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アナタと歩く英雄譚  作者:
第一章
10/51

第九話 集中していこう


 ギルドの中では職員さんたちが忙しなく働いている。

 いつもなら話しかけることを遠慮するが、非常時の事態がすぐそこまで来ている。

 カウンターにネナさんの姿を見つけて、近づいた。


「ネナさん! 話があります!」


「は、はい!? そんなに慌ててどうしたのですか?」


 俺は早口でゴブリンが街に近づいていることをネナさんに伝えた。


「ほ、本当ですか!? ど、どうしよ……急いで先輩に伝えてきます!」


 ネナさんはハタハタと職員さんに近づき、何か話している。

 ネナさんから話を聞いた女性職員さんがさらに奥へと消えた。

 俺の元に戻って来た彼女は額に汗を滲ませ、早口で口を動かす。


「近くの住民の避難、および掃討戦の冒険者が到着するまでの時間稼ぎに入るそうです! ソラトさんは先行して足止めをお願い出来ますか!? 動ける冒険者にはすぐに招集をかけます!」


「分かりました!」


 ネナさんら職員たちの動きがより一層、せわしくなる。

 大規模な戦闘が行われないこの街では、魔物が侵入してくるなど非常事態のはずだ。

 いや、細かいことは後で考えよう、今は自分の出来ることをやるんだ。


 ギルドの建物を出て、ゴブリンが来るであろう東門へと向かう。

 街に取り付けられたスピーカーから、機械音が聞こえる。


『ゴブリンが街に侵入してきた可能性があります。東門近くの住民は指示に従って避難してください。また、動ける冒険者たちは至急東門へ急行してください』


 東門の近くまで行くと、門兵がすでにゴブリンを迎え撃っていた。

 門兵二人に対して、ゴブリンの数は二十匹ほどいる。

 いくら相手がゴブリンとはいえ、数が違いすぎる、このままでは長く持たない。


『ソラトさん! 弓になりますか!?』。


「遠距離攻撃は味方を巻き込むかもしれない。このまま切りかかる!」


 ゴブリンの群れに真っ直ぐ突っ込み、正面のゴブリンの喉へロングブレードを突き立てる。

 素早く引き抜くと、ゴブリンの喉から血飛沫が舞った。


「あ、あんた!?」


 槍を手にした門兵が聞いてきた。


「増援の冒険者です。後にも来るからあと少し持ちこたえて下さい」


「た、助かった。急に何もない所から現れて、増援を呼ぶのもままならなかったんだ」


 何もない所から?

 掃討戦から漏れてきたゴブリンじゃないのか。


『次が来ます!』


 ホルの声に正面を向き、突っ込んできた最初のゴブリンの首に横から刃を入れる。

 抵抗無く骨ごと断ち切り、ゴブリンの首を切り飛ばす。

 相変わらず、相棒(ホル)の切れ味は素晴らしい。


『ソ、ソラトさん……そんな、激しいのはダメです……』


 緊張感が台無しだ。


 首を切り飛ばしたゴブリンの足が止まり、首から赤い噴水が宙へ上る。

 しかし、それは一瞬で、後続のゴブリンに踏みつぶされてしまう。

 生まれて初めての乱戦に内心で舌打ちしながら、更に剣を振るう。


 剣術:《2》のスキルで身体能力が上がっているとはいえ、ジリ貧なことに変わりはない。

 そう思った瞬間、増援の冒険者たちが到着した。

 周りで聞こえる剣戟の音が増大する。


 街に残っていたということは、俺と同じEランク以下の冒険者だろう。

 数は五十人くらい居る。

 それでも、二十数匹のゴブリンの倍以上の数だ。

 

 数の利を生かし、ゴブリンたちを一匹ずつ複数で囲んで各個撃破していく。

 このまま行けば、街の中に侵入を許すことは無さそうだ。

 一息ついたその時だった、何もない空間が揺らぎ、輪郭を持ち、色が顕れ、一つの形と成る。

 

 現れたのは黒い肌に6mほどの巨体で、頭には一本の角を持つ魔物。


一角鬼(オーガ)だ!!」


 冒険者の一人が叫んだ。

 成人男性ほどの胴回り持つ腕と脚、気性の荒そうな顔を持つオーガは腕を振り下ろした。

 大地を砕こうかという威力に背筋が寒くなる。

 あんなものをくらえば間違いなく死ぬ。


『どうします!?』


「周りと同じように後退する!」


 周りにいる冒険者たちはすでに後退を始めている。

 オーガの討伐にはどれくらいのランクが適正なのか分からないが、Eランク以下の冒険者が束になった所で結果は見えている。


 召喚されたばかりで意識が混濁しているのか、その場で暴れるオーガと距離を開ける。

 街の中に入ると住民の避難を行っているネナさんを見つけた。


「ソラトさん! 冒険者たちが一斉に街に入ってきましたけど……」


「オーガ現れました。早く避難を」


「オ、オーガ!? そんな、魔物がどうして……」


 ネナさんと会話をしていると周りから悲鳴が聞こえた。

 振り返ると先ほどのオーガが街に侵入している。

 そして、黒い巨体を持つ魔物は、俺とネナさんに目がけて飛んできた。

 

 ネナさんを抱いて横に飛ぶ。

 オーガが振り下ろした拳は石造りの道を簡単に粉砕した。

 危なかった……少しでも遅れていたらあの石のように木端微塵だった。


 ネナさんを手放し、立ち上がる。

 黒い巨体の暴君は俺に狙いを定めたのか、真っ直ぐこちらを睨んでいた。


 どうする? 掃討戦に参加している冒険者たちが街に到着するには、まだ時間がかかるだろう。

 ネナさんがここに居たということは、住民の避難はまだ完了していないはずだ。

 

「ネナさん、立てますか?」


 俺の陰に隠れて放心状態に陥っている彼女に声をかける。

 自分にかけられた声に驚き、肩が大きく揺れた。


「は、はい! すぐに応援を……あ、あれ……?」


 ネナさんが一生懸命立とうとするが、うまく立てない。

 腰が抜けてしまったようだ。

 彼女の身体は小刻みに震え、顔に焦りの色が浮かんでいる。


 こんな間近で魔物を見たのはきっと初めてだろう、周りの住民の避難をしている他の職員たちもパニックに陥っており、オーガを見た住民の悲鳴や叫び声が聞こえる。

 これ以上は魔物の刺激になるかもしれない。

 

 住民の避難も停滞気味だ。

 街の中での暴走を許すわけにもいかない。

 なら、とるべき手段は一つしかない。


「ホル。やるぞ」


『よしきた。私たちの力、見せつけてやりましょうぜ!』


 なんで、こいつはこんなノリノリなんだ。


「ダ、ダメです! オーガの討伐はCランク以上の冒険者が対象です! いくらあなたでも……」


 ネナさんがオーガと戦おうとする俺たちを止める。

 戦うと言っても、掃討戦に参加していた冒険者が帰ってくるまでだ。

 言うなれば本当の足止めで、倒せなくてもいい。


「死なない程度に頑張るだけです」


 そう死なないようにする。

 それが一番大事だ、しかし、他人に死が迫っているのに見過ごせるほど、割り切ることもできない。

 中途半端だと自分でも思う。


 いや、今は目の前の事だけに集中していこう。


 雑念を振り払い、一度大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。

 今からすることは、本当の命のやり取りだ、油断は死につながる、油断大敵それは分かっている。

 ただ、自分でも驚くほど冷静だった。


 足に力を入れ地面をける。

 正面からオーガに近づき、水平に払われた右拳をしゃがんで避ける。

 オーガの左足に狙いを定め、太ももを剣で切り付けた。

 しかし、出血はなく火花が飛び散るだけである。


「かたっ」


 それはこの世界に来て初めての感触、まるで鉄を切り付けたような硬さだった。

 今まで、魔物を簡単に切り倒してきた武器(ホル)でも通らない硬度に、驚きを隠せない。

 俺の筋力の問題なのか、ホルの武器化熟練度の問題なのか、それともこのオーガが特別に硬いのか。

 今はそんなことどうだっていい。


 オーガが振り下ろした拳をバックステップで避ける。

 オーガが拳を地面から離すと、小さなクレーターが完成していた。

 ホント、とんでもない馬鹿力だな。


 物理がダメなら魔法はどうだ。

 詠唱破棄でファイヤーボールを発動させる。

 4つの火球を創り出し、それをオーガに向かって放つ。

 高速で宙をかける魔法はオーガのよりも速く、4つともオーガに直撃し、魔物は爆炎に包まれた。


『やりましたね!』


「いや……まだだ」


 舞い上がった煙が晴れて、黒い肌が顕わになる。

 オーガの身体に欠損は見られない。

 魔法への耐性が高いと言うより、やはり肌がとんでもなく硬いようだ。


『ど、どうします!? 足止めどころか、ダメージ無さそうですよ!』


 ホルの言う通りだ。

 正直、倒せなくても多少の手傷は与えられると思っていた。

 それが実際、ダメージらしいダメージは与えることが出来ていない。

 まだ、駆け出し冒険者とはいえ少しショックだ。


 こうなったら、意地でも一発入れてやる。


「ホル。連続での武器化は何回出来る?」


『……3回です。それが今の限界値です』


 3回か……それだけあれば何とかなるか……


 俺が離れた頃合いを見計らって、周りの冒険者たちから援護射撃の矢が飛んできた。

 オーガは一応、頭を両手でスッポリと覆っているが、肌には傷一つ付かない。

 Eランク以下の冒険者の装備じゃ厳しいようだ。

 それでも短い時間稼ぎはありがたい、魔法を詠唱するのは少しだけ時間がかかる。


「ホル。俺が合図したら武器を変えてくれ。順番は弓、剣、槍だ」


『わ、分かりました!』


 ホルの返事を確認して、火魔法:《2》の詠唱を開始する。


「『制裁者よ、汝の命、我が刃となりその命を燃やせ』、フレイム・エンチャット」


 火魔法:《2》から可能となった属性付加の魔法。

 まだ時間は数十秒だが、その威力は計り知れない。


「ホル! 行くぞ!」


 合図を受け取ったホルが光を放ち弓にその姿を変える。

 そして、弓を構えると、魔法により火の矢が生成された。

 それを、オーガに向けて狙いを定める。

 火の矢を放ち、それと同時にオーガに向かって駆け出し距離を詰めた。

 俺が動いたことを確認してか、援護射撃の矢が止まる。


 そして、放った火の矢はオーガの胸に突き刺さった。

 オーガの叫び声が、耳に鐘を叩くように響く。

 致命傷とまではいかなくても、少しだけ効いたようだ。


「二撃!」


 ホルに二回目の合図を送り、新しく武器化した長剣(ホル)を握る。

 刀身は魔法によって紅蓮に染まり、剣の威力を物語っていた。

 オーガの懐に入り込み、先ほどの攻撃でつけた傷を見つける。

 

 その小さな円形の傷に向けて、剣を振るう。

 剣が当たるたびに、傷口が火を帯びて深くなっていく。

 それに応じて、オーガの叫び声が一層大きくなる。


 耳がいてぇ。


 怒り狂ったオーガの腕が水平に振られる。

 俺の接近を嫌がってのことだろう。

 それを後ずさりで何とか躱し、ホルに最後の合図を送る。


「三撃!」


 長剣が光を放ち、槍へと姿を変える。

 もう魔法の効果時間は殆ど残っていない。

 それでも、槍に魔力を流し、槍全体に魔法を付加させた。

 金属の穂の部分から、端っこの石突までが紅く染まる。


 オーガは右拳を伸ばし、俺を殴り飛ばそうとしてくる。

 やはりこいつは俺の接近を嫌がっている。

 これ以上の痛みは感じたくないという、生き物の本能的な防衛反応のようだ。


 身体を半身にして、右拳を避けた。

 そして、血が流れる胸の傷に狙いを定め、槍を突き刺す。

 剣で肉を削ったかいもあり、槍はオーガの身体を貫いた。


「ガアッ」


 胸に一本の槍が突き刺さったオーガの動きが止まる。

 そして、大の字となって倒れた。

 (ホル)を抜いてオーガの反応を確かめる。

 ……死んだみたいだ。


「はぁ……助かった」


 大きく息を吐いて安堵する。

 命のやり取りで生き残った安心と、運が良かったとはいえオーガを倒せた喜びが一気に湧き上がる。


「ソラト! 大丈夫!?」


 声をかけられ振り向くと、額に汗を滲ませ、肩で息をするアリュラの姿があった。

 その後ろには掃討戦に出ていた冒険者たちの姿も見える。

 ゴブリンの掃討を終えて、街に急ぎで戻って来たらしい。


「おう。なんとかな」


 倒れて動かなくなったオーガを指さす。


「これ……ソラトがやったの?」


「一応は。運がよかっただけだよ」


 アリュラは「凄いわね」と言い残して、事後処理があるらしく何処かへと去って行った。


「あ、あの……ありがとうございます」


 声の主はネナさんだ。

 猫耳をペタンと寝かし、頭を下げている。


「礼を言われることは何もしていませんよ。だから、顔を上げてください」


 彼女が顔をあげ、互いの視線が絡む。


「そ、それでも、ソラトさんが戦わなければ被害がどれほど出たか……きっと、特別報酬が出ると思うので後でギルドに来てください。その……お礼もしたいですし……」


 彼女はもう一度、頭を下げると何処かへ歩いて行った。

 ギルドでこれからアリュラと同じく事後処理が待っているのだろう。

 俺もギルドに向かうか。

 近くに冒険者たちが居ないこと確認し、ホルに話しかけた。


「ホル。解除していいぞ」


 槍が光に包まれ、人の形へと変わる。

 ようやく武器化を解いたホルは戻るなり、俺の肩で寝ころんだ。


「すいません……武器化の反動で疲労が……だから、少し肩を貸してください……」


 ホルはそう言って、俺の肩で寝息を立て始めた。

 連続武器化を限界回数まで行った、さらに今回の戦闘のように長時間彼女を使ったのは初めてのことだ。

 疲労が相当溜まっているらしい。


「お疲れさま」


 そう言って、今回のMVPの頭を指でそっと撫でた。


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