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アナタと歩く英雄譚  作者:
第零章
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第零話 プロローグ

 17歳、高校2年生。

 青春の真っ只中を生きる俺はある女子に片思いをしている。

 相手の子の名前は秋月 茜という学校でのマドンナだ。


 容姿端麗、成績優秀で後輩からの人望も厚い。

 今度の生徒会選挙にも立候補するとか、まさにリア充の帝王というべき存在だろう。

 俺のように想いを寄せる人物は数多くいるが、彼女は彼氏を持っていない。


 理由は「高嶺の花だから」だ。

 彼女と仲良く話す運動部のイケメンリア充集団ですら、彼女のハートを射止める奴はいない。

 なのに、告白しようなどという勇気を持った、自殺志願者が現れる訳もなく。

 

 上位カーストに属するリア充(彼女たち)を見ていると、自分がいかに道端に転がる小石かよく分かる。

 教室や廊下が喧騒で包まれる昼休みに自分の席に座り、趣味のラノベを読む俺には遠い世界の話だ。

 

「俺もこんな主人公みたいにハーレムできるくらいならなぁ……」


 ラノベには夢がつまっている。

 今読んでいるのは最近流行りの異世界トリップ類のものだ。

 賛否両論あるが、俺はこの類の話は大好きだ。


 冴えない主人公が神様からチートを与えられ、異世界で女の子からモテまくる。

 まさに、男の夢を叶える夢のような展開。

 ご都合主義だと言う人もいたが、娯楽なのだから多少のことは見逃してもいいと思う。


 しかし、俺が望むのは彼女を振り向かせること。

 ラノベの主人公のように多数の女の子からモテまくるなんて、贅沢は言わない。

 自分が好きな人、たった一人を振り向かせるだけでいい。

 ハーレムを作れる彼らのような主人公ならば、彼女の目にも魅力的に映るのだろうか?


 ……アホか……俺は……


 現実と創作を一緒にしてはいけない。

 これはあくまでも本の中の世界であり、現実は人一人振り向かせるのにも時間と労力がいる。

 

 そういう意味では、ラノベの主人公たちの最大のチートは「モテる」ということだ。

 道端の石ころではない、道を歩く者にはそんなものは標準装備なのだろうか。


「ちゃんとチートとして装備しとけよ」


《僕もそう思うよ》


 若い男の声が脳に響いた。

 顔を上げ、周りを見渡すが俺を見る生徒などいない、ましてや声をかける生徒など皆無だ。

 気のせいかと思い、再び本に視線を落とす。


《気のせいじゃないよ》


 再び聞こえた若い声。

 次の瞬間、俺は突然の浮遊感に襲われ、視界は黒く塗りつぶされた。










「ぅん……?」


 目を開けると目の前には真っ白い壁があった。

 背中の感触から自分が仰向けであることを理解した。

 身体を起こすと、一面真っ白な空間に、金髪の少年が一人、純白のテーブルに座っていた。


「神の部屋にようこそ。相葉 空人君」


「……帰ります」


「まぁまぁ、そう言わずに座りなよ」


 選択肢がなかった俺は、神を名乗る中学生ほどの少年に促され、白い椅子に座った。


「飲み物は何がいい?」


「とりあえず、コーラで」


 少年が指を鳴らすと、目の前にストロー付きでコーラの入ったグラスが出てきた。

 すげぇ、こんなことが出来るなんて、この少年は本当に神とやらなのかもしれない。


「どうぞ。おかわりもあるよ」


 神の笑顔に裏がないか、怪しい気持ちは消えないが、ストローを使って怪しいさがするコーラを飲んだ。

 味は間違いなく俺が知っているコーラだった。

 

うまい。


「さて、少し緊張もほぐれたことだし、本題に入ろうか」


 神様の少年が再び指を鳴らすと、さっきまで俺が読んでいたラノベが現れた。

 少年はラノベをパラパラとめくり、眉間にシワを寄せる。


「僕はね……思ったんだ」


「何をです?」


「君と同じこと」


 さっきまで、自分が何を思っていたかを思い出す。

 モテるチートでも標準装備しとけだっけ?


「ハーレムするなら、それに準じたチートを標準装備しとけって話しさ」


 予想通りだった。


「娯楽ですし、いいんじゃないですか?」


 つーか、俺はなんでこんな奴と普通に会話しているんだろう……


「いいや……僕は納得できないんだ! ハーレムは大好きだ。でも、お腹いっぱいさ。冴えない主人公たちに群がるヒロインたち……本当に最近のラノベ主人公はモテすぎだよね? だから開き直ることにしたんだ」


「と、言いますと?」


「僕がモテるチートを与えて、異世界に飛ばせばいいんだ……と」


「身の蓋もないこと言わないでください」


「いや、君になら理解できるはずさ……さっきまで、ぼやいていた君になら! 『ハーレムできるくらいならなぁ』とぼやいていた君になら!!!」


「そこの部分だけ切り取るな!!」


 思わず敬語が外れてしまった。

 しかし、俺はハーレム主人公になりたいのではない。

 ハーレムを作れるほどの魅力を手に入れ、意中の女の子を振り向かせたいのだ。

 いわばハーレム主人公たちとは逆の立場と言える。


「君ならハーレム専用のチートを使って、ハーレムする主人公という、僕の願望を叶えてくれるはずさ! たとえ、職権乱用になったとしても、僕は君にハーレム専用のチートを与えて異世界へと飛ばす!!」


「自分の願望に素直すぎるだろ!! それに俺、異世界に飛ばされるの!!?」


 椅子から立ち上がり、両手で机を叩いて抗議する。

 しかし、白い椅子から立ち上がった残念な神は鼻息を荒くして、何やら唱え始めた。

 やばい! こいつはマジでやる気だ!!


「待ってくれ! 急展開すぎる! それに異世界ってどんな世界だよ!!」


「今まさに君が読んでいたような、魔物が蔓延り、歩いていると死ぬかも知れない世界だ!」


「物騒すぎるから!! チートも要らないし元の世界に返してくれ!!」


「僕のこの情熱は止めることはできない!!」


「見切り発車かよ!!」


「そうだ! あと、君と旅をする相棒を紹介するよ! ホル!」


 神が激しい指パッチンをすると、机の下から20cmほどの羽の生えた女の子が出てきた。

 腰までフワリと伸びた桃色の髪と白いワンピースを身に纏った妖精は、気持よさそうな顔で眠っている。


「妖精?」


「そう、妖精のホルだ! 今は寝起きで少しだらしないけどね」


「ふぇ……あ、神様おはようございます。って、人間!!?」


 妖精の眠そうな表情が一瞬にして驚きのそれへと変わる。


「ホル。君には今からそこのえーっと……人間と下の世界に行ってもらうから」


 人の名前くらい忘れるなよ、神。


「はいはい、なるほど……って、えぇぇえ!!?」


 キレのあるノリツッコミだ。


「嫌ですよ! 犯されちゃいますぅぅぅう!!!」


「大丈夫! 彼には他の女の子が寄りつくから、それで発散するさ!!」


「しないから! 初めては好きな人って決めてるから!」


「乙女みたいなこと言うんですね。あなた……ププ」


 決めた、この妖精はいつか殺す。


「フッフ……君のその貞操観念が捻じ曲がると思うとゾクゾクするよ! さぁ、行ってこい!」


 足場に白い穴が現れ、体が沈んでゆく。


「おい! 行くなんて一言も言って……」


 口が穴に入り声が出ない。

 頭まで穴に入りきろうとしたとき、神が笑みを浮かべた。


「アイテムボックスに説明入れといたから読んどいてね」


 適当かい!!


 そうして俺は強引に異世界へと旅立った。


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