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気だるい毎日  作者: ちゅうか
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大好きな兄姉

高校に入学してしばらくして、部屋でまた短編小説を読んでいた。

読み終わってすぐ、ドアをノックする音がした。

「高校生になった感想はどう?」

姉が部屋に来て言った。兄は姉の後からついて来た。

「小中とほぼ同じ感じ」

社会人の兄(竜祖波天りゅうそはてん)と、兄の一つ下で同じく社会人の姉(竜祖紗知香りゅうそさちか)は複雑そうに顔を見合わせた。

「またいじめられてるのか?」

「いじめって言うのかなぁ。私は何とも思わないけど」

「相手の人数は?」

「さぁ…名前も顔も覚えて無いから…とりあえず私以外の、先生含めた全員かな。小学校一緒の奴が中学校にいて、高校にもいてさ、相変わらず私がしてもいない事を言い触らしてろくでも無い者同士つるんで色々言ってくるよ。あの人達、何であんな同じ事の繰り返ししかしないんだろうね」

二人が溜息をついた。

私はつくづく友人運が無いが、その反面家族運…いや、兄姉運にはとても恵まれた。

「他人事みたいに言うんだな」

「だって、あんなのどうでもいいんだもん」

兄の左手の薬指にはめた指輪に目をとめた。

「兄ちゃん、話香わかさんと結婚するの?」

「そうなるだろうな」

礼鳥話香れいちょうわかさんは兄ちゃんの彼女だ。

「姉ちゃんは方土ほうどさんと?」

方土星壱ほうどせいいちさんは姉ちゃんの彼氏だ。

「まだ分からないわ」

兄ちゃんの彼女も姉ちゃんの彼氏も、さすが二人が選んだだけあってとても優しくていい人だ。

「あのさぁ、兄ちゃんと姉ちゃんには言うけど、私、高校卒業したら行方不明になるつもりだから、幸せになってね、幸せでいてね」

「何言ってんの!」

姉が泣きそうになりながら言う。

「何なのよ行方不明って!」

兄が姉を抑える動作をした。

「落ち着けよ」

私の方を向いた。

「どうして行方不明になりたい?」

「だって父さんも母さんも私が嫌いみたいだし、何より兄ちゃんと姉ちゃんが出来が悪い妹なんて嫌だろうし…未成年が失踪って色々面倒じゃん。私馬鹿じゃないし。だから18になるまで…あと2年ちょっと我慢してね。ちゃんと捜索願いとか出されないようにするから」

行方不明になる、と言ったのは、兄や姉を私から解放してあげたいからだ。

社会人の兄と姉が一人暮らしをしないのは理由がある。

私には兄と姉しかいないから、私を一人にしないようにしてくれているのだ。

一度兄が姉や私と3人で同居すると言うと、両親は激しく怒って結局話は流れてしまった。

そして家を離れるなら社会人だけにして私は置いていけと言ったのだ。

「馬鹿ね紗鶴、あんたは私にも兄さんにも愛されてるのよ。知らなかった?」

私は首を振った。

「まさか。そんなの分かってるよ」

そう、分かりすぎるぐらい。

「もちろん父さんや母さんにもよ。変に気を遣う必要は無いの」

「姉ちゃんは優しいからそう言ってくれるけどさ、父さんと母さんは私が嫌いだと思うなぁ。兄ちゃんや姉ちゃんと違って不良で問題児だし」

「こんな家族思いの優しい子が不良で問題児な訳無いでしょう?」

姉が頭を撫でてくれる。

「そう?でもね、私の方はあんましあの人達好きじゃないんだよ」

あの人達とは両親の事だ。

「あ、もちろんここまで育ててくれた恩は忘れてないから。姉ちゃんがそう言うから…」

よくも私なんかを生んでくれたな、と言う憎しみがある事は誰にも言っていない。

本当、こんなろくでもないものを。

「覚えてる?私自殺未遂してさ、んで学校行きたくないって言ったじゃん?」

二人が複雑な表情で頷いた。

結構本気で自殺するつもりだったが、私は腑抜けなので死ぬのが怖くなったのだ。

家族以外知らないからいいけど。

「その上で今までされた事言ったのに、そんな理由で休ませる訳にいかないって行かせるし。あの人達さぁ、この前不登校の人達の特集見て何て言ったと思う?子どもが学校行きたくないなんて理由があるに決まってるのに、無理矢理行かせるなんて追い詰めるだけなのが分からないのか、だってさ。あんまりおかしくて久しぶりに大笑いしちゃった」

「…あんたが父さん母さんをあんまし好きになれないのも分かるけどね…」

姉が溜息をつく。

ごめんね、姉ちゃん。

「確かに父さんも母さんも馬鹿だが」

兄が口を挟んだ。

「お前を嫌いな訳じゃないさ。世間体第一人間ってだけでな。娘が不登校になったっつったら外聞悪いから」

「うん、小学校の頃から分かってる。だから学校行くのが親孝行だと思う事にした」

こんな事があった。

仮病を使って学校行きたくないと言って、結局行かされて

(私にはサボりなんてしない。それほど馬鹿じゃない。行くからには行く)

そうしたら、あれ?いたんだ、全然気づかなかった、と、代わる代わる親切に言われた。

遅刻して声をかけられる位なら、まだ普通に登校して無視された方がマシだ。

親も安心するし一石二鳥だ。

「にしても何なんだろうな、そいつら。お前が止めるから学校に言うのはやめたが…」

「いいよ。だって先生達は知っててあいつらの味方なんだし。先生もあいつらも最初から敵だから、本当に何ともないよ。ほんの少しだけ、親も先生も役立たずだと思っちゃうけど、でも私はその親も先生も手に負えない変な奴だから仕方ないよ」

最近、そう思うようになった。

「そんな訳無いでしょう!」

「そうだよ。馬鹿な事言うんじゃねぇよ、こんなに可愛いのに」

兄が頭を軽くこつんとした。

「そう?ありがと…」

私は体操座りをして膝に顔を埋めた。

「いいなぁ兄ちゃんも姉ちゃんも他人を信用出来るんだもん…私は到底出来ないよ。バトロワ知ってるでしょ?あのゲームをクラスで…ううん、多分学校全体でする事になっても私、普通に勝ち残れると思う」

私自身が腐っているのは十分承知しているが、それでも腐りきってるわけではないとも思う。

兄と姉のお陰だ。

ちなみに自殺や他殺は眼中にほとんど無い。

特に他殺なんて、あんな連中の手で殺されるなんて考えただけでも汚い。

「まぁでも仕方ないよね、いじめられた人は中々人を愛せないって言うし。そう言う系の感情、欠落してるのが分かるから、でも兄ちゃんと姉ちゃんは別だよ、すごく好きだよ。私、姉ちゃんみたいな親友と兄ちゃんみたいな彼氏欲しいなぁ」

私は私以外の人間は嫌いだがこの兄と姉は違う。

兄と姉は私の一部だ。

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