Story:2
涼しい部屋の中でのんびりと手足を伸ばす竜海。彼の自宅である学生向けワンルームマンションを思えば一戸建て空調完備のここは天国のような環境である。ノートは結局広げただけのまま一行も進んでおらず,クーラーの効いた環境にひたすらゴロゴロと床を転げ回りその至福を享受するばかりであった。
「お前なあ……一応は試験前だろうが……。」
「そうだけどさ……こんな涼しいんだし,ちょっとくらいいいかなって思ったんだが……。」
「お前のちょっとは2時間なんだな,竜海。」
「おう,悪いか。」
「いや、悪くない。俺にとってのもうちょっとしたら行くわってのが3時間後になるだけだ。」
「うーわ。」
そんなこんなでかれこれ2時間が経過しているのである。呑気といえば呑気なものだ。ぼんやりと天井を見つめて更に5分程経過したところで,ふっと思い出したように竜海は剣野に声をかけた。
「なあ,ヒロ。さっきの女の子のことだけど。」
「幽霊の話はやめてくれよ……。」
「いや,幽霊って決まったわけじゃないだろ。」
「そうだけどさ。そうだけど,あんな一瞬で消えるなんて人間技じゃねえだろうよ……。」
「そうだけどさ……。」
もしかしたら,窓ガラスの光の反射で見えなかったとか,たまたま何かに隠れてただけかも……と言う竜海の言葉はしかし,あっさりと否定された。
「電車が動いて,しかも人間2人分の別角度からの視線があって,それでなお隠れられるような場所って言ったらそれこそゴミ箱の中くらいだろ?あの駅,俺たちから一瞬で隠れられるような位置に柱とかなかったわけだし……ゴミ箱って言ったってそんなところに入れるような体格じゃなかったと思うぜ。」
「お前怖がりながらどんだけあの子の事凝視してんだよ,体格とか言っちゃって,変態か?」
「一般論だよ!」
鋭いツッコミが飛んできたところで,竜海は体を起こす。まあ,普通に考えてゴミ箱の入口に体を突っ込むとしたら全身の関節を外してもまず無理だという結論にぶち当たるしかない。一般的に考えて,いくら女性でもゴミ箱の中に隠れられる体格の持ち主なんてまずいないし,そもそもゴミの中に隠れようなんて思わない方が普通だろう。男だったらありえるのかといえば……まあ,常人の神経からしたらまず考えられない。よっぽど追い詰められていない限りは。
「なあ……。」
「今度はなんだよ。」
「いや……あの女の子なんて言ってたのかな。」
「え,何か言ってたのか?」
(そうか,こいつが見ようとした時にはいなくなっちゃってたんだっけ)
となると,何を言っていたのか考えられるのは今この場には自分しかいないことに気づき,「なんでもない。」と竜海は言葉を切った。
自分に向かって何かを呟くあの口元がやけに気になった。何を言っていたかということより,その口元そのものが気になったというほうが正確かもしれない。妙に頭の中で引っかかる。既視感にも近いが,彼女には見覚えがないし,第一何故こっちを凝視していたのかもまったくわからない。電車の中でも少し話したが,あの少女には剣野にも見覚えがないとのこと。2人揃ってこっちを凝視される心当たりがないことから,単なる偶然だったとも考えられるが……。
(でも,確かに俺の目を見てなんか呟いてたよなぁ……?)
確かにあの時,あそこにいたあの少女と目があったのだ。思い違いかもしれないが,彼女はおそらくこちらにむかって何かを言っていた。ええど,どんな口の形だったっけ。竜海は自分の唇にそっと指を当てながらその形を思い出そうといろいろ動かして――「あ,そうだ竜海。」
「うぉう……びっくりした……何?」
「なんでそんなに驚くんだよ……いや,お前今日夕飯どうすんのかな,と思って。」
「夕飯……?ああ,なんっにも考えてなかったわ。俺一人だったらフツーにカップ麺とかでいいかなくらいにしか思ってなかったわ。なんか妙案でもあんの?」
問いかける竜海に剣野は気だるそうに携帯をいじりながら答えた。
「いや,家に泊まってくなら流石に夕飯くらいは出してやるかと思って。どうせ今日はお袋は研究所に泊まりだから,妹と俺の2人の予定だったし,ついさっき妹から『彼氏と2人でファミレスでご飯食べてくるね~,お兄ちゃんは勝手に食べてて?』なんてメールが絵文字てんこ盛りで来たところだし。んで,実質俺とお前の2人なんだがなんか食いに行くか?」
「え,お前の妹ちゃん彼氏いるのかよ……。」
「悲しいことにな。」
「まあ,あんな可愛い子をサカった高校生男子がほっとくわけねーか……。」
「なんだその言い方……。」
「事実だろ。」
「否定はしきれない。が表現を選べ。で,夕飯どうすんだよ。」
「えー……私ィ,ヒロくんの手料理が食べたいな~なんて。」
「……うむ,よし,非常に気持ち悪い。お湯を沸かしてきてやるから食いたいカップ麺を用意しろ。」
「スイマセンデシタ。」
時々冗談に冗談を返してくれる剣野をちょっとでも面白いやつだと思っている自分がなんとなく悲しい竜海であった。その悲しみに特に理由はないのだが。
「まあ,カップラーメンは冗談にしろ,とりあえずレトルトならうちにあるけど。」
「せっかくなんだから外出てもいいんじゃね?」
「んじゃ,なんか食いに行こうぜ。ちょっと歩けばそこにファミレスあるし。ただ,もうちょい日が落ちてからな。」
「おう。」
クーラーの効いた部屋の中,若干かったるい空気の漂うその中で,二人は再びノートに向き合うこととなった。
2人が家を出たのはそれから更に2時間程経ってからである。日が落ちるまでにしばらくかかったのと,なんだかんだお互いの課題が一段落するまで時間がかかったのである。長時間クーラーの効いた涼しい部屋にいた2人には,日中の強い日差しが残していった暑く湿度の高い空気がなんとも辛かった。
「さすがに日光がないと少しは涼しいな。」
「アスファルトは生暖かくて気持ち悪いけどな。湿気高いし。」
「それな。けどこの辺の地域は地面の下に地下水を流すパイプが通ってるとか通ってないとかで,あと1時間もすればひんやりしてくるぜ。」
「けっ……ブルジョワめ。」
「ヒートアイランド対策だとよ。文句があるなら上層部に言ってくれたまえ。」
この街における研究者というのはかなり儲かる仕事らしい,ということをうすうすと感じ取った竜海であった。実際,この街の研究者のほとんどを占める,いわゆる国家プロジェクトに参加している研究者については一般的なプロジェクト不参加の研究者よりも少し高い給料が出ていると知ったのは,出来心で竜海が調べた結果判明したことである。
高級住宅街を出て3分程歩くと,若干賑わった地区に出た。このあたりは近くが高級住宅街ということもあり,ブランド商品などの店や高級料理店などが並ぶ地区でもある。それをさらに先に行くと竜海たち学生でも手が出せるような店舗が並ぶ地区があり,そこを超えると学校などの諸教育機関が集中して並ぶ地区を挟んで学生街となるのだった。
「……ん,あれ,ってことはお前が住んでるのって……」
「まあ,一応第三特区ってことになるかな。まあ,第三特区の中でも端の端だからほとんど一般区みたいなもんだけど。」
「お前,お坊ちゃんだったんだな……。」
「なんだよその腹立つような遠い目は……。」
剣野の呆れたような視線が竜海に突き刺さるのであった。
第二特区から先は境界線が曖昧になる。その地区に立ち入るのにIDカードが必要なのは第二特区と第三特区の一部地域(大抵が要人の住む地区である。)で,そこから先の第三特区の繁華街あたりは一般区とごちゃまぜになっている部分がほとんどだ。それでも傾向としては,第三特区の中でも中央に近い部分は高級ブランド店や料亭など,一部ブルジョワジーが好き好んで利用するような店舗や,科学書のみを専門で扱う書店,若干何に使うのかわからないマニアックな実験器具などを取り扱う専門店,薬品ばかりを取り揃えた店など,一般市民向けではない店が数多く並び,地区の外側に向かうにつれて娯楽施設やファミレス,大型書店やショッピングモール,チェーン店やコンビニエンスストア,スーパーマーケットが増えてくる。第三特区の端まで行くとどこからが一般区なのか,パッと見ただけではわからない。判断する基準になるのは地面のアスファルトの色の違いだけで,街の外観からはほとんど見分けがつかない状態だったりする。唯一,外観においてなんとなくの基準とするべきものがあるとすれば,その2つの地区の境目にはやたらと教育施設が並んでいる,ということくらいだろうか。
「そーいや,今まであんまり来たことなかったけどさ,第三特区ってもしかして出入り自由なのか?」
「一応。第二特区に入るには指定されたゲートからIDカード使ったりしなきゃならないらしいけど,第三特区は観察区ってだけで立ち入りは自由らしい。まあ,そうでもなきゃ娯楽施設なんか作らないわな。」
「そりゃそうだ。この辺はほとんど一般区と変わんないんだな。」
「おう……あんまりこっち来たことないのか?」
「特区ってなんか入りにくくね?」
「そうか?……まあ,そうかもな。」
妙に納得した様子で歩を進める竜海と剣野であった。
実際,一般区も中程まで行けば生活に必要なものはだいたい揃えられるし,第三特区には劣るものの,要所要所に繁華街のようなものは存在する。それゆえに,学生が仲間内で遊ぶくらいであればわざわざ第三特区まで出向く必要はない。学生生活の1年を一般区内で終える学生も少なくないのだ。加えて,第二特区に立ち入るにはIDカードが必要であるという話だけが独り歩きしていて,特区と呼ばれる場所に立ち入るにはなにか特別な手続きが必要だという認識が広まってしまっているのが現実である。そんなわけで第三特区に住んでいる剣野と,特に縁がなければ第三特区にはあまり足を踏み入れない竜海と,微妙に地区の認識が異なっているのだった。
車通りの比較的激しい大きな交差点に出る。この太い道を越えるとリーズナブルな店が増える地区だ。二人が目指しているのはそこである。ふと,目の前の大きなショッピングモールの壁に設置された電光掲示板が目に留まる。速報!と大きく赤い文字で表示されたそのニュースに道行く人が注目している。それにならう様に2人も目を上げた。
「あれ……竜海んちの最寄りじゃね?」
「ほんとだ。うちの最寄駅じゃん。物騒だな……。」
電光掲示板には見覚えのある駅のホームと名前が。日中に2人が使った駅が,何者かによって襲撃されたとのこと。状況によっては何らかの集団衝突があったとも考えられると公安庁の分析課分析官がニュースでもっともらしく語っていた。画面には,明らかに銃弾が貫通したと分かるゴミ箱や,人が激突したのか割れた電子案内板の液晶やら,その他破壊された駅が映し出されていた。どれも修復不能なレベルでの破壊ではないが,明らかに人為的に破壊されたと考えられる程度の壊れ方はしていた。その様子を見て剣野がため息混じりに呟いた。
「運が良かったな,あんな現場に遭遇する前にあの駅通り過ぎておいて。」
「まったくだわ。……しっかしなんでまたあんな何もないところで襲撃事件なんか起きるかな。自分の家帰るの怖いじゃんかよ」
「なんにもないからだろ。人目があったら昼日中から大々的に襲撃事件なんか起こせやしないって。」
「まあ……そうか。防犯システム働いてなかったんかな。」
新科都市区の防犯の中枢をになっているとされるシステム。あらかじめその行動を統計学的に分析し,不審人物がいれば即時捕縛に動けるよう監視することができるはずのシステム。だがしかし今回の襲撃事件に関しては,警察が現場についた時には既に破壊行為がなされた後,当事者たちは現場からいなくなっていた。更に不可解なのはそれだけの行為がありながら,事件に関わった人物のほとんどがシステムによる事前認知を受けておらず,警察に通報があったのも,器物の損壊をシステムが認識してからだった。武器の所有すらシステムは見抜けていなかったのである。これはまた週明けから技術者たちが揉めそうだ,なんて竜海は思うのであった。
「とりあえず泊まっていけば?」
「おーう。そうする。」
「とりあえず夕飯な。」
信号が赤から青に変わる。堰を切ったように人の流れが道路に繰り出した。スクランブル交差点故か,人の流れは乱雑だ。その人並みの合間を縫うようにして交差点を渡って,2人は夕方の生ぬるい空気に満たされた雑踏の中ファミレスを目指して移動を再開した。
時間を少し遡って,竜海たちが駅にたどり着く少し前の話。
彼らとは真反対にある駅入口に付近にユノの姿があった。くるりとあたりを見渡して建物の影を縫うように歩を進める。見渡す限り道沿いに人影はほとんどない。それを確認すると,ユノは一気に駅の入口に向かって足を進めた。駅構内に足を踏み入れて,入場ゲートに手首のブレスレッドを押し付ける。ポーンと軽い音がしてゲートが開いた。それを確認してさっとホームに滑り込む。滑り込んですぐにホームの端へ移動した。常人では考えられない速度だ。だが,ユノにとっては大した距離ではない。かかる移動時間は僅かに1秒。と。
(あれは……?)
反対方面へ向かうホームに,2人の青年の姿があった。その姿には若干の見覚えがある。目を細めて2人の姿にピントを合わせる。
「……っ!」
2人のうちの1人の姿を捉えたところで,ユノの表情が凍りついた。見覚えがあるもなにも,彼こそ彼女が資料室の中で情報を仕入れ,接触したいと願っていた人物のうちの1人だ。このチャンスを逃すわけには行かなかった。慌ててゲート近くまで移動する。反対ホームに飛び移ることも考えたが,それをしない理由は既に彼女の背後に迫っている。今のこの状況では,彼らの目の前に移動するのが最短距離かつ最善の選択だった。今のこの状況では彼に近づくわけにいかない。彼に危害を加えたら最後,それによって抱かれる自分に対する不信感は恐らくストーカー行為によって抱かれるそれ以上であろう。
近づいて,視認して,改めて思う。間違いない,彼女が探していた人物だ。
(……盾山竜海……なぜあなたなのかはまだわからないけど……)
平凡な青年がある日突然何らかの能力に目覚めるのは,SFではよくある物語の展開だ。典型的な物語は嫌いではない。少し凝視しすぎたのだろうか,向こうもこちらに気づいたのだろうか。強い日光の反射の向こうで,目を細めてこちらを見て何か話している様子が見て取れる。怪しまれない程度にその目を細めて聴力をゆっくりと引き上げる。徐々に彼らの会話が耳に入ってきた。
「ん……?」
「どうした,竜海。」
「あっちのホーム,人がいないか?」
「あ?……あぁ,いるな,確かに。」
「いつ来たんだろう。」
「多方俺らが見てない時に来たんだろ?別に珍しくもなんともないと思うが。」
「そうか……?」
「なあヒロ,あの人,赤い目してねえか?」
「見間違いじゃねえの……?カラコンとかさ。」
「カラコン……かなあ。」
そこまで見えるのか,と少々ユノは感心した。逆に言えば自分がそれほどまでに人から外れているということにもなるのだが。目立つほどに赤くなった瞳の奥に,反対ホームが投影される。
と,電車が滑り込んできた。何事もなかったかのように2人が電車に乗り込む様子が見えた。その姿を目で追いかける。
ふと。
電車の車窓からこちらを見る竜海の姿に気づいた。ユノはその目を確かに見つめ返した。
「見つけた……。」
口からこぼれたその言葉。次の瞬間,ユノの脚は強くホームを蹴っていた。飛び上がったそのまま駅の屋根の梁の部分に手をかけて,勢いを殺さないまま振り子の容量で体を大きく揺らして反対ホームに飛び移る。空中で一回転してホームに降り立ち,走り去る電車を透かして先程まで自分が居た位置を睨みつければ,僅かに煙が上がっている。その煙のその向こう。黒スーツの男が3人。ラフな格好をした人間が4人,そのうち2人は武器を所有している。黒スーツの男たちの中央にいる男の手に握られたレーザーガンからは,発泡後特有の黒い煙が立ち上っていた。その口元に,不敵な笑みが広がっていく中電車が通りすぎる。
一瞬。
ユノの体が再び宙を舞う。大きく飛び跳ねた先は駅の屋根。そこまでおよそ7m,その高さを助走も補助具もなしに垂直跳びだけで飛んでみせる。
二瞬。
ユノの居た屋根の位置に銃弾が穿たれる。観測されていたとしたらその射撃がいかに精密かがわかる。ユノの心臓があるその位置から,よくよく見れば少しズレた位置,その誤差僅か1cm。
三瞬。
ユノの体が今までいたホームと反対側に着地する。男の弾丸を交わすと同時に屋根を強く踏み切って着地した,ということになるのだろうか。
四瞬。
いつの間にゲートを飛び越えて構内に侵入してきたチンピラめいた私服の男たちが着地したユノに向かって各々拳や鉄パイプ,サバイバルナイフを振り上げてその距離あと1mに迫って。ユノの長い髪がまるで円を描くように広がって。
五瞬。
男たちの体がユノのいる方向と逆方向に綺麗な弧を描いて飛んでいく。ある者は電光案内板に衝突してそれを叩き割るような勢いで飛ばされ。ある者はベンチに妙な音を立ててぶち当たり,ある者は固定されているはずのゴミ箱の蓋を遥か後方に飛ばしながらゴミ箱に衝突し,ある者は反対ホームの転落防止用ホームドアの強化ガラスをぶち破って転がって,全員が全員気を失って動かない。その様子を見ていた黒スーツの男の顔から流石に笑みが消える。同時にその両脇から2人の男の姿が消えた。それを見たユノは小さく息を吐いて肉迫する。
刹那。
「やめておけ,ユノ。」
「私が相手だと不服ってことかしら。」
「いや,単純問題今の俺ならお前を殺しかねない。重要な被検体を殺害したとあっては俺の首が物理的に飛びかねないからな。俺のためにやめておけ。」
「相変わらず強情ね,レイス。」
「……ハハッ。名前まで知られているということは俺の手の内も読まれているようだな。」
「ええ。」
次の一瞬,ユノの両脇からレイス,と呼ばれた男と全く同一の姿格好をした男が二人現れて,同時にレーザーガンを発砲した。狙いはユノのこめかみ,着弾まで0.03秒。だが,ユノの方が僅かに早かった。後方に倒れこむようにして鼻先を通りすぎるレーザーを眺める。それは各々の男を貫いて,男ら共々霧散した。倒れこむその勢いのまま足を振り上げ,目の前にいたレイスのレーザーガンを垂直に蹴り上げる。既に引き金が引かれていたそれはくるくると回転して打ち上げられ,駅の屋根に長い焦げ跡を一本残して落下,再びレイスの手の中に収まった。
「雇い主に伝えなさい,私を追うだけ無駄よ,事態はもう,動いてるって。」
「……いいだろう。」
手の中のレーザーガンをくるくると弄びながら,次の瞬間,レイスは忽然と姿を消した。
「…………。」
通り過ぎた風に髪を一瞬だけなびかせて,ユノもその場から一瞬で姿を消した。警察がやってきて2人の超人はおろかユノに吹き飛ばされた怪我人すらいない,破壊された駅だけを呆然と見つめたのはそれから5分後のことであった。
……ヒロインと主人公がそろそろ会話を交わしてもいい頃だと思ったんですが,まだだったみたいです。