三冊目+第二章:逢
前回からまたかなりの時間が開いてしまったこと、お詫び申し上げます。未だに前作を読んでくださる方が多くいらっしゃることに感謝いたします。評価にはすべて目を通させて頂いています。 評価に対して、本当に必要なものに対して以外は、誠に勝手で申し訳ないのですが、返信はなしにさせて頂くことにしました。小まめに返信できないこともありますので、本当に勝手なのですがどうぞご了承ください。ですが目はしっかり通させて頂きます^^ では、長くなりましたが第二章の続きです。
オレンジ色の太陽が完全に姿を消し、代わりに建物で隠れた地平線から月が姿を現していた。
少女は未だに路地に座り込んで震えていた。その足元には、刃が数センチ出たままのカッター。
「……怖い…なんで私なの…嫌…死にたい…」
少女はすでに血の止まった手首をおさえたままでうわ言のように呟き続けた。顔色は真っ青になり、手は冷え切って血の気が引いている。
きっと明日学校に行けば、今日逃げたことを咎められ、何かと文句をつけられていじめられるのだろう。恐らく、今日よりも酷く。考えただけで体の奮えは止まらなかった。
学校には行きたい。しかしいじめられたくはない。
それでも、学校に行けばいじめられる。
少女はそこで、考えるのも嫌になって、体を丸めてうずくまった。
母親は心配しているだろうか。父親は仕事から帰る頃だろうか。
痛む体をおさえたまま、少女は立ち上がろうと足に力をいれた。しかし、散々暴力を受けた体は、なかなか言うことを聞いてくれない。
足首に痛みを感じて、再びその場に座り込んだ。
悔しさと悲しさでまた涙が溢れてくる。
「うっ……ひっ…ひっく…お母さん…お父さん…死にたいよ…」
こんなことならいっそ病気で死んでしまえばよかったのにと、手術痕の残る脇腹を数回殴った。そんな痕よりも、今は叩く腕の方が痛むことに、少女は余計に悲しくなった。
「もう嫌……死にたい…自殺したい…」
「どうなさいました」
俯いたまま嘆き呟く少女に、一人の男が声をかけた。少女は咄嗟に顔を上げる。
そこに立っていたのは、真っ黒な帽子を目深にかぶり、同じく真っ黒な服を着た男。
年齢はおそらく、30代くらいだろうか。
突然声をかけられたことに少女は戸惑い、何も言えないままただ男を見つめた。
「大丈夫ですか?」
そうもう一度声をかけ直した男が、傷痕の残る手首を見ているのだと気づいた。
焦って手首を隠す。再び俯いた少女に、男は屈んで静かに手を差しのべた。
「すぐそこに私の店があります。とりあえず行きませんか。もうだいぶ空気が冷たくなってきましたから」
全身黒尽くめで、一般的に考えれば明らかに怪しい人物なのだろうが、少女はなぜか自然にその手をつかんでしまった。
まるで何かに縋るように。
「どうぞおかけください」
そういって示された、革製の高そうなソファに、少女は黙って腰をおろした。
男はカウンター横の古めかしいストーブに火をつける。そして、一度店の奥へと姿を消してしまった。
一人にされた少女は、今になってのこのことついてきたことを少し不安に思い始めた。
知らない人について行ってはいけないなどということは、今どき小学生でも知っている。
しばらくして、男は木製の箱を持って戻ってきた。そして何も言わないまま、少女の前に座る。
すっと手を伸ばされて、少女は思わず体をびくりと跳ねさせた。
その様子を見て、男は帽子を取り、にこりと優しく微笑む。
「大丈夫です。手を貸してください、消毒しないとばい菌が入りますから」
そう言われて、少女は恐る恐る手を男に差し出した。丁寧に手当をしてくれる男の目を、じっと見つめる。
普通の人間とどこか違う。その目には、あまり光が感じられなかった。
微笑んでいるはずなのに、どこか寂しそうな瞳。
「ここは切ってもなかなか死ねませんよ」
突然そう言われて、ぼうっと男を見ていた少女ははっと正気に戻った。
戸惑い、大きな絆創膏の貼られた手首を見つめる。
「………どうしたら…死ねますか……」
先ほど店に入るとき、自殺屋と書かれた看板が立っていた。ここが自殺屋という店ならば、自殺する方法を教えてもらえるのではないかと、少女は小さな声で途切れ途切れに男に尋ねた。
その言葉に、男は表情を変えない。
「自殺をするのですか?」
男の問いに、一瞬間を置いて頷く。途端に体が震えだした。
「…自殺の方法をお教えするのは簡単ですが、まずは貴女がなぜ自殺を考えているのか話して頂けませんか?ここは自殺をお勧めする店ではありません」
「え?」
「ここは、自殺を考える方に、自殺とはなんなのかを知っていただく店です。貴女がいったい何の理由で自殺を考えていらっしゃるのか。自殺を選ばずに済む道はないのか、一緒に考えてはみませんか?」