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私はお兄様を愛している  作者: こつめ
本編第3章 変化

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acte-019

 アリーは届いた手紙に目を通していた。別邸で暮らし始めて三ヶ月経つ。ここにアリーとティアナが住んでいることを知っているのはダビデとバルクだけ。手紙はダビデからで、先月バルクに聞いた婚姻のことが書かれていた。






 愛する娘アリーへ


 そろそろ、バルクに爵位を譲って商会も引退しようと思っている。


 やっとバルクも相手を見つけて安心したよ。


 オリヴィエ嬢の強い希望で婚約はせず、半年後に結婚式を挙げることになった。


 招待客は親戚や商会の関係者が殆どだから、アリーやティアナの参加は難しいと思う。


 許して欲しい。


 そちらでの生活に不便はないか?


 ティアナは勉強を始めたと聞いた。

 10歳からでは、なかなか大変だろう?辛いこともあるだろうから今度、顔を見に行くよ。


 体に気をつけて。


 刺繍の練習、頑張るんだよ。




                   ダビデ






「お父様、気にしてるのね。」

 思わず声が漏れた。


 当然のことだから、謝ることはないのに。


 ただそうなると、やはり婚姻相手のオリヴィエに会うのは難しそうだ。自分が華としてデビュー出来れば、或いは会えるかもしれない。アリーは返事を書こうと立ち上がった。当初、侍女とメイドを置く置かないで父やエリオットと揉めた。子爵という立場上、置くのが普通だ。ただ、人が増えれば必要ない嘘が増えるし身元が露見する危険も増す。


 アリーもティアナも自分のことは自分で出来るし、何より世間から離れて暮らすことを望んでいる。それに住んでいる楓の家は、こぢんまりとしていて手がかからない。必要ないと言って断るとエリオットから、「ではその代わり料理人兼下働きはこちらで付ける。」と言われ、ジャックと言う青年を通いで受け入れることになった。


 タウンハウスの厨房で働いているジャックはアーガン伯爵領では騎士だったがエリオットを慕い王都にくる為、わざわざ使用人になったのだと言う。毎朝別邸を訪れ、食糧や日用品を都度在庫を見ながら運び入れると、昼と夜そして翌朝の食事を作り雑用や力仕事をこなしてから昼前にはタウンハウスの厨房へと帰っていく。口数が少なく朴訥な青年は無駄話もしない為、嘘をつく必要もなく穏やかな日々が過ごせている。お陰でアリーは少しの洗い物と掃除、洗濯だけで家事は終わるので刺繍の練習にたっぷりと時間を費やすことが出来ていた。


 ダビデへ手紙を認めながら、アリーは時折開け放した窓から外を眺めた。


 楓が、さやさやと揺れている。


 夕刻にはシュトラウ子爵としてタウンハウスに赴かなければならない。上級使用人たちと、顔合わせがあるのだ。晩餐にも招待されている。それを考えると気が重かった。エリオットが全て取り仕切ってくれる予定だが、タウンハウスにはベントリーがいる。あの日以来、会うのは初めてだった。重いため息が知らず漏れた。


 アリーが手紙を書き終える頃、エマがティアナを伴い別邸を訪れ着替えを手伝ってくれた。ダビデが用意してくれたドレスに着替え、髪を整え化粧を施す。仕上げにベールを被り、顔を隠した。平民として暮らしている間、殆ど化粧をすることがなかったアリーは淑女教育を受け直しながら少しずつ髪や肌の手入れも受けていた。エマが来ない日は自分で髪に香油を塗り、肌の手入れをする。普段はデイドレスを身にまとい、身嗜みに気を付けた。


 アリーの支度を終えると、ティアナの支度を始める。こちらもダビデの用意したドレスに着替えた。同じく髪を整え、化粧は施さず少しだけ唇に紅をさす。


 二人はエマに連れられ玄関に向かい、ホールに足を踏み入れると、そのまま晩餐室まで案内された。人払いがされており、誰ともすれ違わない。中に入ると、すでにエリオットが着席していて向かって右辺の席を促された。


 二人並んで腰掛けると、それぞれに紅茶が用意されエマが退室した。少ししてノックが鳴り、使用人たちが入室してくる。


 執事長ノーマン。

 侍従長ベントリー。

 侍女長サマンサ。

 料理長スタン。


 上級使用人のみ、アリーとティアナを紹介すると事前にエリオットから説明はされていた。晩餐の前に、済ませてしまうつもりらしい。アリーはゆっくりとベールを取り、膝に置いた。


 エリオットは「事情があってアリーとティアナの後見に名乗りをあげたこと。」「侍女のエマと料理人見習いのジャック以外使用人は別邸に近寄らないこと。」「亡き母の持っていた子爵位がアリーに譲られた意味をよく理解すること。」その三点を告げると退室するよう告げた。


 余計なことは言わず、伝えられる事実のみ告げただけでエリオットは終わらせた。


 嘘は言っていない。

 詮索は不要。


 明確な意思に四人は恭しく一礼し、退室した。エリオットがアリーに視線をやると、ほっと肩の力を抜いたところだった。隣に座っていたティアナが心配そうにアリーを見上げる。安心させるように微笑むとエリオットが口を開いた。


「緊張したでしょう。」

「はい、少し。」

「明言しておきますが、あなた方二人にベントリーが近付くことはありません。」

 エリオットがさらりと告げる。

 

「ありがとうございます。」


 空気が緩んできたことを確認すると、エリオットはベルを取った。アリーがまた、ベールを被る。確認してから鳴らした。ややして、給仕が入室し紅茶を下げると晩餐の支度が始まる。


「ティアナ。マナーは気にしなくて良い。」

「はい。お兄様。」


 アリーは思わずエリオットを振り返った。聞き流してるエリオットを見てティアナに向き直る。


「いつから、そう呼ぶようになったの?」

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