序-経緯-
かつてこの星は、地上、天空、海原、すべてが戦乱に満ちていた。
人魔かかわらず、あらゆるモノが刃を、爪を、牙を、持てるすべてを武器に変えて命を削り合っていた。
切欠など、とうの昔に忘れ去られてどれだけ経ったことか。
永く、永く、争いは続いていた。
血の流れぬ場所はなく、叫びの歌わぬ場所はなく、死に怯えぬ場所はどこにもなかった。
取り返しのつかない命の損失に気づいた時、もはや星は死にかけていた。
始めに声を上げたのは、人族の男だった。
族といえぬほどに数を減らしていた人間達の中で、最も力あった男が、生き残るために一つの案を練り行動に移したのだ。
「知性と理性を合わせ持つモノよ、この星に生くるべく、我らのすべきとは何ぞ?」
言葉を解する知性を持ち、狂乱を鎮める理性を持ち、真意に気が付けたいくつかの種族がその問いに応えた。
彼等は代表者を集い男の下を訪れ、男は一昼夜に渡って彼らと語らい、結びを付けた。
立案者の男を大王として、代表者の彼等を王として、種族を超えた盟約を結んだのだ。
「我らここに、種を超えた命の友を得たり。これを《命朋連盟》と呼ぶ」
命朋連盟に応じた種族は、人間たる人族、獣を祖とする獣人族、精霊に交わる妖精族。
互いの憎しみを捨てて手を取り合った彼らは、永きに渡り戦争に狂った世界をついに終わらせた。
それは、計り知れない犠牲の上に訪れた、小さな小さな成功だった。
この小さな成功を祝し、また甚だしき犠牲を悼み、命朋連盟の結ばれた日よりの元号を《連盟歴》と統一した。
連盟歴より先、星は失われた命を徐々に取り戻し、永い時をかけてかつての文明を超えた発展を遂げるのだった。
けれど。
知性と理性を持たぬモノ、獣魔族。
知性を持ち理性を持たぬモノ、妖魔族。
知性と理性を持ち、怨嗟に狂う者、魔人族。
命朋連盟に与さぬこれらの種族は、最も嘆き、怒り、恨みの強かった魔人族の王の下に集い、新たなる種族《魔族》を築き、地の果て、空の果て、海の果てにてひっそりとだが着実に力を増していったのだった。
さて。
これより語られる物語は、以上の歴史を歩んだ世界でのお話。
命朋連盟は度重なる魔族の侵攻に悩まされ、大王による魔族討伐軍が何度も結成された。
だが決して魔王が倒されることはなく、頭たる魔王さえ生きていれば、魔族は滅ばない。
そして連盟歴3172年、第63代大王は新たなる勅命を下した。
「魔王を討伐せよ」
かくして、勇者と魔族の物語は語られる。