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アナタと歩く英雄譚  作者:
第二章
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第二話 彼は主人公


 天川 滉一(あまかわ こういち)は良くも悪くも素直な少年である。

 あまり人を疑わないと言えば善人だが、大人から見ればひどく危なっかしい性格であると言える。

他人から信頼を得る人柄と同時に、見知らぬ人を信じてしまう危うさも持ち合わせていた。


 そんな彼に与えられた神の祝福(ギフト)は、強力なものだった。

 エーオプノスで生きてゆくために魔物を狩るたび、その力は噂となり、知る者はその(チート)を最強の一つと噂するようになる。

 そして、何時しか人は彼をこう呼んだ。


 ――勇者に最も近い存在だと。
















「へぇ。じゃあ、ソラトお兄ちゃんは依頼の帰りなんだ」


「おう。滉一君は、ミスオンに向かう途中だったのか」


「うん。一緒に来た人たちと逸れちゃって……森の中を彷徨ってたんだ」


 彼は屈託のない笑顔を見せた。

 今は現在、俺たちは川の近くに腰を下ろし、魔物の肉にありついていた。

 滉一君がここに来るまでに倒した魔物の肉を、俺が生活魔法で木に火をつけ焼いたものだ。


 ホルも俺が渡した肉の一部を片手に滉一君と談笑している。

 誰とでもすぐに打ち解けられるあいつのコミュ力は、見習わなくてはいけない。

 そんなことを思いながら、周りを見渡す。


 辺りに漂う霧はまだ晴れる気配はなく、ミスオンへの帰還は時間がかかるかもしれない。

 休めるうちに休んでおかないと、魔物の群れに囲まれる可能性だってある。

 そう思い、今は互いの情報交換もかねて休んでいた。


「その人たちも異界人なのか?」


「うん。僕の幼馴染とそのお姉ちゃんだよ」


「へっへっへ。旦那ぁ、また新たな得物ですぜ」


 ホルが耳もとで囁く。

 彼の幼馴染とその姉と言うことは異界人だ。

 残念ながら、俺のチートは異界人には反映されない。


 異界人と言うことはその人たちも、当然のようにチート持ちのはずだ。

 彼にもチートは持っているかと聞くと「持っている」と答えてくれた。

 どんなモノなのかは、聞き返されたときに困ってしまうので聞かない。


 ただ、彼が俺のチートに関して何も聞いてこないのはどうしてだろう。 

 もしかすると、異界人同士とはいえ、チートの内容は伏せておくのがマナーなのだろうか。

 相手に教えるということは。自分の手の内を晒すことにもなるので、そうでも不思議ではない。


「どうしてこんな辺境の街まで来たんだ?」


「うーん……実はよく知らないんだ。依頼ってことしか僕は知らないよ」


 ………嘘を言っているようには見えない。

 それにこの少年はとても素直で、嘘を言うような子ではないと思う。

 年は俺より3つ下の14歳、元の世界では中学生の少年は頬緩ませ、肉にかぶりついていた。


 ホント、この子の素直さが眩しいよ。


「さて。霧を抜けるか」


 食事を終えて立ち上がる。

 飯を食べている間、霧が晴れないか見ていたが、よくなる傾向は見られない。

 何とか自力で帰る必要がありそうだ。

 視界が悪いが、索敵スキルを使って慎重に歩こう。


「何かいい手があるの?」


「索敵スキルを使って霧を抜ける。ミスオンの大体の方向は分かっているし、何とかなるだろ」


 俺の言葉に滉一君は首をかしげている。

 アレ? そんなに可笑しいこといったかな?


「索敵スキル? それがソラトお兄ちゃんのチートなの?」


「いや、違うけど……滉一君も冒険者ならスキルの一つくらい持っているだろ?」


「ううん。僕はチートしか持ってないよ」


「どうして?」


「え? だって、魔物を狩るにはそれで十分だもん」


 純粋な一言とは時に残酷である。

 あぁ、これが本物のチート持ちの思想か。

 俺のように無い知恵を絞って戦う必要など、彼らには無いのだ。

 圧倒的な力を有する彼らには。


「そうか。滉一君は強いんだな」


「うーん。自分じゃよく分からないよ。周りの人は凄いって言ってくれるけど」


 どのくらいの強さが異界人たちの中で平均なのかは分からない。

 俺のチートが間違いなく弱い部類に入ることだけは理解できるが、彼はもしかすると異界人たちの中でも上位に位置するのかもしれない。


 そんな彼に頼もしさを覚えると同時に少しだけ嫉妬。

 人を疑わないその人柄と強さは、俺がよく知る主人公たちとダブって見えたからだ。

 主人公の素質を持つ彼が、少しだけ羨ましかった。


 目を瞑り索敵スキルを発動させる。

 Lvが《2》となったこのスキルは単純に索敵可能な範囲が広がった、そして地形の索敵も可能となった。

 精度はかなり悪いんだけど。


 そんな索敵スキルで周りを探るが、違和感があった。

 索敵した結果は障害物のない平地になっているが、実際は木々があるので障害物がない平地はおかしい。


「どうしたの?」


「実際の地形と索敵スキルの結果が一致しない」


「霧の影響かな?」


「かもな。とりあえず歩くか」


「りょーかい」


 ミスオンの方向に足を向け、川沿いに歩く。

 霧が何処まで発生しているかは分からないけど、最悪何処かへ抜けられるだろう。

 そうして、俺たちは霧の中を進んでいった。














「ソラトさん。ここさっきも通りましよね?」


「確かに……見覚えがあるな」


「迷ったのかな?」


 川沿いにもうずいぶん歩いた。

 体感時間では半日くらい歩いた感覚だ。

 それなのに、霧は晴れる気配も川が別のどこかに繋がる気配もない。

 似たような場所をずっと歩いているような感覚だ。


「最悪、野宿かもなぁ」


「そればっかりは仕方ないね」


 俺の言葉に滉一くんが同意する。

 彼は俺よりも冒険者歴が長い、野宿には慣れているのだろう。


「乙女に二日連続野宿をしいるのですか!? 紳士はそんなことしませんよ!」


 俺の肩で大声を出さないでほしい。

 ホルの言い分は理解できる。

 この世界に来て、こっちの生活に馴染み始めているとはいえ、寝るときはやはり柔らかいベッドがいい。

 固い地面では十分に疲れがとれない。


「わがまま言うな。抜けられないんだから仕方ないだろ」


「ホルさん。ちょっとだけの我慢だよ」


「ソラトさん! この滉一君の紳士的対応を見習って下さい! これがレディに対する正しい扱い方です!」


 クソ、滉一君の前じゃなければ、いますぐ絞めてやるのに。

 それをホル(こいつ)も理解しているせいか、俺の方を見てニヤニヤしている。

 ホント、ムカつく妖精だ。


 野営のことも頭で考え始めたとき、発動した索敵スキルに反応があった。

 小さな魔物の反応が多数、俺たちを囲むように近づいてくる。


「滉一君、魔物が来るぞ!」


「わ、分かった!」


 二人で警戒心を上げて、周りの気配を探ると背後から何かの気配がした。

 横に飛び相手の攻撃を避ける。

 滉一君と俺の間に割って入ったのは、サッカーボールより少し大きい蜘蛛のような魔物だった。


 うわぁ……気持ち悪い。


 この世界に来て大きな生物に対する耐性はある程度ついたが、さすがに前の世界にいた生物が、そのまま大きくなったのは寒気がする。

 それよりも、滉一君と逸れてしまった。

 霧の向こうで彼も同じ魔物に囲まれているのだろうか。


「ソラトお兄ちゃん! 怪我はない!?」


 霧の向こう側から彼の声がした。

 自分よりも年下の少年が無事なことに安堵し、声を張り上げる


「大丈夫だ! そっちは!?」


「大丈夫だよ!」


 お互いの無事を確認し、周りを見渡す。

 霧の中から、同じ蜘蛛型の魔物が十匹出てきた。

 どうやら、こいつらは霧の中でも俺たちの正確な居場所がわかるらしい。

 そして、俺と滉一君を最初に分断したことを狙ってやったとしたら、この魔物の動きは統率がとれていることになる。


 個々の知能が高いのか、それとも別の可能性か。


「ホル! やるぞ!」


「よしきた!」


 ホルが光を放ちながら、俺の右手に収まり、光は長剣へと姿を変える。

 右手で剣をしっかりと握り、正面に構える。

 いつ来てもいいように集中力を高めるが、魔物たちは一向に襲ってくる気配がない。


 まるで、時間稼ぎをしているような……


『後ろです!』


 ホルの声に反応し、振り返ると、太く速い何かが俺を目がけて飛んできていた。

 考えるよりも先に身体が動いた、その何かの一撃を長剣で防ぐ。

 受けきれなかった衝撃に身体が吹き飛び、一瞬の浮遊感の後、背中から衝撃。

 地面を転がり、さらに追い討ちといわんばかりに木の幹に身体を打ち付ける。


 肺から空気を無理やり吐かされ、酸欠で霞んだ視界に近づく影。

 先ほどまで、俺を囲んでいた蜘蛛型の魔物だ。


「くっ」


 剣を水平に振り、近づいてきた三匹を絶命させる。

 早く立たないと次が来る。


 そう思い、先ほど背中に打ち付けた木に背中を預けて立ち上がる。

 このまま寝たいなとか思うが、そうなれば一生朝を迎えることは出来ないと判っている。

 リザードマンの討伐だけのはずが、えらいことになったもんだ。


『ソラトさん! 大丈夫ですか!?』


「大丈夫だ……」


 長剣(ホル)を再び正面に構え、霧の中から現れた魔物と対峙する。

 白く濁った骨のような外見は硬さを感じさせ、大きさは大人の像ほどの大きさだろうか。

 足は八本、蜘蛛ような、だがその身体はムカデのように細い。

 そして、なによりも目を引くのは、長く伸びた尻尾


 俺を攻撃してきたのはあの尻尾か。

 

 これだけの魔物が統率をとれている理由。

 個々の知能が高くないとすれば、それはリーダーがいると言うことだ。

 そして、それは今、目の前にいる魔物に間違いない。


 強そうだ、それは一目見て分かる。

 一瞬、魔物の尻尾が霞んだ。

 そう思った時には、すでに残像すら残す勢いで振り回されていた。


 反応できるギリギリの速度だ。

 横にローリングして回避すると、小さな蜘蛛型の魔物が正面から二匹襲ってきた。

 それらを長剣で切り伏せる。


 やりづらい……!


 こいつらの連携は相当厄介だ。

 リーダー格である魔物の攻撃は一番警戒しないといけない。

 かと言って、周りの小さな魔物たちの警戒を下げて、足止めくらえば、尻尾の攻撃をくらう。


 両方の位置に気を付けながら、立ち回らなくてはいけない。

 魔法で一気に攻勢をかけてみるか?


 いや、失敗して姿を見失えば、また奇襲される。

 この霧だ、一度姿を見失えば再び発見するのは困難だろう。

 視界に捉え続けて戦うしかない。


 そう思って、剣を構えたとき、俺の目の前に黒い影が何処からともなく現れた。


「お待たせ」


 影の正体は滉一君だった。

 てか、どんな速度で動けるんだよ……


 接近にまったく気づかなかったこと、まるで突然現れたかのように錯覚したことから、彼のスピードが尋常でないことを悟る。


「あとは、僕に任せて。僕のチートならこいつら倒せるから」


 滉一君はそう言うが、彼の手には何も握られていない。

 相変わらずの丸腰なのだ、魔法をベースに戦うのだろうか?


「聖剣抜刀」


 彼がそう呟くと、右手が光輝き、蒼い色の魔力が渦となって集まってゆく。

 光はやがて一本の剣となった。

 美しく透き通った蒼い刀身の剣に。


 彼はそれを握ると消えたと錯覚するほどの速さで、リーダー格の魔物に肉薄する。

 その様はまるで影。

 黒髪のせいか、黒い影が凄まじい勢いで動いているように見えてしまう。


 そして、リーダー格の魔物の頭に剣を入れる。

 縦に入れた剣はそのまま、魔物の身体を一刀両断に切り倒してしまった。

 身体が真っ二つになった魔物が、ドシンと音を立てて倒れる。


 周りにいた小さな魔物たちは、ボスがやられとあってすぐさまその姿を消した。

 あまりに一瞬の決着に呆気をとられる。

 本物のチートとはここまで凄まじいのか。

 俺が苦戦していた魔物を一瞬でたたき切るほど。


 目の前の少年が同じ異界人であると言うことが信じられない。

 彼のチートからすれば、俺のチートはなんとちっぽけなモノなのだろうか。

 そして、本物のチートを持つ少年は、笑顔でこちらに振り向いた。


「僕のチートは『運命を切り裂く聖剣の生成』なんだ」


 かっこいいなぁと心で呟く。

 そして、思う。

 やっぱり、この子は主人公気質だと。


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