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嘘つきは泥棒の始まり

だなんて言葉があるけれど


僕は嘘つきでも泥棒でも無い。


僕はただ


小説家に憧れ

小説家になろうとしただけだ。


ただーーーそれだけだった。







間宮柊一(まみやしゅういち)は、ファンタジーや虚言、フィクションや空想、幻想やお伽話といった物が題材にある〈想像の産物〉が苦手だった。いや、大嫌いだ。

ある日突然、異世界に迷い込み、勇者として祭り上げられてしまったり?ある日突然、その左手に封印された魔力が暴走したり?ある日突然、美少女が同棲を申し込んで来た上に、その美少女が世界に厄をもたらす神様だったり?

下らない。

そう、全く持って下らない。

間宮柊一は思う。

全てのフィクション小説なんてものは、嘘の塗り固めで、嘘の方窟で、嘘の溜まり場で、嘘の集会所で、嘘の吐き溜めなのだと。

真実なんて、何一つ有りはしない。現実なんて、入り込む隙間などない。

そんな物に僕は振り回されたりしないし、夢を求めたりはし無い。


そんな物に僕は振り回された事などないし、夢を求めた事なんてーーー無い。




「あのさ、そろそろ出てって貰える?勉強の邪魔なんだけど」


間宮柊一はそこで、世間の小説に対する思考を一旦止め、ペンを握り締め直すと、ギシリと椅子が軋む音と共に後ろを振り返った。

ちなみに彼は今、自身の通う十萬市立青葉学園(とましりつあおばがくえん)から出されている宿題に取り掛かっている最中だった。


「ん〜?静かにしてるけど?」


出て行けと言われたその人物は、柊一の心底迷惑そうな顔を見るでも無く、その意図とは全く関係の無い返事を返した。黙々とベッド上で何かを読みながら生返事を返すその人物の名前は、零色(ぜろしき)。灰銀で緩くウェーブの掛かった長髪、目元には三連の丸いピアス。ボロボロの黒ローブを着込み、手の甲には何かの紋章?の様なタトゥーの入った何とも怪しげな人物である。そもそも〈人物〉と呼ぶべきかどうかも怪しい。行動、言動、所在、もう全てが怪しいのだ。


「いやいや、そう言う問題じゃなくてさ。物理的な問題で邪魔って事だから」


柊一は諦めた様に机に向き直ると、机上にある問題集に目を戻した。勉強に集中したいのに…この男は。静かにしている、していないの問題じゃあないのだ。集中したい時、研ぎ澄まされている中で、他人が自室に居ると言う事が問題なのだ。

その上、この零色。別段これといって僕の家族や友人…と言う訳でも何でも無い。なのに、僕のパーソナルスペースを犯したい放題やりたい放題。柊一は持っているペンで問題集をトントンと軽く叩きながら、頭を抱えた。


「そんな邪魔邪魔言わないでよ、先生。〈貴方の邪魔をする者は、結果的に貴方を助けている〉って。この小説でも言ってるよ?」

「ーーーーーっ!?」


何を言われたのか理解するよりも早く、間宮柊一の握っていたペンが、まるで物理の法則を無視したかの様にボキリと音を立てて無残にも折れた。


「……零色………」


いや、物理の法則など無視はしていない。ペンは間違いなく柊一が折ったものだ。声色からそれが確定付けられる。


「出て行け!!!!」

「おっと!」


ついに発狂してしまった柊一の投げた問題集(十萬市立青葉学園の宿題)を糸も簡単に除け、窓辺に移動する零色。そうして零色は、キシシと笑いながら片足を窓の淵に掛けた。


「昔はそんな偏屈じゃなかたのになぁ…ね?先生」


おどけた様な声とは裏腹に、零色は少し寂しそうな顔をしていた。そしてその顔を隠す様に、深くフードを被ると、ベッド上で読みふけっていた紙の束を握り締め、そのまま窓の外の暗闇へと消えていった。


「誰が先生だ!……ってだから!毎回毎回、それ置いてけよ!」


柊一が紙の束を取り返そうと、窓辺に駆け寄った時には、その姿どころか痕跡も残っていなかったなんて言うまでも無いだろう。そして、ここが19階だなんて事も言うまでも無い。

そうーーー言うまでも、書くまでも無いのだ。

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