表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/19

三冊目+第十三章:悪

約1年ぶりの投稿となりました。

たくさんの感想やメッセージをいただいていたのに申し訳ありません。

なんとか完結はさせたいです。

まだ見てくださる方がいれば、お付き合いください。

秋口になり、段々と日が短くなってきた。

授業が終わり、さまざまな用事を済ませて学校を出るころには夕日が顔を出し

あたりを緋色に染めるようになっている。


羽嶋は、今までと変わらなかった。

変わっていったのは、その周囲の人間達。

以前はよそよそしくはあったが羽嶋と関わっていた同級生たちが

あからさまに距離を置くようになり、羽嶋が一人でいる時間が増えたことを

少女は知っていた。


「どうして」

放課後、教室で一緒に勉強をしている羽嶋に、少女は問いかけた。

「…なにが?」

「羽嶋さんは、何も思わないの。みんなのこと」

少女の言葉に、羽嶋は黙ってその目を見つめ返した。

今まで何度も同級生たちの態度について羽嶋に問いかけたが、はぐらかされてきた。

向かい合って座っている今、改めてしっかりと話すべきだと思ったのだ。

羽嶋は特に何も言わず、参考書に目を落とした。

「今まで仲のよかった人たちに、こんな風に避けられたり、嫌がらせされたりして、つらくないの」

「あんたは辛かった?」

目を落としたまま、羽嶋は少女の問いかけに答えずに質問で返した。

その言葉に一瞬戸惑い、黙る。

辛いかといわれれば、もちろん辛かった。

楽しみにしていた学校生活で、初めて触れ合う同級生たちからいじめの標的にされ

毎日毎日暴力を受け続けた少女にとって、毎日の生活は死にたいほど辛かった。

その中心人物だった人間が、目の前にいる。

なんと答えていいのかわからなかった。

「辛かったに決まってるよね。別に何もしてないのに、いじめられてたんだから」

そういって、羽嶋は持っていたシャープペンシルを机に落とすように離し、窓の外を見た。

真っ赤な夕日が、教室の中を照らしている。

「これは、私の罰なの。勝手かもしれないけど、私は納得してるよ」


「罰、ですか」

店主は真剣な面持ちで少女の話を聞いていた。

少女はソファでうずくまり、静かに泣いている。

「私は、別にもう彼女を憎んでなんかいないんです。罰だなんて、そんな…」

「彼女は彼女なりに、自分を納得させているのでしょう。本当は辛いのだと思いますが」

そういわれて、少女はいっそう涙を流した。

いじめから開放され、楽になったはずなのに、心は辛いままだ。

こんなことならばいっそ、自分がいなくなればよかったのではないかと思った。

羽嶋は自分とは距離を置くことなく、変わらずに仲良くしてくれている。

嫌がらせの標的になってしまったことを、納得しているとまで話した。

それが、辛かった。

「彼女にとっては、今は貴女が支えになっているのではないですか」

「でも、こんなことになったのは私のせいです。私が枷になっているんです」

「きっかけは彼女です。貴女は悪くなどない」

きっぱりと言われ、店主の顔を見返す。じっとまっすぐ見つめてくるその男に、少女は立ち上がり、言い返した。

「自殺屋さんには、私の気持ちも羽嶋さんの気持ちもわからないです。実際に自分が人から無視をされて、みんなから責められたら、耐えることなんかできません」

そう言い放ったあと、店主がなんともいえない顔をしているのを見て、口をつぐんだ。

言ってはいけないことを言ったような気がして、居心地が悪くなる。

「……所詮私は他人ですからね。貴女の人生は貴女のものですし、彼女の人生も彼女のものです。私がとやかく言える立場ではございません」

急に態度が変わった気がした。店の空気が、一気に冷えたような感覚だ。

「ですが、これだけは言っておきましょう。貴女が死んで変わることはない。彼女の今の状況も。そして、貴女の死はより多くの悲しみを生み出すだけですよ」

ぐっと唇を噛み、ソファに置いていた鞄を握りしめて少女は店を飛び出した。

暗くなり始めた道を、とまることなく家まで走り帰った。


少女が店に行かなくなり、2ヶ月が経過した。

もうすっかり寒くなり、冬休みが近づいている。

学年全体が受験モードになり、放課後には一緒に塾へと向かう同級生たちが増えた。

そんな中、少女と羽嶋だけは教室で残って勉強をしている。

相変わらず状況は変わらず、二人は孤立していた。

それでもいいと、羽嶋は少女と一緒にいてくれている。しかし少女の心は晴れないままだった。

「あのね」

ふと、黙って勉強していた羽嶋が声を出した。

少女はぱっと顔を上げる。

「私、引っ越すの」

「え」

「県外の学校受けようと思って。だから、卒業したら、あんまり会えなくなるね」

戸惑いながら、意を決して口を開く。

じわりと、手に嫌な汗をかいている。

「私の…せい?私のせいで、みんなと同じ学校に進みたくないから?」

「違うよ、お父さんの転勤のせい。あんたのせいなんかじゃない」

そう言ってくれる羽嶋の言葉が、嘘のように聞こえた。

自分のせいで、彼女がここにいられなくなる。そう思うことしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ