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こんな夢を観た

こんな夢を観た「鎌倉の大仏」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/09/24

 由比ヶ浜の海沿いのオールドファッションな喫茶店で鎌倉タコライスを食べ、浜辺を歩いてみる。

 もう海の家はないけれど、夏のなごりでも探しているのか、けっこうな人が集まっていた。

「この間まで夏だったなんて、信じられないねえ」誰かが溜め息混じりに言う。

「そうだなあ。だんだん、季節のめぐる速さが増していくような気がするよ」

「やだあ、それって年取ったってことじゃん」

 波打ち際まで寄ってみると、桜貝が一面にちりばめられている。

 季節外れの散桜を見ているようだった。


 その時、浜の近くに設置されたスピーカーからサイレンが響き渡る。

「市内の皆様、オニ注意報が発令されました。速やかに浜辺から退避してください。繰り返します。オニ注意報が発令されました。浜辺は危険なので、ただちに避難してください」

 辺りがざわざわと騒がしくなる。何事かと様子を見ているうちに、あれだけ大勢いた人達が、いつの間にかいなくなっていた。

 寂しげな秋の午後、わたし1人だけが、海岸で波の音を聞いている。


 波打ち際に、ひときわ背の高い影があった。今の今まで海にでもいたのか、頭のてっぺんから爪先までぐっしょりと濡れそぼっている。

 トラ皮の腰パンだけを身につけ、赤銅色に日焼けしたたくましい姿をしていた。ぼさぼさの髪はほとんど赤と言ってもよく、その頭には金色をした2本のツノがニョキッと突き出ている。

「オニだ……」わたしは思わずつぶやく。

「そう、オレはオニだ」オニは低い声で唸るように言うと、ゆっくり近づいてきた。

 わたしは初めて恐怖を覚え、浜辺を後にして駆け出す。国道を渡りきって振り返ると、まだ砂の上に足跡をつけている最中だった。カッと見開いた眼だけは、確実にわたしを捕らえて放さない。きっと、どこまでも追ってくるに違いなかった。


 狭い県道を折れ、山の方へと走る。

 オニは急ぐ様子もなかったが、わたしが立ち止まって休憩をするたびに、ずっと向こう側の道から顔を出した。ある時は曲がり角の塀の陰から、またある時は坂道の陽炎とともに。

「どうしよう。とことん、追いかけてくる。いつまで逃げればいいんだろうっ」わたしは不安でたまらなかった。

 捕まったらどうなるのだろう。海に引きずり込まれるのだろうか? その場でボリボリと貪り食われてしまうのだろうか?


 どこからか声がする。オニの声ではない。それに、耳で聞いているのでもなかった。

 心の中に直接語りかけてくる、そんな声である。

「そのまま、まっすぐ。もうすぐですよ、もうすぐ」

 とても安心する声だった。わたしは、持てる力を振り絞って、声のなる方へと走る。


「あ、ここかぁ……」鎮守の杜を抜けると、見覚えのある門が目に入った。小学校の頃、修学旅行で来たことがある寺院だ。

「さあ、あと一息。こっちへおいで」声が呼ぶ。わたしは門をくぐり、広い境内をどんどん走った。

 もう、わたしには声の正体がわかっていた。

「来ました」わたしは大仏を見上げる。

「わたしの中にお入り」大仏が言った。

 わたしは傍らの入り口から、中へと入る。暗くて、しんと静まり返っている。


 初め、少しだけ怖かった。外界から閉ざされ、二度と光を見ることができないのかとさえ思った。

 胎内を空気が流れているのか、風の音が聞こえる。まるで、大仏が呼吸をしているかのようだった。

 それに合わせるように息を吸ったり吐いたりしているうち、怖いと思う気持ちが失せていく。いつしか、大仏と一体となったような気持ちになり、いい知れぬ心地よさに包まれていた。


 外で砂利を踏みしめる音がする。あのオニがやって来たのだ。

「人が来なかったか?」オニが大音声で尋ねる。

「来ました」大仏が静かに答える。

「渡してもらおう」

「ならば、あなたもわたしの中に入らねばなりません」  

「できぬ。オレはオニなのだ」とオニ。

「オニをやめればよろしい」

「オニをやめるつもりはない。そなたの中に入るつもりも毛頭ない」

「では、どうします?」大仏が聞いた。

「去る。そうするより他にはあるまい」


 オニが帰っていくのがわたしにはわかった。

 けれど、わたしは大仏の中から出たくないと感じていた。

 まだ、しばらくは。

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― 新着の感想 ―
[一言] 昔吸血鬼になった友達が真夜中に追いかけてくる夢を思い出しました。 めっちゃこわいですよね。
2014/09/24 17:56 退会済み
管理
[一言] それほど悪くなさそうな鬼だと思ったのですが、何かの業を負ったようにどこまでも追いかけてくるのはやっぱり怖いですね。悪意でもなく、脅しでもなく、鬼というものの習性でしょうか。大仏の中に入れない…
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