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色いろカラー

作者: notomo

「色いろカラー」

 みみちゃんは、小さな三年生。パパとママが大好きで、学校も大好き。でも、最近は悩み事があって・・・

 初めてそれにであったのは、ママとカレーを作っていたとき。黒くて大きくて、速いものが、ビューッと、飛んできたのです。みみちゃんは、それが何かわからなかったので、立ち尽くしてしまいました。ママが、悲鳴を上げながら、半分泣いたような状態になって、新聞紙で、それを何発も打ち、すぐさま新聞紙ごとくずかごに投げ込み、しっかりとふたをしました。

「ママ、あれは何?」

 みみちゃんが、いつも優しいママの狼狽に驚きながら尋ねると、ママは、まだ震えている声で、みみちゃんに教えてくれました。

「あれは、ゴキブリよ。汚くて、ばい菌をいっぱいもっているから、殺さなきゃいけないの。みみちゃんも怖かったでしょ?」

 みみちゃんも、ママの話を聞いてすっかりゴキブリが恐くてたまらなくなってしまったのです。

「もう、出ないようにいろいろ買ってこなく 

 ちゃ。」

 ママが、作りかけのカレーをおいたまま、「すぐに帰ってくるからね。」

 いうや否や、一人で走って出かけてしまいました。戻ってきたままの手には、様々なスプレー、よくわからない錠剤、箱のようなものがぎっちり詰まった袋が、重そうにぶら下がっていました。これで一安心です。

次の日、みみちゃんは学校で昨日の出来事を、お友達に話しました。みんな、ゴキブリを知っていて、さっちゃんなどは、ゴキブリと言う名前を聞くだけで、震え上がりました。「ねね、ゴキブリと言えば・・・」

 新しい話題を切り出したのは、みえちゃんです。しっかりもので、かわいらしいみえちゃんは、お友達グループのリーダー的存です。

「木村さんてさ、いつも一人で本ばっかり読んでて、お洋服も黒ばっかり。いつもびくびくしてて、ちょっと、ゴキブリに似ているよね。」

 みみちゃんは、木村さんとはあまり話したことがありません。木村さんは、確かに独り言を言ったりするし、他の人が話しかけても、うなずくか、首を振るだけで、いつも一人でした。

 チャイムが鳴って、一時間目が始まりました。みみちゃんの苦手な算数です。しかも、今日使うコンパスを忘れてきてしまいました。先生は、どんどん授業を進めていきます。お友達とは、席が離れてしまっているのです。と、そのとき、背中をそっと触れる感覚を感じました。みみちゃんの後ろは、木村さんです。木村さんは、消え入りそうな声で、

「これ、これ使ってね。わたくし、もうひとつあるのよ。」

 みみちゃんは、木村さんの変わった言葉遣いに少し驚きを覚えましたが、

「ありがとう。」

といって、コンパスを借りることにしました。

 算数の時間が終わり、みみちゃんは、

「ありがとう。本当に助かったよ。」

と、コンパスを木村さんに返しました。木村さんは、下を向いて本を読みながら、

「助けたんじゃないんですのよ。貸しただけ  です。」

 と消えそうな声で、答えました。相変わらず少しかわっていましたが、木村さんの口元はわずかにほころんでいました。みみちゃんも、

「木村さんて、変わっているけど、いい人だ 

 なあ。これから、お友達になれたらいい な。」

 と思っていました。

 ところが、次の休み時間のことです。

 「みみちゃん、手をしっかり洗ったの?」

 みえちゃんたちが駆け寄ってきました。ゴ ゴキブリが、うつるよ。」

 みえちゃんたちは、今朝のおしゃべりで、すっかり木村さんをゴキブリ扱いすることに決めてしまったようなのです。みみちゃんは、みんなの仲間はずれになることが怖くて、

「すぐに洗ってくるね。」

 と、手洗い場に駆け出していました。手を洗いながら、みみちゃんの心は、ちくちくと痛んでいました。

 クラスに戻ると、木村さんの席に、みえちゃんたちが集まっています。給食当番の手袋をしたみえちゃんが、マジックで、ゴキブリ、汚い、ばい菌などと殴り書きしていました。お友達も、笑いながら、みています。みみちゃんは、算数の時間に感じた背中のぬくもりが、なんだかひどく汚いように感じて、上着をランドセルに押し込みました。

 木村さんが、大事そうに本を抱えて戻ってくると、みんな、さーっと遠のきました。木村さんはそんなことはおかまいなしで、自分の席に、すとんと座りました。そして、机の落書きに気づきました。

「わたくし、毎日お風呂に入っているから汚くないんですのよ。」

 いつもよりも、もっと小さい声でしたが、みみちゃんには、はっきり聞こえました。

「わたくし、ふつうになりたいの。」

 という言葉も。

 みえちゃんは、

「みんな、ゴキブリは汚いよねえ、黒くって 

 さー。」

 と大きな声で言いました。みんな、くすくす笑っています.木村さんは、自分の服を見つめ、いとおしそうになでながら、

「黒じゃなかったら好きになってくださいますの。」

 とつぶやき、その日は、早退してしまいました。みえちゃんたちは、

「退治したから、安心ね。」

 と、言い合っていました。みおみちゃんは、みみちゃんも、木村さんがいなくなったことで、ほっとした気持ちを感じながらも、そんな気持ちを持ってしまう自分が憎らしいような気持ちが胸に詰まって、その日は、大好きな給食もあんまりのどをとおりませんでした。

 その日はお家に帰ってからも、木村さんの

「普通になりたいんですのよ。」

 と言う言葉がこだまして、気持ちが晴れません。お風呂に入って、すぐに眠ることにしました。

 みみちゃんは、その夜、不思議な夢を見ました。小さな虫たちが、お互いをペンキでカラフルに塗りながら、歌の練習をしているのです。みみちゃんは、もっとよくみようと、近づくと、その虫たちは、なんとゴキブリでした。みみちゃんは叫び声をあげそうになりましたが、ぐっとこらえて、彼らの歌に耳を澄ましました。

「ぼくたちは、黒く生まれてきたけれど、今日から生まれ変わるんだ、ペンキはとっても苦しいけれど、お歌も苦手だけど、これでみんなにすかれるよ。鈴虫さんや、蛍さんみたいになりたいな。がんばるぞー」 

 みみちゃんは、楽しそうにしているけれど、苦しそうでもある彼らの歌に、胸が押しつぶされそうになりました。

 翌日目覚めたときに、みみちゃんは大きな 決意を胸に抱いていました。

 学校につくと、自分の席の後ろに見知らぬ子が座っています。鮮やかな、赤のワンピースを着て、居心地悪そうにしています。自分の席に着くまで、みみちゃんは彼女が木村さんとはわかりませんでした。みみちゃんには、木村さんに言おうと決めていた言葉があったのですが、木村さんが感じている居心地の悪さが移ったのか、なかなか」言葉が出てきません。

 しばらくすると、みえちゃんたちがやってきました。

 「ゴキブリが変色したー。学校にそんな色、さっすがゴキブリだー。汚いー汚いー。」

 木村さんが、泣きそうになっているのが、みみちゃんにもわかりました。

 「これでも普通じゃないんですの。難しいですわ。」

 みみちゃんは、とうとう心を決めることができました。

「木村さん、その服、かわいいよ。でも、自分の好きなお洋服が、木村さんらしくて、みみはすてきだと思うな。普通って、みんながひとつずつ持ってればいいって、昨日気づいたの。だから、木村さんはもう普通だよ。これから、もっと木村さんのこと、みみに教えてね。」

 そういって、みみちゃんは、木村さんと握手しました。

 みえちゃんたちは、普段にこにこして、お話を聞くことの方が多いみみちゃんの、大胆な行動に、びっくりしたみたいでした。その日、いつもの仲良しグループは、みみちゃんとお話しすることがないまま、下校の時間になってしまいました。

 翌日、木村さんはいつもの黒いワンピース姿で、初めて自分からみみちゃんに声をかけてきてくれました。

 「わたくしの好きな本、あなた、読んでくださる?」

 みみちゃんはうれしくて、さっそく本を借りました。自分の席に着くと、机の仲に、お手紙がたくさん入っていました。みえちゃん、さっちゃん、なかよしさんからのお手紙です。

みんな、「昨日はごめんね。」とか、「みみちゃんって強いね、これからもなかよくしてね。」などと書かれており、みみちゃんは、後ろの方で、ドキドキしながら待っている仲良しグループに駆け寄っていったのでした。

 みえちゃんたちは、木村さんにもお手紙を渡したようでした。木村さんも、みんなのそばにきて、

「わたくしのままでいていいんですのね。」

 と、今まで見せたことがなかったきれいな歯を見せて、ピカピカの笑顔をみんなにプレゼントしてくれたのでした。 


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― 新着の感想 ―
[一言] いじめ言葉が「ゴキブリ」という、酷くえぐいその言葉が子供特有の純粋な悪意を嘘偽り無く表していて、なんだか考えさせられました。 現実もこれぐらいのハッピーエンドであればいいのですけどねー…。…
2010/11/02 18:16 退会済み
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