ダッシュorトリート!!
一応、『青春ダッシュ!!』シリーズ(削除済み)の続編のつもりですが、前作を知らなくても全然大丈夫なはずです!
追記:リメイク版を投稿しました。そちらから読んでください。
俺の所に届いた、一通の手紙。
そこには、こう綴られていた。
――――我、ただ一人の本物の鬼から逃げ切り、四人いる偽物の鬼を探せ――――と。
「……よくわかんねーけど……」
まあ、『いつもの』悪戯だろうし。
やるしかねーよな。
俺は手紙を握りしめると、走り出した。
*
俺には、真っ先に見つけるべき人物がいた。
「つーことで、一人見っけ」
「最っ悪……早すぎ、……。前の、ノート強奪、事件……根に持ってる……?」
「さあー? どうでしょうかねー」
俺の足元で膝をつき、息を切らしているのは大親友の――――いや、『かつての』を付けるべきか。俺は少し前、こいつに騙されてノートを馬鹿どもにまる写しさせることになったという、裏切りに遭っているのだ。そんな奴を今でも大親友なんて言えるほど、俺はお人よしでも友達がいないわけでもない。
「絶対根に持ってるよねー……? 学力は学年一位なのに性格悪いぞ! ぞんなんじゃモテない……っていうか、モテたことないよね」
「うるせーな。いっつも周りに女子囲んでるお前に言われるのは腹が立つ。……んで、鬼さんよ。見つけたら何をすればいいんだ? あいにく、俺はきび団子なんか持ってないが」
「君の子分になんか、なりたくないって。……とにかく。はい、これ」
そう言って『かつての』大親友がポケットから取り出したのは――――アメ玉だった。
「……何だよ、これ」
「さあ。僕も知らない」
「知らないって……お前が主犯じゃねーの?」
「いつもやってるからって、疑わないでくれる?」
「いつもやってるから疑うんだろうが」
「いやいや、本当に今回は知らないんだよ。よく考えてくれ。僕はこんな果たし条を書かない。奇襲攻撃だよ」
こいつが俺を四人がかりで襲ってくるのは、テスト前とか教科担任がノート提出をすると宣言したその日の放課後何だけどな。
「果たし条、なのか……?」
「まあ、そこは置いとくとして。この四人ってのが気になるよね。君はどうしてこの四人っていうのが僕たち……『秀才ノート強奪組』だと思ったの?」
「ださい名前だな。……まあ、四人でいつもくだらない遊びで俺に絡んでくるのはお前らしかいないからな」
「じゃあ、本物の一人に心当たりはないの?」
「ないな」
俺は即答する。
「友達少ないね。四人か……」
「そういうことじゃなくてだな! ……俺はてっきりお前たちの悪戯かと思って」
「でも、それじゃあ説明がつかないよね?」
「……ああ、そうなんだよな」
そう、いつも俺を狙ってくるのはこいつを含めても四人。それ以外にこの学年トップの俺のノートを写そうなんてバカはいないから、四人以上はありえない。つまり、こいつが主犯かもしれない“本物の鬼”だとすると、偽物の方に一人足りなくなる。
ちなみに秀才の俺とチャラ男のこいつに共通の友達はそんなにいないから、こいつとグルで俺にちょっかいを掛けるとしたら『秀才ノート強奪組』とやらしかいない。
「僕らはある人の命令で偽物を引き受けている。そして君に捕まってアメを渡したら僕ら“鬼”はゲームオーバー。僕ら四人の中で一人でも逃げ切ったら“鬼”の勝ち。そう言われた」
「ある人って、誰だよ」
「さあね。僕も知らない。生徒会長から渡された手紙の中に書いてあった」
「生徒会長? そいつが黒幕なのか?」
「いーや、そんな感じではなかったよ。『人使い粗いんだから…』って言いながら去って行ったし」
まあ、何はともあれ。
本物から逃げながらあと三人、捕まえればいいんでしょ。
すっかり息を整え、回復した奴は立ちあがった。
「それにしても、何でアメなんだ?」
「気づいてないの? 秀才なのに」
奴は自慢気にそう言うと、人差し指を真っ直ぐこちらに向けて言い放った。
――――Trick or Treat.
「今日はハロウィン、だぞ☆」
*
「やっぱり足が速くて感が鋭くて頭のいイケメンっているんだね!」
「んなこと言ってると突き落とすぞ」
「きゃ、やめて!」
やっと四人目を見つけた俺だったが、コイツは大バカだった。窓から外に降り、二階と三階の間の耐震用の柱に隠れていたのだ。まあ、初めてのノート強奪のときの接着剤で天井に張り付いていた時期よりはマシだが。
「ふう……。意外と汚かったよ、あそこは」
「そりゃ汚ねーだろ。掃除してないんだから」
俺は手を差し出すと、言った。
「トリックオアトリート」
「もっとネイティブに言わないと駄目」
「……Trick and Treat」
「お菓子あげてもいたずらされるの!? ……わかったよ。秀才くんがその気なら……」
「おい待て何故ボタンを外している」
「え、だっていたずらするって……」
「Trick or Treat!!!!」
「はいはい」
にっこりと満足そうに笑うと、奴はボタンを掛け直し、アメ玉を差し出した。俺はしばらくそれを見つめたが、ふと顔を挙げて言った。
「……なあ、お前これのヒントってもらってねーの?」
「さあ。僕は何に――――」
声を遮るように、下校時間を告げる【遠き山に日は落ちて】が鳴り響いた。
「あ、もう帰らないと! 今度下校時間過ぎたら体育館掃除なんだ! じゃあね!」
奴の姿はすぐに見えなくなった。
「これが鳴った、ってことはこのよくわかんねーゲーム、俺の勝ちってことか……?」
結局“本物の鬼”には会えなかったけど。
俺は四人からもらったアメ玉をポケットから取り出した。
赤、青、緑、黄の包装紙に包まれた、駄菓子屋に売ってる普通のアメ。
俺は赤のアメを食べようと紙を解いた。すると――――。
「『く』……?」
紙には、文字が書いてあった。
*
「遅い。待ってたんだから」
「小野宮、先生……」
『お』『く』『じょ』『う』で待っていたのは、担任の小野宮先生だった。
「先生が“本物の鬼”……なんですか?」
「まあねー」
フェンスに寄りかかって座る先生の正面に立つ。
「“本物の鬼”から逃げ切れって、言ったのに。わざわざ自分から来ちゃうなんてね」
「何でこんなこと、したんですか?」
「イベントになると校内を盛り上げたくなるからー。それじゃ不純ですかー?」
まるで生徒と先生の立場が逆転したようだ。
「先生なのに、こんなことしていいんですか?」
「謎が人を成長させるって、俺の教科書には書いてあったから」
「そんな教科書、どこの出版社で売ってるんですか」
楽しそうに先生は微笑んだ。
「とにかく、君の負けだよ。秀才くん」
――――Treat.
「……はい?」
「君にいたずらする気は起きないんだ。だーかーらー、Treat!」
「えっと……トリック、オア、は?」
「え、何。いたずらしてほしいの?」
先生の表情から笑みが消え、真顔になった。いや、ちょっと青ざめてる。
「いやいやいや!? そう言う意味じゃなくてですね、常識というか……」
「常識にとらわれてるようじゃ駄目だよ、秀才くん。友達のノート強奪して点数アップしようとしてる人とか、天井に張り付いてる人とか、窓から外に出てかくれんぼしてる人とか、先生なのに生徒で遊んでる人とか、常識に囚われてない人はこの世に何人もいるんだ」
「え、ちょ、今聞き捨てならな――――「つまりはね、秀才くん。僕が言いたいことはただ一つ」
先生は立ちあがり、見下ろすように俺を見つめ、そして肩に手を置いた。
――――大人は嫌いだ。
俺の家は父さんが権利を持っていた。父さんに逆らえば、罵声を浴びせられた。あの父さんの威圧感と、職員室の、大人が大量に生息している雰囲気が似ているのがどうしても嫌で嫌で、小学校のときから、大人が大嫌いになった。
だけどこの瞬間、俺はそれから抜け出せるかも、と思った。
この子供心を忘れていない、純粋な先生が俺を大人嫌いを吹っ飛ばせるようなすごい台詞をこれから言ってくれそうな気がして――――
「テスト、もうちょっと手を抜いてくれてもいいんだよ。ああ……別に先生たちが100点を取られて悔しいってわけじゃないけどね。もうちょっと、もうちょっとだけ手をぬっ――――」
ハッと我に返ったとき、俺の足元で転がる小野宮先生と、先生の立っていた場所に伸びていた自分の右腕を認識した。
あすの朝刊の地方紙には『高二男子 担任殴る』とすみっこに書かれてしまうんだろう……。
ならば、逃げるべきだ。
「先生! もう下校時間過ぎたので帰ります!」
「きっ……気を付けて、ねぇ……」
苦しそうに声を絞りながら、先生は俺に手を振る。
全く、おかしな先生だ。
「あ、そうそう。Treat、でしたよね」
俺は先生に向かってアメ玉を四つ、投げた。結局、文字を見ただけで食べなかったのだ。
「それでは、さようならー!」
それからも俺がテストで5教科満点を取り続けたのは、また別の話。
ありがとうございました!
感想、アドバイス等ありましたらお願いします。




