ」


「こわっ」


「うるさい」


 また脇腹をキュッと摘ままれた。地味に痛いからやめてほしい。


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