四冊目+第一章:相違
新章の始まりです。
実話を元に書いていきたいと思います。
近頃、何をするにも気力がない。
やる気もでない。人と接するのが、面倒くさい。
「いらっしゃいませ」
開いた自動ドアの方を見もせず、音だけに反応して声を出す。
目の前に出されたかごを受け取り、中身を右から左へと移していく。
ただ、それだけ。その繰り返し。
そうして終わった一日の最後には、恒例の「女子会」。
行きたくもないその集まりに、半ば強制的にいつも参加させようとしてくる彼女に、ほとほと嫌気がさしていた。
集められて聞かされるのは、彼女のくだらない惚気話か、自慢話なのだから。
「でね、彼に結婚しようって言われたの!でもまだ学生だし、卒業したらねって約束したんだ」
つい先日付き合い始めたと惚気ていた彼との話らしい。
彼女はいつもそうだ。別れたと思えばいつの間にか新しい男を作り、すぐに結婚するだの指輪を買っただのと自慢をしてくる。
彼女のその話に飽き飽きしているのは、自分だけではないと、知っている。
皆適当に聞き流し、この集まりが早く解散になるのを待っている。
惚気話の後は、化粧品の話や流行のドラマの話。
それには自分以外も参加しているが、相変わらずあまり興味がない。
華の女子大生ともあろうものが、大して化粧もせず、テレビを見るのは最低限のニュース番組だけ。
流行のスイーツにも、恋愛話にも、興味はない。
そんなだから、どうしても周囲から少し浮いているのは、わかっていた。
西日に眩しそうに目を細める男がいた。
人気のない裏路地で、竹箒を持ったまま、ぼうっと空を見上げる。
「明日も晴れるといいですね」
誰にともなくぽつりと呟き、男は箒を壁に立てかけ屋内へと姿を消した。
人は、なぜか周囲と同じ状況に身を置かないと異様な不安に襲われるらしい。
本当の自己を隠し、可能な限りまわりに合わせ、違いが浮き彫りにならないようカモフラージュをする。
自分に近い人間を見つけ、それと一緒にいようと努力をする。
そうして本当の自分を見失った人間が、この世にどれほどいるのだろうか。
自分を貫くことよりも、周囲と同調し共存し、平穏に過ごすことを是とされる世界。
一般に当てはまらない人間は、悪とされ、社会不適合と叫ばれる。
そんなつまらない世界に、飽き飽きしている人間が、どれほどいるだろうか。
彼女も、そんな一人。
そして、その世界に生きる意義を見失いかけている。そんな時に出会う、一人の男。
その出会いが、彼女を幸せに導くのか、不幸に近づけてしまうのか、まだ誰にもわからない。