3.いざ! ミニスカサンタへ
3.いざ! ミニスカサンタへ
窓辺にそよぐ靴下三足。 井川、志田、秋元の靴下だ。
雑巾を持ってきた従業員がバカげたアクシデントにも関わらず、濡れた靴下を乾かすために窓にロープを張ってくれた。 洗濯ばさみを10個持って来てくれたが、胡坐をかいていた良介と正座していた名取は靴下を濡らさずに済んだ。
靴下が乾いてくるにつれ、いような臭いが室内に漂い始めた。 鍋のつゆと、靴下独特の悪臭が混じり合った何とも例えようのない臭い。
「ちょっと! それどうにかしてくださいよ」青田が鼻をつまんで抗議する。 青田は良介たちの隣のテーブルで井川のすぐ横に座っていた。 つまり、臭いの根源にいちばん近い位置だった。
「おお、悪いなあ。 どっかの大バカ野郎のせいでよ」そう言いながら井川は靴下の乾き具合を確認する。
「もういいな」靴下が乾いたのを確認すると、自分の靴下をはき、志田と秋元にも靴下を放った。
「俺のはまだ乾いてないじゃないか」と志田。
「年寄りは厚手だからな。 どっちにしても近所迷惑だから早く仕舞え」井川がからかう。
宴会が始まって、そろそろ二時間。 従業員が飲み物のラストオーダーを聞きに来た。 追加オーダーはなかったので、良介は清算を頼んだ。 すぐに従業員がレシートを持ってきた。 集めた金を数える。 足りない。 当然だ。 志田の分と最初に飲んだ生ビール三杯分。 それから女の子たちの分。
「どうだ足りるか?」井川が目で合図しながら良介に聞く。
「足りませんねえ…」と良介がわざと不安げな表情で言う。
「あっ! そうだ、俺、まだ会費を払ってないぞ」そう言って志田が財布を取り出す。 井川と良介はニヤッと笑った。
「いくらだ?」と志田。
「9千5百円です」良介が言うと、志田は少し首をかしげたが、黙って金を出した。
「領収書をもらっておいてくれ」
清算が終わると、入口に近い方から部屋を出た。 ところが、なかなか裂が進まない。
靴箱の前では青田が必死に靴箱の扉を開けようとしている。 鍵を差し込んでもロックが解けないのだ。 何度やっても同じ。 あげくの果てには手で力ずくで金具を引っ張り始めた。
「すいませーん! 靴箱、壊れたよー」見兼ねた良介が従業員を呼んだ。
すると、従業員がペンチを持って飛んできた。 ペンチで金具をこじって無理やり扉を開けた。 慣れた手つきだ。
「お兄さん、ずいぶん慣れてるね」良介が誉めると、従業員は「ええ、しょっちゅうやってますから」と頭をかいた。
店の外に出ると、路上は忘年会を終えたもの、これから始めるもの達でごった返していた。 二次会は特に設定していなかったので、店の前でどうするか相談が始まった。
志田や竹山は家が遠いこともあり、そのまま駅へ向かった。 それにつられて、他の何人かも駅へ向かった。
残ったのは、良介達のテーブルにいた四人と、青田、中川、小暮の7人だった。 井川と名取は秋元の方を見てニヤリと笑った。 決まりだ。
「じゃあ、行くか! ほら、さっさと案内しろ」井川は秋元の背中を押した。
「行くのはいいですけど、オゴリませんからね」そう言いながら、秋元の歩く足取りは軽かった。
秋元に案内されて、一行は駅前の歓楽街を練り歩く。 あちこちでミニスカサンタのお姉さんが客引きをしている。 いい感じに酔っ払っているオヤジ達は鼻の下をのばしてキョロキョロし始める。 すると、10mほど先から一人のミニスカサンタが駆け寄ってきた。
「秋元さーん、いらっしゃい! 待ってましたよ」そう言って身にしかサンタは秋元の手を取って店の方へ引っ張って行った。 良介たちはポカーンとしてその様子を見ていたが、すぐに秋元を追いかけた。