甘ったれた万引き少年
私がコンビニでバイトしており、休憩時間になったので、以前姉から借りた小説を読んでいた。
読み終わってふと時計を見た。
休憩もそろそろ終わりかな、と思うと不意に後輩が、
「竜祖先輩、保護者と店長来るまであの子の相手、少しだけお任せ出来ないですか…すぐ泣きわめいてうんざりです、何とかして下さい」
と言ってきた。
万引きした子だそうだ。
「皆が万引きしてるって言ってカッコよく思えて…」
少年、不笠峯介が話し出す。
「自慢じゃないけど」
「?」
少年峯介が首を傾げる。
「私みたいに大人になると、店からただで物を取る事は悪い事だって、知ってるんだけどね」
「はい…」
「ふーん、知ってたの。悪い事だと分かっててやって、それを楽しんだり自慢してる内はガキ。それを羨むのも、止められないのも、心がガキの証拠」
「だって僕…子どもだし」
「そっか、子どもだから分からないか。じゃあ、これから何回も繰り返しちゃうよね。そんな危険人物を、警察に話さず帰らせる訳にいかないかもしれないね」
警察と聞いて明らかに表情が変わる。
「だってお父さんいなくて、お母さんしかいなくて」
この瞬間、私の中にこの子どもに対する殺意が芽生えた。
ある事無い事を言って同情を買い、味方を増やそうとするろくでもない連中と同じニオイがする。
私はこの類の人間にエライ目に遭っていたからすぐ分かるし大嫌いだった。
子どもと言えど恐ろしい。
「貴方みたいな人、よくいるんだー。お父さんがいないから、お母さんがいないから、いじめられてるから、貧乏でお金が無いから、だから仕方が無い事だって。で、それが何?」
「…」
声色が変わったのに気づいたのか峯介は俯いた。
「さっき言ったのは甘えん坊が言う事だよ。人の言う事に流されやすくて、人に縋らないと生きられない弱い人。もう一つは不幸自慢が好きな人ね。不幸だってイメージを強調して同情引いて、ちやほやされたい人。貴方はどっち?」
「…」
少年がズボンをギュッと握った。
「貴方、そう言って同情して貰って、何も無かった事にして貰おうとしてる」
「ちが…」
消え入りそうな声で少年が言う。
「何が違う?
私は子どもと言えどそんな卑しい人に同情するような馬鹿じゃない。演技お疲れ様」
ぴしゃりと言うと、少年は泣き始めた。
しかし、これに同情したら、自分は馬鹿の仲間入りになるだろう。