2.二次会は決まり!
2.二次会は決まり!
秋元は血相を変えて店の外に出て行った。 頭を抱えてうずくまっている男性に平謝りすると、必死で散乱した書類をかき集める。 その様子を名取が部屋の窓から見ている。
「あれっ?」秋元がかき集めている書類を見た名取が首をかしげた。
「どうした?」井川も窓から顔を出した。 書類だと追っていたそれには若い女の子の写真が映っているように見えた。
「なんだ?あれは」
秋元が部屋に戻ってくると、井川はカバンを取り上げ中の書類を引っ張り出した。 書類だと思っていたのはキャバクラ嬢のプロフィールをプリントアウトしたものだった。
「お前、仕事しないでこんなことばっかりやってるのか?」そう言ってニヤつく井川。
「違いますよ。 これは家でやってきたんですよ」秋元はそう言って、井川からキャバクラ嬢のプロフィールを取り上げる。
「いいなあ、これ。 秋元さん、今晩行くんですか? 僕も連れて行って下さいよ」名取が食い付いた。
「よし! 今日の二次会は決まりだな。 秋元のオゴリで」井川が高笑い。
「やった! ご馳走様です」名取は秋元に向かって深々と頭を下げた。
「オゴリはないでしょう…」秋元はふくれっ面でビールを飲み干した。
この日の鍋は、海鮮ちゃんこ鍋。 魚介類のダシがきいていて、なかなかいい味だ。 みんなも腹が減っているようで、あっという間に空になった。
「おーい、無くなったから片付けてくれ」井川が従業員に言った。
「すいません、後でうどんが出ますので、もう少しこのままでお願いします」
「なんだ? と、いうことは最後まで置いとけということか?」
「あ…。 はい」申し訳なさそうに頭をもそもそしながら、従業員が答えた。
その後も、コースの料理が次々運ばれてくる。 テーブルの上は料理であふれる。 こうなってくると、やっぱり鍋がじゃまだ。
「よく見たら、ここのテーブルは人数が多いからだよ」井川はタバコに火を付ける。
「しょうがないじゃないですか。 タバコ吸う人はこのテーブルじゃないとダメなんですから」名取が井川をなだめるように言う。
「名取、お前なんか向こうで我慢してろ」
「そ、そんな! 部長のそばがいいんですよ」お調子者らしく名取が言い訳する。
「だいたい、なんでお前までいるんだ? 秋元。 お前はタバコをやめたんだろう?」
「やめましたけど、いいじゃないですか。 この席の方が話が合うし」と秋元。
「何だ、結局、みんな俺のそばがいいのか? 仕方ねえな。 でも、とりあえず、この鍋、邪魔だから、ちょっと退けよう」井川はそう言うと、何を思ったのか、いきなり鍋を持ち上げた。 そして掘りこたつ式になっている座席の下へ置いた。
「ほら! テーブルの上が広くなったぞ。 お前ら、鍋を蹴飛ばすんじゃないぞ」
宴会も半ばを過ぎた頃に社長の志田が到着した。
「悪い、悪い! 遅くなった」会場に入ると志田はまわりを見渡し、どこに座ればいいか確認した。 入口付近に座っていた石山が「あっち」と指をさす。 良介は手を上げて、隣が開いていると合図を送った。 良介の隣ということは、井川の正面になる。
「おう! お待たせ」志田は井川に向かって片手をかざし、詫びるようなしぐさをして席についた。
「何だ、やっと来たか。 もう、食う物なんか残ってないぞ」井川が皮肉を言う。 テーブルの上には食べきれない料理が所狭しと並んだままだ。
「いい、いい。 みんなで食べてくれ。 俺は最後の雑炊かうどんだけ食えばいいから。 あれっ? そう言えばここの席は鍋が無いのか…」志田がそう言った瞬間、足元でゴロンと音がした。 と、同時に床が水浸し、いや、つゆ浸しになった。
「なんだ?」志田が、足元を覗きこむと、鍋がひっくり返り、つゆがこぼれていた。
「バカっ! 気をつけろと言っただろう!」井川が血相を変えて志田を怒鳴る。
「社長は今来たところだから知らないですよ」良介が取り繕う。 そして、鍋を拾い上げ、従業員を呼んだ。「雑巾、大盛り!」