acte-018
執務机に載せられた書類を手に取り、読み込んでサインする。単調に見えるそれは領地から上がってきた上申書が主で、エリオットが当主でいる限り生涯こなさなければならない仕事の一つだった。
時折、顳顬を揉みながら読む。
一息付いて目線を変えると銀のトレイに目をやった。何通も届いている手紙を手に取ると、ざっと繰る。
ぴたりと手が止まった。
真っ白な封筒。縁に蔓草がエンボス加工されたそれはアウイナイト色の蝋で留められ、薔薇のシーリングスタンプが押されていた。
学園を卒業する年の秋。
その頃から不定期に届く、この手紙はいつもエリオットを苛つかせた。禍々しく不快なソレの封蝋を乱暴に割る。取り出して読むと思わず舌打ちが出た。
便箋には一言、「貴方はわたくしのもの。」
そして匂い立つ、濃い薔薇の香り。ぐっと吐き気を堪え、ダストボックスに放り込む。残念なことに、この手の類はよく届く。だがここまで執拗な手紙は珍しかった。気が削がれ、エリオットは立ち上がった。
自室に向かうと、ソファに横たわる。脚を肘掛けにかけて放り出し、左腕で両目を覆うと息を吐いた。
差出人の目星はついている。
そろそろ手を打たなければ。
手遅れになれば絡め取られ、一生死んだように生きていかなければならない。
起き上がるとベルを鳴らし、侍従を呼ぶ。
紅茶の用意をさせ、執務室のダストボックスを片付け空気も入れ替えるように伝えるとカップを手に取った。




