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語り部は僕に告ぐ  作者: 網野江ユウイ
5/13

Story:4

遅くなりました。お久しぶりです。

久しぶりの続編投稿で,何というかこれを書くのに前の話を読み返すところから始めました。もう少し,竜海とその周辺の状況説明が続きそうです。

 いつもよりだいぶ早めに訪れた電算機研究会の部室は,竜海以外誰もいなかった。パソコンの駆動音もなく,静まり返っている。近くの部室で演奏をしているのだろうか,JAZZ倶楽部のお洒落な音色と,交響楽団クラリネの品のある演奏だけが部室棟に響いていた。今日はまだ,軽音楽部が演奏を始めていないせいだろうか,ドラムの音が聞こえないのが少し寂しいような気がした。聞こえたら聞こえたでうるさいと思うのだが。ふと時計を見れば,まだ17時前だった。

 ここに来る直前に行われたテストが完全に小テストレベルの問題をよせ集めた程度のものだったせいか,さほど考えることもなくあっさりと試験を突破してきた竜海である。彼の得意教科,生物学関連については強いという自負がある。それがこんなところで通用するとは思っていなかったが。(通用して高校生までだと思っていた。)

(さすがにまだ誰も来てないのか。ヒロは試験中かな。)

 というか,よく考えたらまだ5限の途中なんだっけ。そんなことを思いながら竜海は自分専用の机の前に座って,パソコンの電源を入れる。フォン……と冷却ファンの回る音がしてディスプレイが点灯するのをぼんやりと見ながら,薄型のキーボードを取り出して電源を入れる。液晶画面に『welcome』の文字に続いてキーボード画面が現れ淡い光を放ち始める。液晶タッチパネル型のキーボードは竜海の私物で,勝手に持ち込んだ。スペックが気に食わなかったら文句を言う前に自分で改造しろ,それがこの電算機研究会の暗黙のルールだった。それゆえに,この部室の真ん中にはちょっとした大学のサークルが保持するようなレベルではない大きさの真っ黒な外観のハードが鎮座していたりするのだが。タテ×ヨコが2m×2mといったところか。話によれば先々々代の部長の代が持ち込んで部室内で自作して据え付けたものを先々代が少し手を加え,計算力を向上,外見を整え,更に先代が自分の家が電気屋なのをいいことにアップグレードしたのがこの現在の姿だとか。竜海たちはこのハードに黒い躯体からちなんだ『ブラックボックス』という愛称をつけて自分たちのマシンで処理しきれない演算を全て押し付けていたりする。それでもまだ余りあるほどの計算処理能力を備えてしまっているのがこの『ブラックボックス』なのだが。そのスペックは増設に増設を重ねているので若干未知数なところがあったりする。今年度中に必ずスペック計算するぞ,と部長が言っていたのだが,ゲーム制作に思っていたより時間を食われて結局せずじまいだった。

(こないだのちゃんと保存できてたのかなあ……部室棟閉めるぞって言われて慌てて電源切ったから正直微妙なんだよなぁ。)

 今,この電算機研究会は学園祭に向けてゲームプログラムを組んでいる。毎年臨場体験型ゲームを開発して学園祭などで中間発表,細かいバグやエラー,その他不具合などを修正して更に作り込み,年末に行われるアマチュア開発者のコンテストに出典したり,同人・アマチュア開発者が集う大規模なイベントに参加して販売して活動資金を作ったりしている。ゲームのプログラムやシナリオなどは3年生が中心になって開発し,4年生はアドバイザー,2年生と1年生は開発の補佐に回る。これがこの電算機研究会のもつ一連の流れだ。

 竜海が任されているのはゲームの中に登場する武器のデザインだった。プロジェクションマッピングを応用してプレイヤーの手元にあるモデルガンに投影するので,細部まで細かく作りこんでいかなくてはならない。……そしてこれが結構難しい。実在する拳銃をモデルに作っていくのだが,今回は3年生が未来都市をベースにしたゲームを作っている為,ある程度実在しないものにしなくてはならない。本来ならあるべき部品を削ったり,逆に付け足したり。ある程度どうするように,との指定は先輩からされているのだが,細かい部分については一任された。竜海にしても半端にゲームをやりこんだだけの人間で実際に作る側に回ったことはないので戸惑うことも多い。しかも彼がこれまで親しんできたものは主に剣やら盾やらが出てくる,そんなものばかりだったため,拳銃には馴染みがあまりない。バランスをとるだけでも精一杯,ようやく出来たと思って投影してみるとあちらこちらのバランスがおかしいことになっていることに気がつくこともある。画面上の平面世界と現実の立体世界で見る図は大きく違うのだ。

「あ,あった。」

 竜海の口から彼自身も驚くくらい間抜けな声が出た。うっかり消したのではないかと思っていたデータが無事に出てきたのでほっとしたのもあるのだが。

 ファイルをクリックして起動させる。そこにはズラッと拳銃のデザインが並んでいた。その上の一番クリックして展開する。拳銃自体は至って普通なグロックシリーズがのデザインがベースになっているが,銃口部分に向かってやや銃身が広がっている。サイドには細かいスリットが入り,弾倉部分にはメーターが付けられている。

「えっと……。」

 竜海は机の上からプロジェクターに手を伸ばして電源を入れる,それからその手で自分の横にある真っ黒なモデルガンを取り出した。普通のモデルガンと違うところといえば,やたらとコードが沢山ついてパソコンにつながっていることと,所々に白い点が打ってあるところか。竜海はそれを持ったまま自分のすぐ後ろにあるビニールテープで作られたバツ印の上に立ち,画面の中のファイルボタンから『投影』を選択した。すると,プロジェクターから投げかけられた光がモデルガンに当たり,先ほど画面の中にあったデザインが手元に現れる。こうして細かい部分の歪みやズレを確認していくのだ。

「えーと……」

 投影された拳銃を手の中でひっくり返す。思っていたほど不自然なズレはない。引き金の部分を少し修正するくらいで済みそうだ,と竜海は判断した。

「じゃあ,次……っと。」

 そう言ってキーボードに手を伸ばし,次のデザインに切り替えようとした時だった。

「らーりほー。」

「うわっ!?」

「なんでそんなに驚くのよ……?」

「いや,一瞬誰が入ってきたのか皆目見当もつかなかったから……ほら,お前ちっさいから視界に入りにくいし。視認するのに時間がかかるっつーかさ。」

「……あんたが電子世界のキャラクターなら間違いなくデリートしてやるのに残念だわ。」

 井川亜実いのかわあみがその長い黒髪を靡かせて,颯爽と部室の中に入ってきた。入って来るなり暴言をぶつけた竜海に目の笑っていない笑顔をぶつけると,自分のマシンの前にすとんと腰を下ろした。全体的にポップでキャッチーな色とデザインに固められた彼女のマシンはしかし,ここにある個人マシンの中でも一二を争うハイスペックである。デザインのみならず中身まで改造してしまったのが彼女である。ちなみに,見た目もメインディスプレイ+大型三面ディスプレイ付きに改造してしまっていたりする。まあそれは,彼女の役割ゆえでもあるのだが。

「拳銃のデザインの方は進んでんの?」

「ん,まあぼちぼちってとこかな。8割はできてるから,学祭には間に合いそうな感じかな。そっちは背景だったっけ?」

「まあねー。元美術部員の腕がなりますよー。」

「え,お前パソコン研究会とか言ってなかったっけ?」

「あれ?知らなかったの?兼部してたんだけど?」

「初耳でござる。」

「武士でござるか。」

 コイツのこういうノリ、嫌いじゃない。

 井川が美術部員だったとは知らなかった。拳銃のデザインのチェックを中断して彼女のマシンを覗き込む。そこには,全体的に四角ばってどこかサイバーな雰囲気の漂う,未来都市らしい未来都市が広がっていた。

「すっげー……これ全部お前がデザインしたわけ?」

「まー……SF小説とかに出てくる表現をそのまま起こしただけっていうか……全部自分で起こしたわけじゃないよ。ある程度ベースは外に置いてる。所々先輩たちのストーリーに合うようにデザインいじってるけどね。」

 画面から目を離さずペンタブを操作しながら井川は答えた。答えている間にも,建物の四箇所くらいにさくさくと色が塗られていった。

「なんか,難しそうだな……。」

「今回は手で書くよりだいぶ楽だよ。例えばファンタジーとか,なんというか,曲線の多い時は私はアナログで書いちゃう方が楽なんだけど,今回は直線的なデザインが多いから,パソコンでパパッと直線が引けちゃうからね,楽。」

 発光度合いとかの操作も勝手にソフトが演算処理してくれるから,不自然にならないし,と彼女は付け足した。

「な,なるほど。」

 絵を描く事に関しては素人の竜海にはどちらも同じことだった。

 井川が背景制作に没頭し始めて無口になってしまった為,竜海は再び自分のブースに戻ってモデルガンに拳銃のデザインを投影し始めた。二つ目はだいぶモデルガンとずれていて,大幅な作り直しを要求されそうな感じだ。このデザイン結構気に入ってたんだけどなあ……と心の中で若干ぼやく。バランスを変えるとなると,デザインが理想とだいぶ変わってしまう事があるのだ。三つ目はほとんどズレがなかった。竜海はこれを『完成品』と書かれたボックスに落とした。そんなことを繰り返しながら九つ目の拳銃のチェックに取り掛かったところで,相方・剣野がげんなりした表情で部室にやってきた。

「おー,お疲れ。顔死んでるぜヒロッちー。」

「お疲れもどうもこうもねえよ,惨敗だぜ惨敗。」

「なにが?」

「告白?」

「このタイミングで試験以外の何かが出てくるお前の頭に乾杯するよ,竜海。あとヒロッちってなんだよ井川……。」

「愛称ってやつだよ,うん。」

 ごつい図体をした剣野に対してなんともかわいいヒロッちなんて愛称をつけられるとは,なかなかのセンスしてやがる,と竜海は素直に感心したのであった。

「ヒロッちの方はどう?作業進んでる?」

「まあぼちぼちってとこかな……昨日先輩に送ったファイルの添削結果次第では7割。井川は?」

「8割5分かなぁ。このままいけば今日中に9割は突破できそう。音声担当よりは楽だよ。」

 そんなことを言いながらも画面の中の建物に色を塗る井川の手は止まらない。剣野もさっさとヘッドホンを装着して音声ファイルを聞き始めた。そんな様子を視界の片隅にとらえつつ,竜海も作業を再開する。

 十三番目に確認した拳銃のデザインはなんともまあ惨憺たる結果で,彼はこのデータを削除したのだった。



 剣野がテスト問題をひっくり返して絶望していた頃。

 大学近くの住宅街を,あの銀髪少女・ユノがうろついていた。人気のないこの時間,そもそも目につく風貌の彼女がこのあたりをうろついているのは何とも奇妙だった。そのせいか,道行く人間が時折彼女の方をちらちらと見ているようだった。そんな視線を気にも留めず,ユノはひたすら住宅街を歩き続ける。特に目的を持っているわけではなさそうだが,何も考えていないようにも見えない,何とも不思議な空気を身にまとっている。インターネットカフェにいた時に被っていたニット帽はどこへやら,今度は少々派手な野球帽を目深に被っている。白いカットソーはいつの間にラフかつシンプルなデザインだがぴったりとして体のラインが浮き出るようなTシャツになっていた。華奢な体のラインが一層強調されるようないでたちである。野球帽とTシャツにちりばめられたスパンコールが傾き始めた太陽の光に反射して少々ぎらぎらと目にうるさい光を発している。

(……。)

 視界の端を横切った黒猫につい,と視線を奪われる。真っ黒で艶やかな毛並みをしたその猫は,妖艶な光をその緑がかった金色の目の中にたたえていた。

「……おいで。」

 自分の目の前で立ち止まったその猫に,ふと優しく微笑むと,彼女はそっとしゃがんで手を伸ばした。猫まで1mほどだろうか。

 手を伸ばすとその猫が近づいてきた。あと40cmくらいで手が届く。ユノはじっと人形のように動かない。

「まったく,こんなところで一般人のフリとはね。」

「!?」

 彼女の背筋は突然,液体窒素でも流し込まれたかのように凍りついた。脊髄反射のような勢いで振り返るが早いか,彼女は猫を抱えて道路を蹴り,2mはあろうかというブロック塀の上に音もなく飛び乗った。

「お行き。ごめんね驚かせて。」

 塀の向こう,民家の方へ猫をそっと逃がす。一目散に逃げていくその姿を見届ける間もなく,彼女はブロック塀の上を走り抜ける。その様,さながら忍者。

 だが。

「遅い。」

「は……!?」

 彼女の目の前に,少女とも少年とも判断の付かない子供が現れた。その手に握られているものを認識するが早いか慌てて道路に飛び降りるも,その肩口にはレーザーガンに切り裂かれた跡がくっきりと残っていた。

「遅いなぁ。もっと速いと聞いていたから加速してみたんだけど。」

 中途半端な声色で,拍子抜けしたような顔で,その子供はこともなげにレーザーガンを構える。

「これなら2割の力もいらないや。」

 引き金が引かれる。だが,それも遅い。ユノの加速は引き金を引いてからレーザーが放たれるまでの時間さえあれば,1mは移動可能なレベル。だから,引き金が引かれると同時に移動しても十分に逃げられる。

 はずだった。

「ガッ……!?」

 脇腹に焼けるような痛みが走り,真紅色が散った。加速しかけた脚がもつれ,アスファルトの地面にユノは強かに身体を叩きつけていた。

「な……え……?」

「遅いって言ったでしょ。」

 目の前の子供が持つレーザーガンから細々と煙が立ち上る。間違いない,発砲したのはその子供だ。その子供は彼女の脚に一発,こめかみ付近に一発,どこもギリギリ致命傷になりえない場所を狙うように,かすめるように発砲して,それから無表情で告げた。

「君は,ボクには勝てないね,ユノ。」

「……っ。」

「君は簡単に殺すなってマスターに言われてるんだ。だからまた遊んでね。じゃあね。」

 ユノを放置してその子供は去って行った。

書いていて思いましたが,話の中身を忘れていそうで怖いです。

次回辺りで予定通りなら主人公とヒロインが出会えるはず。

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