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三冊目+第十一章:予感

朝目が覚めると、頭が痛かった。

昨日羽嶋に叩きつけられたせいかな、とそっと摩る。

時計を見ると、7時すぎ。そろそろ学校へ行く準備をする時間だ。

「起きてたの」

ちょうど母親が部屋に起こしに来た。

頭を抑える少女を見て、心配そうに近づいてくる。

「頭痛いの?学校休む?」

「ううん、大丈夫。もう準備するね」

やはり羽嶋が気になった。

結局昨日の駅での記憶ははっきりしないのだ。羽嶋の無事を、早く確認して安心したかった。


朝ごはんを軽く食べ、自殺屋の本と教科書とお弁当を詰めた鞄を肩にかけて家を出た。

本が多く入っているため重いが、出来る限り早足で学校に向かう。

曲がり角を出た瞬間、出会い頭で人とぶつかった。

「ごめんなさ…!」

謝って顔を見ると、そこに居たのは羽嶋だった。驚愕した表情で、少女の目の前に立っている。

「あ、あんた…生きて」

「羽嶋さん無事だったんだ!よかった!」

羽嶋の言葉を遮って、少女は勢いよく羽嶋に近付いた。

思わず羽嶋が仰け反る。と、少女ははっとして申し訳なさそうに一歩下がった。

「…私、昨日あんた消えたから…まさか電車にひかれて粉々になっちゃったのかと思って……ほんとに、殺しちゃったかと思って…」

羽嶋が目を泳がせながらぽつりぽつりと話すのを、少女は黙って聞いていた。

羽嶋の声は震え、目には少し涙が浮かんでいるように見える。

「昨日…あの後あんたのこと探したけど見つからなくて…どうしようって…別に殺したいとか思ってなかったのにって……」

「ごめんなさい!」

突然声を発した少女に驚いて、羽嶋が顔を上げた。

「私…殺したいって思った…羽嶋さんのこと、死んでしまえばいいのになんて、思った…ごめんなさい」

真っ直ぐ自分の顔を見て謝ってくる少女を見て、羽嶋の目から涙が零れた。

血色の良い唇が、震える。

「な、なんであんたが謝るの…散々いじめてきたんだから、殺したいって思われても仕方ないのに……なんであんたが先に謝っちゃうのよ」

ごめん、ごめんなさいと、羽嶋は立ち尽くしたまま少女に謝った。

お互い泣きながら謝る2人を、通行人が不思議そうに見ていた。



「自殺屋さん!」

「いらっしゃいませ」

店に駆け込んできた少女に、男はいつものように微笑みかけた。

相当急いできたようで、息の上がっている少女を、ソファに促す。

「どうされました。そんなに急いで」

重い鞄をソファに置き、胸に手を当てて息を整えながら少女はにこにこと店主を見た。

鞄から一冊の本を取り出し、店主に見せる。

それは、自殺屋で借りたものではなく、普通の、小説である。

「…それは?」

「羽嶋さんが貸してくれたんです。今日朝道でばったり会って、お互い心配しあってたみたいで。今までのこと全部謝ってくれました」

穏やかな表情で手の中の小説を見つめる少女を、店主はうれしそうに見つめた。

今の少女の顔には、暗い影や悲しみは見えない。

今日一日で羽嶋が今まで一緒になっていじめていた同級生のところを回り

少女に謝るように促してくれたのだと、少女はうれしそうに話した。

店主は黙って頷きながら話を聞いていた。

その後少女は借りていた自殺屋の本を返却し、新しく5冊の本を持って店を後にした。

少女が去った後のソファに、カードが落ちていた。店主はそれを拾い上げ、見て首を傾げた。


亀裂が、入っている


うっすらとではあるが、確かにカードの真ん中を、不吉な亀裂が走っている。

「……」

店主は黙ったままそのカードを机に置き、店の奥へと姿を消した。

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