acte-016
踏み出すと同時に白い塊が足元に纏わりついてきた。咄嗟に立ち止まり、見下ろすと垂れ耳の白い犬が千切れんばかりに尻尾を振り見上げていた。
真っ黒い瞳は艶々と輝き、小さく鳴き声を上げる。
「お前、なんでここにいる。」
「あ!ロロ!」
声が上がり、弾かれたように顔を上げると応接室のテラスから中庭に向けてティアナが駆け寄ってきた。
「ロロ!駄目だよ、勝手にお外へ出ちゃ!」
座り込み、エリオットに纏わりついて離れない犬を抱え上げる。それからエリオットを見上げて眉を下げた。
「ごめんなさい、お兄ちゃん。」
いきなり「お兄ちゃん。」と呼ばれて瞠目する。
知らないはずだ、自分が腹違いの兄だということは。
じっと見つめているとティアナは、もじもじと俯いて犬に顔を埋めた。
「あの、お友だちにお兄ちゃんがいたの。ずっと羨ましくて……呼んでみたかったの。勝手に呼んで、ごめんなさい。」
耳どころか首まで真っ赤になりながらティアナが言う。
エリオットは言葉に詰まってしまった。
おずおずと顔を上げたティアナは不安そうにエリオットを見つめてくる。
きっと無表情な自分が内心動揺しているとは思いもしないのだろう。じっと返事を待つティアナを見つめながらエリオットは口を開いた。
「かまわない。」
こてん、とティアナが首を傾げる。
「だが、お兄様と呼ぶように。」
言い換えると、ぱぁっと笑顔が咲いた。
「お兄様!」
勢いよく呼ばれ、困惑する。
「なんだ。」
「これから、ロロと遊ぶの!お兄様も一緒に。」
言いかけるティアナに被せる。
「無理だ。」
「え?」
「仕事がある。」
「仕事?」
「そうだ。」
「そうなの……。」
しょんぼりと俯いてしまった。
なんだかものすごく悪いことをした気分になるな。
エリオットは溜め息をつきたくなった。子供と触れ合ったことなど殆どない。いや、皆無と言っていい。しかも女の子。どう扱えばいいのか正解が全く分からない。
だから犬を用意したと言うのに……。
うんざりした気分でティアナを見た。
かと言って、このままでは流石にどうかと思う。ゆっくり手を上げると頭に、ぽんと乗せた。ぎこちなく撫でる。
「今度、時間ができたらな。」
そう言って手を離すと足早に執務室へと向かった。




