表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナタと歩く英雄譚  作者:
第二章
15/51

第四話 第一印象は大切


 ホルは目を覚ました。

 カーテンの隙間から覗いた朝日が眠りから醒めたばかりの目にまぶしい。

 身体を起こし、テーブルに置かれたベッドから身体を出す。

 いつものようにフラフラと宙を舞い、まだ寝息を立てる異界人(彼ら)に近づく。


 滉一の可愛らしい寝顔を横目に、自分の使い手である空人の枕元に着地する。

 最近は魔物の討伐が多くて、気が張っていたこともあるだろう。

 彼の寝顔は緊張感のない、だらしない顔だった。


「だらしないですよぉ」


 頬を突いてみる。

 彼の頬はプニっとへこみ、思ったよりも柔らかい。


「しっかり、ハーレムしてくださいよー」


 さらに突いてみる。

 反応を示した彼の眉間にしわが寄る、これ以上は起きるかもしれない。

 頬を突くことをやめ、寝顔を見るだけにする。


 彼はずっと元の世界に帰りたいと言っている。

 もしも、彼の願いが達成されればこの旅も終わるだろう。

 そうすれば、自分は元の場所に帰ることになる。


 ――あのうんざりするような、暗い世界に


「ごめんなさい。私、嘘つきました」


 ホントは神界に帰りたくなどない。

 この旅がずっと続けばいいと思っている。

 彼がハーレムを作れば、この旅はずっと続くかもしれない。

 

 だから、彼にそうなるよう促していた。

 でも、彼は頑なにそれを拒んでいる。


 ずっと独りだった。

 神界では誰からも疎まれ、関わろうとはしてくれなかった。

 これほど長い時間、他の者と時間を共有したことは無く、話したこともない。


 正直楽しい。

 何気ないじゃれ合い、苦難に直面し必死に足掻く様。

 その全てが初めてで新鮮だった。

 世界はこれほどまでに素晴らしいのかと思うほどに。


 『正体』を明かせば、彼は何と言うだろう。

 本当は妖精など可愛い存在ではない、神を含めたすべてのモノを壊し、破壊する究極兵器。

 

 ――それが自分(神殺し)


 彼は何も気にしなそうだが、それでも正体を明かすことには抵抗がある。

 神すらも殺せる兵器と知れば恐怖を抱かれるかもしれない。

 それが嫌で、彼はそんなことは無いと頭では思っていても、心が嫌がる。

 もう独りは嫌だ、今の関係が心地いい。


 だから……


「ハーレム作って下さいね」


 耳元でそう囁き、ホルは自分のベッドに戻った。















「あぁ……まだ、眠いよ」


 向かいに座る滉一君が半開きの瞼をこする。

 どうやら彼は朝に弱いらしく、身体を何度ゆすっても起きなかった。

 俺の肩に座り、首を上下に動かす妖精も眠たそうだ。

 食堂に行って朝飯を食べるだけのはずが、この二人を起こすだけで大分時間を使ってしまった。


「ほら、飯だぞ。肩から降りろ」


「降ろしてくださいよぉ」


 甘えたことを言うホルの頭をつかんで、持ち上げる。


「おおう!? 首が! 首がぁぁあ!!」


 足をばたつかせるホルを机の上に降ろし、朝食である黒色のパンを千切って渡した。

 ホルは首を触り、感触を確かめている。


「変な方向に曲がったらどうするんですか!!?」


「ソラトお兄ちゃん。容赦ないね」


「こいつは芸人だからな。笑いに命、賭けているんだ」


「違います! もう少し丁重に扱わないと、夜、ベッドでごそごそしていたことを。冗談です、頭から手を放してください」


「何か言ったか?」


「怖い! 笑顔が怖いです!」


「ダメだよ! ホルさんが潰れちゃう!」


「一回、潰れた方がこいつのタメかもしれん」


「いやぁぁあ! 慈悲を! 何とぞ慈悲を!」


 朝からじゃれ合いをして、朝食を食べる。

 滉一君は朝食の量が多いのか、あまり手が進んでいない。

 口は動いているがなかなか呑み込めず、ずっとパンを片手に握っていた。


 今日の朝食は黒糖のパンにホワイトシチューとサラダ。

 ホワイトシチューにはサイコロ状に切られた肉が入っている。

 朝か食べるには少し多い気もするが、ありがたく頂く。


 最近はクエストで魔物の討伐が多くなったせいで、魔物の肉が市場に多く出回っている。

 そのせいか、肉が多い胃に来る料理がよく出てくる。


 強い魔物の出現、数の増加は街の安全にとって、確かに有害だが悪い面ばかりではない。

 魔物の数と質の増加は、市場に出回る素材の変化を促す。


 加工屋は依頼が多いと嬉しい悲鳴を上げ、その武器を売る武器屋の商品は高価になる。

 始まりの街と言われる『ミスオン』ではあまり見かけない武器たちは、駆け出し冒険者たちの心を躍らせ、やる気を促す。


 たが、魔物が何もない空間から現れるのは問題だ。

 街の中央に突然魔物が現れてもおかしくない。

 そんなことが起これば、街の被害は計り知れないだろう。

 

 現象の原因は不明、そして以前の襲撃の中に一頭だけいた黒いオーガ。

 魔王軍がこの街を強襲した? ランクの低い冒険者が集うこの街を?


 こちら側にダメージを与えるのなら、王都か、ギルド本部のある街を襲うのがベスト。

 それは間違いないし、魔物の召喚にも何らかのリスクやコストがかかるはず。

 無制限に出来るのなら、今頃何処かの街は火の海になっている。


 その貴重なコストやリスクを冒してまで、この街を襲うメリットが見当たらない。

 あるとすれば何かの試金石にすること……

 何処かで何か大きな事が動こうとしているのかもしれない。


 厄介ごとには巻き込まれたくないぁ。

 もしかすると、魔王軍が絡んでいるかもしれない、そう思うだけで気分が沈む。

 やっぱりギルドマスターの依頼、断るべきだったかなぁ……


 そろそろギルド本部から派遣される上位冒険者が来るはずだ。

 魔王軍と戦える力を持つ上位冒険者は、目の前にいる滉一君より強いだろうか?


 もし強かったらホントに化け物だ。

 そんな奴らとパーティを組むなんて、勘弁して欲しい。

 あぁ、朝から憂鬱だ。


「ソラトお兄ちゃん。僕が食べ終わるの待たなくていいよ?」


 滉一君が口の中のパンを飲み込み言った。

 どうやら俺の憂鬱な気分が顔に出ていたらしい。

 彼はそれを自分が食べ終わるのが遅いせいと勘違いしたようだ。


 滉一君の元には、あまり減っていないホワイトシチューと半分ほど残るサラダ。


「ゆっくり食べていいぞ。朝食はしっかり食べないとダメだ」


 成長期の彼には必要な栄養だろう。

 それにこうしてゆっくり食べられるときは、ノンビリしたい。

 また魔物討伐の依頼で外に出れば、野宿でご飯を食べるときも一応周りには警戒しないといけない。

 気が休まらないとはまさにそうだろう。


 昨日は久しぶりにベッドで寝たおかげで、今日は身体が軽い。

 リザードマンの依頼結果を報告しにギルドへは行く。

 だが、新しく依頼を受けるかは迷いどころだ。

 

 魔物増大の調査をするために、街の外で長く過ごすことになるかもしれない。

 栄喜を養うためにしばらく休むのもありかな。

 そんなことを考えていると、滉一君がようやく食べ終わった。


 ホルと三人で宿を出てギルドへと向かう。

 滉一君の同行者である異界人も冒険者だ。

 もしかすると、ギルドに何か連絡が行っているかもしれない、ネナさんにでも聞いてみよう。








 ギルドに入ると、カウンターの近くに見慣れない姿がった。

 街に侵入してきたオーガを討伐してから、俺はこの街で少しだけ有名人となってしまった。

 それ以降、建物に入るたびに他の冒険者たちから好奇の視線を向けられる。

 それが面倒だなと思っていたが、そんな視線が今日は少ない。


 こんなパッとしない冒険者に飽きてきたと思ったが、今日は俺でなく珍しい訪問者に興味を持っているようだ。

 カウンターの近くに置かれた椅子に座る、白い少女と白い犬。


 少女の腰まで伸びた白い髪は一つに纏められていて、服装も白い外套で全身を隠している。

 木の椅子に座る彼女の膝の上には、全身真っ白の毛並を持った子犬がチョコンと乗っていた。

 魔物か、獣か、動物を連れている人がここにいるのも珍しい。

 そして何より注目を集めているのは、髪と同じく、白く透き通った端麗なまでに整った美しい顔だ。


 そんな人目を引くほど愛らしい少女に見惚れていると、横にいた滉一君が元気よく駆け出した。


「千佳!」


「こ、滉一!!?」


 滉一君は驚いた少女の手を取り、まるで主人を見つけた子犬のような表情だ。

 どうやら二人は知り合いらしい、滉一君と知り合いの冒険者だろうか?

 とてもじゃないが、少女があの小柄で小さな身体で戦うようには見えない。


 再開を喜ぶ二人に近づくと、目に沁みるほど鮮やかな赤色をした少女の瞳が向けられる。

 桜の花びらのようにもろく、繊細な瞳と表情は、俺を疑っているようだった。


「滉一……この人たちは?」


「僕を森で助けてくれたソラトお兄ちゃんと相棒のホルさんだよ。色々とお世話になったんだ」


 どちらかと言うと、俺が滉一君に助けられたんだが……

 ここは俺たちの顔を立ててくれた彼に乗っかることにする。


「ソラトです。初めまして。お嬢さん」


「妖精のホルです。よろしくです」


 少女は子犬を抱きかかえると立ち上がった。


「は、初めまして。築山 千佳(つきやま ちか)です……滉一の幼馴染です……」


 一礼して、千佳と名乗る少女は滉一君の後ろに隠れてしまった。

 あ、あれ? 嫌われている?

 おかしい、今の自己紹介に嫌われている要素が見当たらない。

 顔か? 顔の問題か!?


「ソラトさん。この子に何したんですか?」


 ホルが耳元で聞いてきた

 さすがの変態妖精も小動物のような少女の前では、いつものノリは封印している。


「アホか。正真正銘ファーストコンタクトだ」


「あの子、名前からして異界人ですよ。前の世界で会っているとかないですか?」


「あるわけないだろ。白い髪の子なんて忘れるわけ……」


 髪の白い異界人?

 この子は築山千佳と名乗った。

 どう考えても、日本人だ。


 異界人は勝手に黒髪だと想像していた俺は、彼女の白い髪と赤い瞳から勝手にこっちの世界の人間だと勘違いしていた。

 と言うことは、彼女は滉一君と共にミスオンに来た異界人か。

 

 ――幼馴染とその姉


 この街に来た異界人は合計で3人。

 二人は目の前の滉一君と、千佳ちゃん。

 そして、もう一人はまるで保護者のようで『真奈美』と呼ばれる人。


「ちょっとアンタ。千佳から離れて」


 後ろからかけられる凛とした声に直感する。

 この人が真奈美と言う人だと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ