プロローグ
あの時の後悔を、今でも決して忘れることはありません。
これからも、この先も、ずっと悔いて、悔いて、自分を責め続けることでしょう。
私は今、人を生かしてしまいました。
そして、最大の恐怖を与えてしまいました。
これほどまでに罪深いことがありましょうか。
あの暗くて寒い夜に起こった過ちを、今更になって、私はどうか反省し続けるのであります。
当時の私には、貴女の言葉の意味がわからなかったのです。
神にも人間にもなれず、至れず、ただただこの器の中に閉じこもり、
虚しいだけの反抗を行う哀れな自分には、我ながら情けなくなります。
いや、情けなくなるくらいなら、むしろ本望です。
もう色々と疲れました。
くたくたです。
水が欲しい。
だけど、そんなの贅沢ですね。
生きることだけでも精一杯なのに。
もう泣く気力もなければ、歩く気力もありません。
駄目なのかもしれません。
今まさにこの沈黙が、私の胸に警鐘を鳴らし続けるのであります。
耳を塞いでも、心を塞いでも、その鐘は私の身体を震わす。
一体、何がそうさせるのでしょうか。
私はまるで臆病な悪霊に取り憑かれたかのように我を忘れ、
現実を破壊せしめようと試みては、祓われ、縛られ、苦悶するのです。
確かに、こんなところで死ぬわけにもいきません。
死ぬに死にきれない。
伝えなくては。
それは義務であり、私にとっての使命。
私は貴女を神と崇めたことがあります。
ですが、全知全能などではありませんでした。
私の心ひとつでさえも、わかってはいなかったのですから。
今すぐになんとかしなければなりません。
真実は、私と貴女だけが知っています。
しかし、貴女はもう今までの貴女ではありません。
ならば、真実は私の中にだけ存在するのでしょうか。
だったら一層のこと、全部閉じ込めてしまえばいいのです。
この薄汚れた瓶に注ぎ込み、溶けて混合し、濁りゆく様を、
死ぬまで永遠に眺めていればいいのです。
恐いことなど、もう何もありません。
それだけの覚悟があります。
今の時間が、ひたすら無駄に思えます。
いずれ私は、貴女に恐れられ、恨まれ、そして無に至るのです。
その全ては、運命と呼ぶに相応しいでしょう。
もし運命を変えられるのであれば、私は今ここで死にます。
ですが、生憎そんな生意気なことは到底できそうにもありません。
わがままが過ぎるのです。
もし一蓮托生できるのであれば、そうしたかったものですが、
とても相応しくなんかない。
もうじきに正義の人たちが、所謂「悪」を遂行してしまった私を、
とっ捕まえにやって来ることでしょう。
私は逃げもせず、抵抗もせず、ただ受け入れるつもりです。
そして、人間が作り出した法という掟によって、私は裁かれるのかもしれません。
たとえ「主」がもうそこにはいなかったとしても、
人間が土偶を裁くのです。
いつ頃からでしょうか。
こうやって、誰か他の人間に憧れるようになったのは。
いつ頃からでしょうか。
こうやって、無様にも神になりきろうとし始めたのは。
今更考えても手遅れでしょうか。
こんなこと。
ですが、私には大いなる責任があります。
決して逃げ出したりはしません。
あの時のように。




