三冊目+第十五章:一緒
学校が自主学習期間に入り、少女と羽嶋は毎日のように二人で勉強をしていた。
いつものように図書館で待ち合わせ、勉強をして、帰って行く。
そんな毎日。
もうじき受験があり、そして羽嶋はこの町を去って行く。
その後の自分の人生や立場を不安に思う少女の心は変わっていなかった。
「じゃあ、また明日ね」
ぼうっとしていた少女に、羽嶋が声をかける。
駅のホームは一緒だが、乗る電車は反対側である。
うん、と小さく返事した後、少女は俯いて黙った。
「……羽嶋さんは、私の事憎んでるの?」
突然問われたその言葉に、羽嶋は反射的に少し怒った声を出す。
「何言ってるの。私が憎まれることはあっても私が憎むことはないよ。馬鹿なこと言わないで」
「じゃあ、羽嶋さんはずっと私のこと友達だと思ってくれる?」
「思ってるよ」
間を置かずすぐに答えた彼女の顔を、少女はじっと見つめる。
その目の中に異様な雰囲気を感じ取り、羽嶋はたじろいだ。
「じゃあどうして、私を一人にしようとするの?私が一人ぼっちになったのは、羽嶋さんのせいなのに、どうして貴女だけ逃げるの?一人にしないでよ。ずっと友達なんでしょ?なら一緒にいてよ」
電車がホームへ進入してくることを、アナウンスが伝える。
徐々に大きくなる、車輪の音。揺れだすホーム。
耳鳴りが大きくなり、少女の耳には叫んだ羽嶋の声も、周囲の驚愕の声も、届かなかった。
街中の電光掲示板で、電車事故のニュースが放送されていた。
悲惨な人身事故で、電車の復旧の目処は立たず、ホームが混雑している。
野次馬たちが撮影した写真には、跡形もなく吹き飛んだ、二人の人間。
なぜか残った首から上は、寄り添うように転がり、片方は笑い、片方は泣いていた。
人間の憎悪は、時にどう対処のしようもなく、思春期のそれは余計に根強いものがありますね。
彼女はこれで幸せだったのでしょうか。
自由の利かないわずかな期間を超えてしまえば、そこには無限の可能性と出会いがあったはずなのに。
執着と、固執。
人間の感情で一番怖いものなのかもしれません。
まさかこんな形で終えてしまうとは。私の導き方が、少し悪かったのでしょうかね。
かなりの期間をまたぎましたが、ひとまず少女の話は完結です。
新章では、実話を交えた話を書いていこうと思います。