さて、腐ってるのはAかBかその他か
「…っ!」
すれ違いざまにぶつかられた。
明らかにわざとだと感じた。
「いったぁ〜い〜!!」
伊吹乃が大声で叫び、キッと睨んで来る。
彼女はモデルのように美人だ。
だが私から言わせると性格は容姿と正反対に汚い。
少し前に一人で移動している私に近付いて来て、
「一つだけ許せないことがあるから、それを言っておくわね。こないだある子に聞いたけど…あんたは先生に、有名映画の女優に似てるって言われたんだってね。はっきり言うわ、あんたの顔つきはその女優の物真似芸人よ、つまり偽者そのものなの。現実をよーーーく見て、認めるところは認めなさい」
「意味がわからない、精神科行ったら?」
本人の為に伝えたのに、何故か目をつけられてしまった。
「おいお前!ぶつかったなら謝れよ!」
近くにいた光務が怒鳴った。
光務は伊吹乃に好意を寄せている。
伊吹乃が、光務に見えないようニヤッと笑う。
光務が心配そうに
「大丈夫か?」
と、優しく伊吹乃に言う。
「いいの、痛いけど平気だから気にしないで」
「お前は優し過ぎるんだよ。それより謝れよ。お前だよブス!」
次の瞬間、私の右手は光務の口をガッチリ押さえていた。
「お前、は、黙って、ろ」
それからドンッと光務を突き倒す。
そして伊吹乃を睨み付けた。
人が周囲に集まり始めた。
「私の周りには、あんたみたいにわざと他人を悪者にして男の同情を買おうとする性格ブスがたくさんいるから、私にはすぐ分かるよ、そう言う演技」
「ひっどぉーいひっどぉーい!」
「はぁ?わ、訳分からない事言ってんじゃねーよ!謝れよ!」
光務は私に押さえられた事に相当びっくりしたようで、先程より声の勢いは弱い。
「大嫌いなんたよね、そう言う女も、そういう女に騙される男も」
光務と伊吹乃を思いっきり睨み付けると二人が怯んだ。
「二度と私に近寄るな。話しかけるな。出来るでしょう?目があるんだから」
吐き捨ててさっさとその場を後にした。
教室に戻り、イスの上に置いてあった画鋲を払い落とすと、むしゃくしゃした気持ちを読書で落ち着ける。
読後。
気持ちはだいぶ落ち着いたものの、私の予想通り、次の日には
『伊吹乃にわざとぶつかった揚句、中傷した』
と言う噂が流れ、またしても集団無視に発展した。
しかし常に一人でいる自分には余り関係がない。
人を徹底的に近付かせないのは理由がある。
人を近付かせない性格だと教師どもにも知らせることで、人をいじめたと言う最低な濡れ衣を着せられる事はかろうじて逃れる事が出来るからだ。
逆に金を盗まれたとか、今回の伊吹乃のような場合の標的にはなりやすいが。
私は何を言われても構わないと半自暴自棄に思っているものの。
されるのは嫌だ。
許さない。
御免だ。
あの時伊吹乃を近付かせてしまったのは気を緩めていた自分の落ち度だったと深く反省した。
それにしても集団無視は楽だ、誰を信用すべきで誰を信用しないでおくべきか私に教えてくれる。