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アナタと歩く英雄譚  作者:
第二章
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第六話 コミュニケーションは会話から


 目を開けると、見慣れない天井が視界に入る。

 木造の天井に、部屋を照らすには十分な大きさのランプは、今は光を失っている。

 首を横にすると、カーテンの隙間から甘く光が差し込み、部屋を薄く照らしていた。


 もう一度天井に顔を向けて、ため息を吐いた。

 そうだ、ギルドマスターの屋敷の一室を借りているんだ。


 街の外れに建てられた、高い塀のある大きな屋敷に圧倒された。

 ギルド本部のある街、王都にはお金の持ちが多いため、三人には見慣れた光景らしく、あまり驚いていなかった。

 だから、真奈美さんが舌打ちしたのは気のせいだと思いたい。


 威厳ある門の前で迎えを待っていると、何故かネナさんに出迎えられた。

 どうやら両親を早く失くした彼女は、ギルドマスターの爺さんの養子として受け入れられ、この屋敷で生活しているようだ。


 身体を起こし、薄く照らされた部屋の内を見渡す。

 10畳ほどの一人で使うには、大きな部屋の真ん中に置かれたテーブルとソファー。

 そして、枕元には小さな手作りベッドで眠るホルの姿。


 テーブルの上にベッドを置くと、「広い部屋で酷くないですか!?」と言われ枕元まで移動してきた。

 別にそれは構わないが、時々寝返りをする音がうるさい。

 今度、縄でしばって睡眠をとらせよう。


 慣れない場所で寝たせいか、いつもよりも早く目が覚めてしまった。

 早い起床時は散歩に限りる。

 そう思って、ホルを起こさないようにベッドから抜け出して、部屋のドアを開けて廊下へと出た。


 石造りの廊下をノンビリ歩くと、革のブーツがカツカツと乾いた音をたてる。

 こんな朝早くから誰かにすれ違うわけもなく、音が廊下を反響するのがよく分かる。

 とりあえず外の空気を吸いたい、俺たちの部屋がある二階から一階に降りて中庭に出た。


 庭の植え込みの芳しい若葉の匂い、静穏な光が漲る場所には先客がいる。

 赤や黄色の花をバックに緑の床の上で遊ぶ白いふたつの姿。

 俺よりも先に千佳ちゃんとテリーがその場にはいた。


 じゃれていると表現するべきなのか、千佳ちゃんがテリーに襲われていると言うべきなのか、俺では判断しかねる。

 テリーは子犬とはいえ、千佳ちゃんもかなりの小柄で、地面に寝転がった千佳ちゃんに顔を押し付けるテリーを止めるべきか否か。

 

 しかし、俺が判断を下すよりも前にテリーが俺に気が付いた。

 自分に当たっていた顔が離れたことに、疑問を思ったのか身体を起こした千佳ちゃんと目があう。


「おはよ」


「お、おはようございます……」


 千佳ちゃんは素早く立ち上がり、控えめに頭を下げる。

 真奈美さんの行き届いた教育の一端が垣間見えた瞬間だった。


「朝から元気だな」


 まだ知り合って二日だけど、大人しく控えめなイメージの彼女が外で元気に遊んでいることが意外だった。

 本人もそのことを理解しているのか、それとも単に見られてことが恥ずかしいのか顔を赤くして俯いてしまった。


「私は肌が弱いので……こうして、朝にテリーと遊ぶんです」


 やっぱり彼女は先天性白皮症(アルビノ)のようだ。

 昼間にギルドで会ったとき、全身を徹底して外套で覆っていたこと、髪と皮膚が異常に白いことからそう察した。

 とても綺麗でまるで天使のような印象を受けるが、彼女が自分の髪の色や眼のことをどう思っているかは分からない。


 もしかすると、かなり気にしている可能性だってある。

 周りと違うことを気にする年頃で、周りもそう思い、彼女を無意識で傷つけているかもしれない。

 真奈美さんか滉一君から教えてもらうか、本人の口から何か言わない限り、俺から彼女に聞くことは何もない。


 千佳ちゃんとテリーに近づいて、膝を曲げる。

 テリーの首元を下から撫でると、サラサラした細い毛並が手の隙間を流れていく。

 初めて触った毛並は、いつまでも触りたいと思うくらい気持ちよかった。


「なるほどね。散歩の代わりか」


「はい。いつも私の膝の上では、テリーも退屈だと思うので」


「そういえばすごく大人しいよな。テリーは獣なの?」


 俺の言葉に反応したのか、テリーが俺の指をかんだ。


「いてっ」


「テリー! 噛んじゃダメ!」


「グルルル」


 噛まれた場所に息を吹きかけ、気持ちだけで痛みを鎮める。

 この子犬、思いっきり噛みやがった……


「テリーは私と契約した魔物なんです。戦闘時だけ大きくなるんですけど、その分知能も高いので気を付けてください」


 ただのペットではなく、戦闘のパートナーだったのか。

 俺とホルも似たような関係だ、良好な関係かどうかは別として。

 


 確かに相棒との信頼関係は重要だ、生き死にがかかっている戦いの場では少しの油断が命とりになる。

 それを防ぐ意味もこめて、普段からちゃんとコミュニケーションを取らなければいけない。

 取る方法は人それぞれだけど……


「魔物と契約って、千佳ちゃんのチート?」


「は、はい……『魔物との契約』それが私のチートです。まだ、テリーとしか出来てないんですけど……」


「いいなぁ。俺も強いチートが欲しかった……」


「ソ、ソラトさんの相棒のホルさんも可愛らしくて、いいと思います」


 ホル?

 そうか、彼女たちから見るとホルが俺のチートに見えるのか。

 確かにその方が自然だし、チートを彼女たちに明かさないのはフェアでないから、信頼を得ることは出来ないはずだ。

 うん、ホル(あいつ)はチートで貰ったということにしておこう。


「あれはあれで結構、困ることが多くて頭が痛い」


「でも、いつも一緒で仲良しですよね」


「うーん、確かにあいつがいないと俺は戦えないから、一緒にはいないと困るなぁ」


「クス、これから頼りにしますね」


 儚さと可憐な彼女の赤い視線が俺の心にそっと沁み込む。

 そんな眼で見ないでくれ。

 俺が強いのでは無く、ホルが凄いのだ、そんなことはとっくに理解している。

 俺の役に立たないチートだけでは、とっくに屍となっていた。


 ホント最近、気分が滅入ることしかない。

 

 慰めの意味を込めて、もう一度感触を確かめるために、テリーへ手を近づけるとまた噛まれた。
















「調べるべき場所の目星はついているわ」


 朝食後、会議室の替わりに貸し与えらえた大きな部屋で、今後の方針を決めるためにパーティメンバーとネナさんで集まり、真奈美さんが開口一番そういった。

 隣の滉一君は「とりあえず、魔物を狩ろうよ」とかなり脳筋な発言をしたが、真奈美さんに速攻で却下された。


 あまりに突出したチートを持つ彼の欠点は、力のごり押しに頼ることだろう。

 それでなんとかなる力を持っているから、そうなるもの仕方ないのかもしれない。

 だが魔物数は計り知れないし、原因を排除することが今回の目的だ。

 目的から逸れた手段を行使しているほど、俺たちには余裕がない。


 向かいの千佳ちゃんは膝の上に乗せたテリーをギュッと抱きしめ、真奈美さんの話を微動だにせず聞いている。

 何故かテリーが俺を睨んでいるのは、気のせいだと思いたい。


 座っている俺たちとは対照的に、部屋の入り口の前で立っているネナさんから「さすがー」と声が聞こえる。

 待ってくれネナさん、まだこの案がいいかどうかは分かっていないぞ。


「どこを調べるんですか?」


 俺の頭の上に寝転がるホルが聞いた。

 おい、頭の上で寝返りをするな、気になって話が入ってこない。


「これを見て」


 彼女がテーブルの上に出したのは一枚の紙。

 その紙には中央に黒い×マークが描かれており、その周りに赤い丸が複数つけられている。

 赤い丸の数は、中央の×から離れる度に減っていた。


「赤い丸は最近討伐された魔物の位置。そして、中央には迷宮がある」


 真奈美さんの口調が徐々に強くなっていく。


「あたしの予想だと、その迷宮の内部に今回の魔物増加の原因がある。でないと、こんな偏り方は絶対におかしい」


 俺たちに有無を言わせない彼女は、机をドンと叩いた。


「だから、迷宮探索よ!」


 もうこの方針は覆らない。

 それは滉一君と千佳ちゃんが放つ雰囲気で察した、きっと真奈美さんが言い切ったことに刃向うことは許されない。

 それがこのパーティの暗黙の了解なのだ。

 

 そこでとある疑問が浮かんだ。

 ……会議室を借りた意味はあったのだろうか?


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