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アナタと歩く英雄譚  作者:
第二章
18/51

第七話 怖い人には従おう


「じゃあ、出発は今日の正午。それまでは各自準備を整えること」


 真奈美さんのワンサイドの発言で会議は終わってしまった。

 俺が想像していたのと少し違ったけど、彼女がこの時のために事前に調べて考察までしていた、そう思うと文句を言う気など起こるはずもなかった。


 それに何も手掛かりもないこの状況では、怪しい所を(しらみ)潰しにしていくしかない。

 初めて向かう迷宮には色々と不安はあるが、本物のチートを持ち三人が一緒だ。

 どんな状況にも対応できそうだ、むしろどんな状況ならダメなのか教えてほしいほどである。


 俺は足を引っ張らないように気を付けよう。

 何で役に立てるかなぁ。


 今回のパーティ編成で自分が何をすべきか考えながら、露店の並ぶ広場を歩く。

 加工屋や武器屋も多くある地区なので、値段の幅も広く、品の数も質もかなり充実している。

 やっぱり、最近の魔物数増加で討伐数も増えて、以前の品ぞろえよりも大分グレードアップしていた。


 俺について来た滉一君は、武器屋が置かれた露店を見つける度に、人ごみをかき分けて近づき、品を物色している。

 買う気は無いだろうが、武器でテンションが上がるのは男の子の性だろう。


「何持っていけばいいんだろ」


「私だけでソラトさんを満足させますよ! だから、他の(武器)なんて要りません!」


 ホルが顔の前を飛び回り、品を見たい俺を邪魔してくる。

 こいつはまだ他の武器を買おうとした前科を根に持っていた。

 それに娘と書いて武器と読むなよ……物騒すぎる。


「備えは必要だろ。お前は俺のチートってことになっているから、疲れて動けなくなるまで、酷使することになるかもしれないぞ?」


「なんてドSな発言! でも、動けなくなるまでは勘弁して欲しいですねー。そんな状態だとソラトさんに何されるか分かりませんし」


「……お前、今度ベッドに身体縛り付けて寝ろよ」


「SMプレイ!?」


「そのまま、水に沈めてやる」


「死ぬ! ホントに死んじゃいます! 目を覚ましたら朝日ではなく、あの世と『こんにちは』しますよ!?」


「そこの神様によろしく言っといてくれ」


「なんて悪い笑み……もうちょっと、レディに対する扱いを学んだらどうでなんですか!? せっかく、チートの効かない、ハーレムの練習に持ってこいの獲物が二人も加わったのに」


「真奈美さんに聞かれたら殺されるぞ」


「真奈美お姉ちゃんがどうしたの?」


 滉一君がいつの間にか買った焼き鳥を片手に聞いて来た。

 ホルとの会話を聞かれていないか、背中に冷や汗をかいて笑顔を返す。


「真奈美さんの戦闘方法はなんだろうなって、ほら俺たち4人で戦うのは初めてだろ?」


「真奈美お姉ちゃんは魔術師だよ。魔力が高すぎて色々と大変みたいだけど」


 なるほどね。彼女は魔法特化のチートのようだ。

 滉一君の口調から、チート(特殊な魔法)だけが使えるわけでなく、魔力が高く使うのはこっちの世界にある魔法のようだ。

 規模や威力は規格外に間違いないが……


 格好のタイトな黒のローブを身に纏っているし、魔法使いなのは確かだろう。

 そうなると、問題は俺の役割(ポジション)だ。

 一対一だとほぼ無敵であろう滉一君、あそらく機動力が並外れのテリーを使う千佳ちゃん、そして広域戦闘において圧倒的な威力を発揮できる真奈美さん。

 あれ? 俺って必要か……?


 いや待て、確かに彼らに比べれば遥かに弱いが、出来ることはあるはずだ。

 まずは自分の特徴を整理しよう。


 俺の戦闘スタイルは状況に応じて、ホル(武器)を使い分けられることが強みだ。

 変則的な連続攻撃が大きな軸ではあるが、やはり最大の特徴は『攻撃の間合いを自由に変化できる』ことだと思う。


 ある程度、魔法が使えることもあって、中遠距離からの攻撃も苦手ではない。

 ステータスの値的には近距離の方が強いけど……


 つまり、俺は限りなく円の小さい万能型と言うわけだ。

 状況に応じて滉一君と近距離戦を仕掛けるのか、真奈美さんと遠距離から援護するのか、相手との兼ね合いもあって変化する役割。

 それが一番無難でベストだと思う。


「そうなると……」


 必要なモノは遠距離からの攻撃のバリエーションと、囮役に成れそうなスキルかな。

 囮役に成れるスキルはまだ見たことないから覚えるのは無理、攻撃のバリエーションも魔法攻撃は真奈美さんに教えてもらってからでいいだろう。


 残るは打てる矢の種類を増やすことだな。

 まだ、ホルは弓になれても矢にはなれない。

 これならコイツの機嫌を損なう心配もなさそうだ。















 必要な買い物を済ませて、集合場所である西門へたどり着くとそこにはすでに準備を完了した、築山姉妹の姿があった。

 用意されていたのは黒塗りの馬車、滉一君らがこの街に来るときに使っていたものらしい。

 4輪の屋根付き馬車の中には滉一君と千佳ちゃん、御者台には俺と真奈美さんが並んで座り、何故か俺が手綱をとることになった。


「馬なんて走らせたこと無いぞ?」


「じゃあ、尚更今後のためにやっておきなさい。馬での移動は多くなるだろうから。それに横であたしが補助するから大丈夫よ。ホルちゃんもこいつの面倒よろしく」


「了解しました!」


 ホルが俺の膝の上で敬礼の真似をする。

 文句言っても仕方ない、それに真奈美さんの言う通りだ。

 交通手段が主に馬が多くなるのなら、慣れておいて損はない。


 俺は握った手綱にギュッと力を入れて馬を叩いた、合図を受け取った馬がゆっくりと歩き出す。

 次第に遠くなるアクセルを背中に、初めて体験する遠征に少しだけテンションが上がる。


 アクセルから離れたことがあると言っても一日で歩ける範囲しかない。

 今回のように馬を使って遠くまで行くことが何よりも新鮮だった。


「真奈美さんたちは、結構いろんな所行ったことあるの?」


「あんまりよ。基本的には『ウルカグル』が拠点だから」


 『ウルカグル』、ギルド本部のある街にして、王都に次ぐ大都市。

 いつかは行ってみたいもんだ、厄介事に巻き込まれない確信と共に。


「あの街、大きいから何でもあるし、集まる依頼も高レベルのクエストが多いから遠征なんて、今回みたいに『特命クエスト』を依頼された時ぐらいよ。その『特命クエスト』も最近は、魔王軍との戦争関係が多いけど」


 真奈美さんは手を上にして、身体を伸ばした。

 確かに今は暖かい日差しが眠気を誘う。

 手綱を握っていなければ昼寝をしたいほどだ。

 ちなみにホルはすでに俺の膝の上で夢の世界へと旅立った。


「魔王軍との交戦経験は?」


「あるわよ。最初の頃は、専らそっちばかりだったから」


「あの子たちも?」


 自分よりも年下の子らが居る馬車に視線を移す。

 真奈美さんも横目で馬車を一目見ると、すぐに前を向いた。


「ええ……経験させるべきでは無かったって今は反省してる。危ない目に合わせちゃったって」


「滉一君のチートを持ってしても危ないのか? あれほど強い力なのに」


 彼は持っている、俺には無い、道の真ん中を歩く主人公としての力と素質を。


「強いからよ。強い者はより危険な場所で危ない魔物と戦う。それ自体に不満は無いわ。そうしなければ、犠牲者が増えるだけですもの。ただ、滉一君がそれを背負うにはまだ若すぎる。それだけよ」


 なるほどね。

 全体のバランスを考えれば滉一君は危ない役を背負うことになる。

 千佳ちゃんを巻き込みたくないと言うのは、何となく解る。

 あの子はそもそも戦いに向いていない、だから真奈美さんは二人を戦場から遠ざけるためにギルドに所属している。


 この物騒な世界で二人を守るために。


「大変だな。保護者役は」


「うるさい。茶化すな」


 俺の脇腹を彼女がキュッとつまむ。


「いてっ。ホントに凄いと思ったから言ったのにヒドイな」


「フン、一応ほめ言葉として受け取っておくわ」


 真奈美さんはプイッと反対側を向いてしまった。

 機嫌を損ねてしまっただろうか?

 褒めたつもりだったんだけどなぁ……


 ため息を一つこぼし、前を向く。

 舗装はされていないが、人が多く通ったせいで草の生えていない道を進む。

 障害物はほとんどなく、少しくらい目を逸らしても大丈夫だろう。


 そう思い、目を閉じて索敵スキルを発動させる。

 まだミスオンからそんなに離れていないとはいえ、警戒は必要だ。

 奇襲される事態だけは避けなければいけない。


 ………反応ありか。


 索敵の結果は、まだ離れているが遠くに魔物の反応が二百匹ほど。

 まるで群れを成して近づいてきていることから、ゴブリンだと思う。


「魔物が近づいて来てる」


「なんで分かるの?」


「索敵スキルに反応があった」


「アンタ、便利なスキル持っているのね。どこから?」


「三時の方向から多数。数は二百匹ほど。おそらくゴブリンかと」


「人の姿は?」


「見当たらない。でも、それがどうした?」


「なら、あたしに任せなさい」


 立ち上がる彼女の手には何処から取り出したのか、杖が握られていた。

 年季の入った木製の杖の先には、ピンポン玉ほどの大きさをした蒼い石がついていた。


「来たわね」


 首を右に向けると黒い塊が遠くに広がっていた。

 まだ目を凝らせば見える程度だが、それは確実に向かってきている。


「結構いるけど、どうする?」


「魔法でドカン。それで終わり」


 普通に言う彼女を疑うわけではないが、あのゴブリンの数相手に本当に出来るのか疑問を抱いてしまう。

 俺なら、迷わず逃走を選択するほどの数だ。

 いくらゴブリンとはいえ、あの数は多すぎる。


「詠唱は……いらないか」


 彼女が握っている杖につけられた蒼い石が徐々に輝きを増す。

 そして、彼女が杖を水平に軽く振った。

 次の瞬間、ゴブリンたちの居る場所の土が空高く舞い上がった。


 まるでその一帯だけ空襲をうけたかのような大爆発は、魔法の威力を物語っていた。

 怖え……戦闘中にあんなのが飛んでくると思ったら、怖くてうまく戦えない。


「ま! こんなもんね」


 彼女は再び俺の隣に腰を下ろした。

 無意識のうちに彼女に対する恐怖感から、距離を開けようと身体を横に動かすと「ちょっと、何怖がってんのよ」と言われ脇腹を再び摘ままれた。


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