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アナタと歩く英雄譚  作者:
第二章
16/51

第五話 気持ち次第でな


「ちょっとアンタ。千佳から離れて」


 凛とした声につられて振り返る、そこにはタイトな黒のローブを身にまとった女の子がいた。

 肩まで伸び、ウェーブのかかったセミロングの黒髪と、艶かしげにちろちろ動く美しい黒目、目鼻立ちのきりっとした美しい顔に目を奪われる。


「なに、ジロジロ見てんのよ」


 熟れたイチゴのような美しい赤い唇から飛び出した言葉に、美しさは感じられなかった。

 咎めるように強い目つきに、背筋が寒くなる。

 

 怖いなぁ……


真奈美(まなみ)お姉ちゃん!」


 滉一君が声を上げた。


「滉一君!? よかった、無事だったんだ!」


 真奈美と呼ばれた女の子は滉一君に近づき、「怪我はない?」など質問攻めにした。

 滉一君は少しめんどくさそうだが、丁寧に答えている。

 この姿だけ見ていると完全に保護者だ。


「滉一君、どうやってこの街まで来たの?」


「ソラトお兄ちゃんとホルさんに、連れて来てもらったんだ」


 彼はそう言って俺を指さした。

 そして、俺を見る真奈美とか言う人の視線が怖い。

 なぜ俺は初対面の彼女に、殺気にも似た何かをぶつけられているんだろうか。

 ホルは俺の首の後ろに身を隠し、顔だけ出して様子を伺っている。

 おい変態妖精、表に出てお前もこの殺気を受けろ。


「一応、礼は言っとくわ。彼を連れて来てありがとう。おかげで助かったわ」


「そ、そりゃよかった。お役に立てて何よりだ」


「……あんたも異界人?」


「お、おう。一応な」


「ふーん……」


 彼女は俺の足元から徐々に視線を上げ、顔まで到達し、ため息を吐いた。


「なんか冴えないわね」


 泣くぞこのやろう。

 俺の心のヒットポイントをガシガシ削る、真奈美と言う人の袖を、白髪の千佳ちゃんがチョンチョンと引っ張った。


「お姉ちゃん。ギルドマスターに挨拶行かないと」


「そうだった。ほら滉一君、お礼言っときなさい」


「う、うん! ありがとう、ソラトお兄ちゃん、それにホルさんも。また、一緒に魔物退治しようね!」


 初めて会った異界人たちは、ギルドの奥に設置された階段へと向かっていった。

 ギルドマスターに挨拶とか言っていたから、三階にある爺さんの部屋に行くのだろう。

 今思うと、滉一君にギルドランクを聞くのを忘れていた。


 あれほど圧倒的なチートを持つ彼のことだ。

 Bランク、もしくはAランクくらいの腕があるはず。

 そして、同行者の姉妹もそれくらいのチートを持っていると考えられる。

 

 一緒に調査を依頼された、ギルド本部から来る冒険者もBランク以上だ。

 あんなチート持ちの滉一君と、同レベルと考えるだけで憂鬱になる。

 俺はその人たちについて行けるだろうか、足を引っ張ることになるかもしれない。


 それでも、自分のチートがあれば嫌われて追い出される心配がない、そう思うと少しだけ安心する。

 なんとも、都合のいい性格だ。

 自分でそう思った。


 ずっと生活するには、相思相愛は嫌なチートかもしれないが、今回のように打算で発生する関係においては圧倒的な力を発揮する。

 人から嫌われて上手くいく物事が無いのは、前の世界でも今の世界でも変わらないのだから。


 新しい人との出会いに少しの不安と楽しみを胸に入れ、カウンターでリザードマン討伐の結果報告をする。

 報酬を受け取り、依頼の張ってある掲示板の前まで移動して、張れた紙に目を通す。

 時間がかかりそうな討伐系の依頼は、帰って来たばかりだし遠慮したい。

 何か簡単な採取系の依頼でもないかと、掲示板をマジマジと見つめる。


 Cランクの俺が採取系の依頼を取れば、まだEランク以下の冒険者たちから苦情が来るだろうか?

 以前、楽をしたくて採取系の依頼を手に取りカウンターに行くと「オーガを討伐できるのにやめてください」言われ、申し訳なさそうにするネナさんに止められた。


 俺自身の本当の実力はCランクに見合っていないのだが、周りから見ればランクの低い冒険者たちの横取りと映る。

 それにそんなことをしすぎると、依頼をこなせない初級冒険者が増えて、ランク上昇が遅れ、魔物の討伐がスムーズに進まない。

 そんなこともあって、最近は採取系のクエストを遠慮してきた。


 今日くらいは楽をしても許されるはず。

 そして良さような依頼を見つけ、手に取ろうとしたら、後ろから声をかけられた。


「ソラトさん。本部より派遣された上位冒険者が到着しました。ついて来てください」


 声の主はネナさん。

 今日も相変わらずお美しい。


「あと、一日くらい待ってもらうのはダメですか?」


「ダメですね」


 彼女の優しい笑みに、首を横に振ることは出来ず。

 俺はしぶしぶ彼女に連行される道を選んだ。


 タイミングが悪いと言うか、なんでこう嫌なことは重なるんだろうか。

 ネナさんの後について階段を上る時にそう思う。


「どんな人なんですかね?」


 今日は肩ではなく、頭の上に正座しているホルが聞いてきた。


「変な奴じゃなきゃなんでもいいさ」


「チートで誰とでも仲良く出来ますもんね」


「俺の気持ち次第でな」


 問題はどうしても生理的に、好きになれない奴だった場合だ。

 俺とまだ見ぬそいつの間に和平の道は無いだろう。

 どうあっても嫌われる、これが絶対の法則。


 うん、やっぱり少しだけ緊張するな。


 高鳴る心臓を胸にネナさんに連れられて、三階まで上がりギルドマスターの爺さんの部屋前で足を止める。

 ネナさんがノックし綺麗な声で「失礼します」と言ってドアを開けた。


「失礼しまーす」


 少し間の伸びた声をだし、ネナさんの後に続いて入室した。


「あんた……」


「え……」


「ソラトお兄ちゃん!」


 そこにいたのは机の座るギルドマスターと来客用のソファーに座る三人の冒険者たち。

 三者三様の反応に俺に対する好感度が窺い知れる。

 最初に反応した彼女にはあまりよく思われていない。

 二番目の少女には、可もなく不可のなく、まだよく分からないと言った感じだ。

 そして、最後の少年は一日一緒に居たこともあって、いい感じの度合いだ。


「もう知り合いなんですか?」


 ネナさんの質問に頬をかきながら答える。


「まぁ……ちょっと色々ありまして……」


 ギルドマスターからの依頼をこなすために、行動を共にする上位冒険者は出会ったばかりの異界人三人組だった。

 チートが効かない……どうしよ……











「オーガを倒した冒険者って、ソラトお兄ちゃんだったんだね!」


 滉一君が俺の横に座って嬉しそうにはしゃいでいる。

 チートは効いていないはずが、俺を好意的に思ってくれるのは正直嬉しい。

 年下から好かれるのも悪くない。


「まーな……運が良かっただけなんだけど……」


 俺たち4人の冒険者と妖精一匹、そして白い子犬はギルドマスターから正式に『魔物が突如出現する現象』についての調査を依頼された。

 分類は『特命クエスト』に分類されるらしい。


 ギルドマスターなどのお偉いさんからの直接の依頼はそう呼ばれているようだ。

 俺以外の3人は慣れたことなのか、説明を受けている間、涼しい顔をしていた。

 一人だけ動揺しているのを隠すことに必死で、内容がよく頭に残っていない。

 後でネナさんに聞いておこう……


 兎に角にも正式に依頼を受諾した俺たちは、親睦を深める意味も込めてご飯を食べに行くことになった。

 ホントは、千佳ちゃんが「お腹すいた……」と小さな声で言ったせいだということは、黙っておいた方がいいだろう。


 落ち着いた魔法照明の明かりに照らされた店内は、いつも利用する店よりも高級な雰囲気を漂わせている。

 メニュー表を隣の滉一君、頭に乗ったままのホルと見ながら、手持ちの金が足りるかどうか心配だった。


「まさかあんたとはねぇー。魔王軍のオーガを倒したって言ったから、勝手にもっと厳つい人を想像していたわ」


 向かいに座った真奈美さんが頬杖をついて言った。

 俺と同じ17歳で、滉一君と千佳ちゃんの保護者役。

 思ったことをそのまま言うストレートな口調は、美しく整った顔とは正反対だ。


「なに人の顔ジロジロ見てんのよ」


 うん、やっぱり怖い。

 彼女の隣に座る千佳ちゃんに視線を移すと、目をそらされた。

 膝に座る「テリー」と名付けられた、犬の白い毛並を手で遊んでいる。

 滉一君が言うに、千佳ちゃんは極度の人見知りらしく、初めて接する人とは目を合わすことも苦手とのこと。


 年下の子に嫌われるのは俺のメンタルに影響する。

 仲良くなれるよう、ゆっくり距離を詰めていければいいと思う。

 

 しかし、パーティメンバー全員がチート持ちとは過剰戦力すぎる気がしなくもない。

 俺のチートはともかく、滉一君一人でもかなりの戦力だ。

 それと同等の冒険者がさらに二人……どう考えても俺が足を引っ張る形になる。


 思わずため息がこぼれてしまう。


 それを聞いた、真奈美さんのするどい視線が突き刺さる。


「ため息したいのはこっちよ。なんで、あんたと一つ屋根の下なのよ。部屋は別だからいいけど」


「は?」


「ソラトお兄ちゃん聞いてなかったの? ギルドマスターが家の空き部屋貸してくれるって、言ってたじゃん。その方が都合がいいだろうって」


 まったく話を聞いていない間に、そんなことになっていたのか。

 あの爺さんの真意を測りかねるが、きっと早く解決して欲しいのだと勝手に思い込む。


「よ、よろしくお願いします……」


 千佳ちゃんが消えるかと思うほど小さな声で頭を下げた。


「こちらこそ。よろしく」


「クックック……ソラトさん。これは楽しいイベントが待っている予感ですぜ」


 ホルの声が隣にいる滉一君に聞こえていないか心配になる。

 彼を横目で見ると、メニューに夢中でその心配は無さそうだ。

 ホルの言う楽しいイベントはともかく。

 面倒事が増えるのは間違いないだろう。


 そう思うと、やっぱりため息しか出なかった。


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