三冊目+第一章:暴力
死んでしまいたい。
「お前きもいんだよ!」
「まじウザい。消えて」
「つーか生きててもしょうがないんじゃない?あははっ!」
いつものごとく少女に残酷な言葉が投げつけられた。
この中学に入学して、もうじき丸二年。少女へのいじめは悪化する一方だった。
少女は病弱で、小学校にまともに通うことができなかった。
毎日病院に通いつめ、同年代の子供たちと触れ合う機会の少なかった少女には、友達というものはいないに等しかった。
ようやく来られるようになった、あんなにも来たかった学校。そこでの、孤立してしまった少女へのあまりにも残酷な仕打ち。
少女は毎日ぐったりと肩を落としながら学校に通っていた。
学校の帰り道、うつむいたまま歩く少女を突然数人の女子が囲んだ。
「あんたさぁ、いい加減学校来るのやめたら?何しに来てんの?」
「いじめられに来てるわけ?きもーい、それマゾっていうんだよ」
「うわ、ブサイクなうえにマゾって最悪ー」
帰り道くらい穏やかに家に帰らせてくれないかと、少女はうつむいたまま小さくため息をついた。
「きもいブサイクは家にこもって肌のケアでもしてればー?無駄な努力だけど!きゃはは!」
そこまで他人に言われなければならない理由がわからない。生まれてくる人間はそれぞれ姿形が違って、それを選ぶことは許されないのだから。
すべての言葉を無視して少女が歩きだそうとすると、後ろに立っていた女子が鞄の紐を引っ張って少女を道に押し倒した。
「無視すんなよ!そのでこぼこの顔、叩いたら少しはマシになるんじゃない!?」
少女の腹の上に馬乗りになって、思い切り顔を叩き始める。それを合図にしたかのように、他の女子たちも一斉に少女に暴力をふるい始めた。髪を引っ張ったり、体中を殴ったりを繰り返す。
陽の暮れ始めた人気の無い道に、少女の叫び声と暴力をふるう音が響いた。
五分ほどそれが続いたとき、少女は力を振り絞って腹の上の女子を突き飛ばし、すぐに立ち上がって駆け出した。
後ろから罵声が飛んでくるが、そんなものは聞かずに走り続ける。
追いかけられる恐怖に震える足を無理やり動かして、細い路地裏に逃げ込んだ。
表通りでは、少女を見失った女子たちが大声で喚いている。
少女はその声を聞きながら、痛みと恐怖で震える体を抱えて息を殺していた。
「もういや…なんで……助けて…死にたい……」
女子たちが諦めて帰ったあとも、少女は一人道端に座り込んで震えていた。
その手には、購入したばかりのカッター。シャツの袖を捲り、その細い手首に刃を押し当てる。
引かなければ切れないカッターは、皮膚をへこませるだけで、冷たく鈍く光っている。
「う……うぅ…」
少女は腫れた目から大粒の涙をこぼしながら、思い切ってカッターを手前に引いた。
恐怖で力が抜けてしまい、浅く切れただけだったが、少し血がにじむ。
じわりと、そこに痛みが訪れた。手首に心臓があるような感覚。どんどん怖くなって、カッターを地面に落とし、血の滲む手首をおさえる。
「痛い…怖い……死にたいよ…」