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気だるい毎日  作者: ちゅうか
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いじめの現場を目撃する

かしわ稲千いなせん葉宮はみや明鬼めいきが一人の女子高生を囲んで、

「あんた何かムカツク」

「キモイ、死ね」

と、お決まりの文句でいじめている現場に遭遇した。

囲まれている女子高生が震えて泣いているのを見て、私は立ち止まって考えた。

自慢じゃないが、私はこの類の言葉を日常的に言われているので

『オリジナリティーが無いね』

としか思えないし

『こんなお決まりの言葉ってか挨拶?みたいな言葉で傷つくなんて馬鹿じゃない?』

とか

『むしろ暴力を振るったり、金せびったりしてるわけじゃないんだから淑女かな』

としか思えないのだが、一応、分かる事もある。

私と他人は違うんだから、傷つく人もいるんだろう。

「気付かないのは本人達のみって訳か」

本人たちの後ろで言ってみた。

「は?何だよ竜祖?」

主犯格の柏が睨みつけてきた。

「腐ってるのは貴女達の方だよって親切に教えに来たのにー」

「ちょっとマジでこいつ何?」

「さぁ、バカなんじゃない?」

「うざいんだよ、あっち行けよ」

「まぁまぁそうわめかな」

「ねぇ柏、こいつ彼氏とダチ呼んでやらない?」

「あ、それいー」

「へぇ、彼氏いるの。そーお。ま、腐ってる人同士仲良くね」

女に操られている馬鹿男なんかが何人来ても私は余裕だ。

寧ろ私を傷つけようとする人間を堂々と容赦なく殴れるので

私はけしかけられるのを待ってさえいた。いいストレス解消になるのだ。

だが四人は全く動じない私を見て私の力を思い出したらしい。

ちぇっと思った。最近は喧嘩をしかけてくる奴なんかいやしない。

「っせーよ馬鹿!死ね!」

「まじむかつくー」

「わーかったわかった。それで馬鹿、ウザイ、キモイ、死ねの他は無いの?

もう聞き飽きたんだけどな」

「はぁ?」

「そうそう、馬鹿、ウザイ、キモイ、死ね、

は心が醜い人ってか性格悪い人がよく使う言葉なんだって。

ちなみにそう言う人を好きになる人も同類なんだってさ」

一応言い方をソフトにしておいた。

「うわーマジキモイマジキモイマジキモイ」

「ねーやだー」

「ヤバイよこいつ」

「やれやれ…」

話しが通じない人と話すのは苦労するなぁ、と心の中で呟いて、

キィキィ騒ぐ女の子達を後にした。

いつの間にかいじめられていた子は逃げていて、後でお礼を言いに来た。

それにしても、と思う。連中はよくも飽きないものだ。

脳を開いて見てみたい。あれほどの悪口はどこから生み出されるのだろう?

あの嫌がらせの才能は、もしかすると遺伝子に組み込まれているのだろうか?


そうそう、悪口や意地悪で繋がった人間関係がどれほど醜くて脆いものか、

私はよく知っているつもりだ。

バイト先のコンビニに、とてつもない男女がいた。

店長の奥さんと、その不倫相手の男性店員海冴かいざで、

私は学校で嫌がらせの才能だけは豊かな連中を沢山見て来たけれど、

まだまだ発展途上にあたるだろう。

この二人こそ完成型、天才だと思っている。悪行は数知れないと思う。

ただ、二人は私が相変わらず何も気にしないのと、

高校生で幼いのもあって物足りないのかすぐターゲットを変えた。

しかし、その二人を中心に仲間はどんどん増えて行った。


私が更に無関心で、嫌味を言われている側から読書などをしていると、

休憩時間などに、私がいないかのように、

私やいじめ仲間以外の人間の醜い悪口を仲間同士で言うようになった。

だがそれにも変化が起こった。

いじめサブリーダー高中たかなかが、

いじめリーダーの奥様がいない時は奥様の悪口を言い出し、

次第に同調する者も出始めたのだ。両方に同調している人間ももちろんいたが。

それが一年半ほど続いた時、私は流石に飽き飽きしていた。

休憩中の読書タイムを邪魔されるほど嫌な事は無い。

そんなある日の夜、いじめ仲間内でも急にターゲットにされ始めていた彼女、

正社員で一人暮らしの草己そうきさんは遺書を遺して自殺したのである。

彼女は遺書をいじめ連中に目立つ場所…ロッカーの壁に貼っていた。

「私は(いじめ仲間の名前羅列)達に死ぬほどいじめられた、死んでも恨み続けます」

彼女達は遺書を見て笑い転げていた。床を実際転げる真似をしている者もいた。

その後、彼女達(と男一人)は、証拠隠滅を図って遺書を破り捨てていた。


彼女が自殺する一ヶ月ほど前に、店長の奥さんとした会話は未だに覚えている。

私は本を読み終えたところだった。

そこに奥様が入ってきた。入るなり私を怒鳴ろうとしたが、先手を打った。

「奥様」

「は?」

「あの、高中さんが奥様の事、マジキモババアって言ってました。

本当は、伝えようか迷ったんですが…耳に入れておいた方がいいかと思いまして」

と聞いたままを言った。

その時の奥様の顔!まるでおもろい般若のようだと思った。

「ちょっと高中さん、こっちへ来て」

奥様の声がした。そこから先の会話は聞いていない。

けれど、ここからいじめ仲間同士で戦いが始まった。

私は周りの大人の、余りの幼稚さに呆れた。たかが、傍観者の私の一言で。

これはうっとうしい学校の連中にも応用が出来そうだ。

連携して誰かをターゲットにしている間はいいが、

ひとたび連携にヒビが入ると、お互いの醜さをお互いが一番よく知っているためだろう、

いがみ合いも半端なものではないとだけ学び、私自身はいたって平和だった。


忘れてはいけなかった、

草己さんが自殺する日の夕方、突然電話がかかって来た。

「あのね、あなたに言うのもおかしいけど、

警察に、私の家の机の中を見てって言えば分かるから…」

それで電話が切れた。


その後、私は、自殺した草己そうきさんの墓へ一人で行った。

「あなたも色々私や他の人に悪さしてたから、

きっと(あるなら)天国にはすぐ入れないでしょうけど……でも、

あのまま生きてあの人達についてたら罪を重ね続けて、

本格的に地獄に堕ちる事になってたでしょうから、

罪を重ねる前に死ねたから、よかったですよ。

今の所、あの人達は元気にお互い嫌がらせ合戦をしていますよ。

知らぬ存ぜぬだけはちゃんと連携してましたけど……。

ただ、頼まれてたから……警察に教えておきましたから。

それに、あの人達がしてた事を聞かれたから、

あなたの事も含めて全部言いました。ではっ」

私は晴れ晴れとした気分で家へ帰る。

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