acte-017
去っていくエリオットの後ろ姿をティアナは名残惜しく見送った。
「忙しいみたい……。」
腕の中で大人しく収まる白い仔犬ロロに、ぽしょりと言う。くぅんと小さくロロが答えた。小さな舌を伸ばし、ティアナの鼻先を掠める。
「今度って、いつかなぁ。」
呟きながら部屋へと向かう。ティアナは別邸に越してきて少し経つと、勉強を教わることになりタウンハウスの一階にある客室の一つを与えられた。ガヴァネスはエマだった。なんでも母も教わるそうで、そちらは週に三回午前中に別邸で。ティアナは毎日午後、タウンハウスで教わることとなった。
エマが言うには13歳になると貴族学園か学校か、どちらかに必ず通わなくてはならないらしい。ティアナはもうすぐ貴族になって子爵令嬢と呼ばれるようになる。名もティアナではなく、ティアナ・シュトラウと後ろに家名がつくと言われた。
「身分に合った相応しい振る舞いが出来るように、今から勉強するんですよ。」
そうエマに言われて納得した。
それからは毎日、別邸で母と昼食を摂った後タウンハウスに通っている。ロロは別邸で飼っていて、勉強の間は母に預けていた。ただ今日は出かける時間になっても見当たらず、諦めてタウンハウスに来たら中庭でお昼寝していたのだ。
エマに言って許可をもらい客室で一緒に勉強していたら、いきなりロロが飛び出していった。慌てて追いかけたら中庭でエリオットに、まとわりついていたので驚いてしまった。つい遊びに誘ってしまったけれど、そもそも勉強中だったと思い出す。急ぎ足で部屋に戻るとエマが紅茶の準備をしていた。
「少し休憩致しましょう。」
「はい。」
ティアナは床にロロを下ろし、椅子に腰掛けた。目の前で紅茶から湯気がたち上り、柑橘系の香りが鼻をくすぐった。
「オレンジティーですか?」
「ええ。そうですよ。ティアナ様はまだ少し紅茶の味が苦手でしょう?果汁を入れてみました。」
カップの中には輪切りも浮かんでいた。嬉しくて顔が綻ぶ。対面にエマも座って、マナーを見てもらいながら紅茶を口にした。
「ロロは、旦那様がティアナ様にと連れてきたそうですよ。」
「え?」
「喜ばれるのではと考えて手配されたとベントリーが申しておりました。」
徐に告げられて反応が遅れた。でも、すぐに胸がじわじわ暖かくなって嬉しくなる。
「お兄様、今度一緒に遊んでくださるって。」
嬉しくて思わず告げるとエマが瞳を瞠った。
「それは、ようございました。」
驚きに詰まったようなエマの返答には気付かずティアナは、にっこりと微笑んだ。




