acte-013
アーガン伯爵家の王都にあるタウンハウスには別邸がある。が、あまり周知されていない。
理由は複数ある。
建っている場所がタウンハウスの裏手であること。又タウンハウスと別邸の間には高く複雑に入り組んだ生垣があり、人目につきにくいこと。そしてタウンハウスと別邸の周囲を、ぐるりと高く堅牢な塀で囲んでいる為、外からは一切見えないことが挙げられる。
タウンハウスに至る門は南正門で、馬車や馬の乗り入れはこちらを利用する。常に二人の門兵が立ち、侵入者や招かれざる客の対応がなされていた。
一方で別邸に至る北裏門は固く閉ざされ、常日頃は開かないよう内側から鍵が鎖が何重にもかけられている。
その北裏門から近く楓の木に囲まれて隠れるようにひっそりと建つ別邸は、当主一族や古参の使用人達からは「楓の家。」と呼ばれていた。
楓の家は数世代前の当主が、「趣味の絵を描くことに没頭したい。」と建てた別邸だった。
貴族男性で、しかも当主が道楽で絵を描くことはあまり良しとされていない。その為、隠すようにして建てられたと言われている。
こぢんまりとした二階建ての別邸を、ぐるりと楓が囲い、春夏は青々と、秋には真っ赤にと葉を染め別邸を彩る。クリーム色の壁と赤茶色の屋根が可愛らしい外観だった。
タウンハウスと別邸の間には生垣の他に小さな川が流れ、数本架けられた幅広く短い橋は目立たないよう水色に塗られている。
お互い行き来するには高く複雑に入り組んだ生垣を道順通りに歩き抜け、一見して分からない橋を見つけ渡らなければならない。つまり通り抜けられる道を教わったものだけが行き来することを許されていた。
小さな川べりには自然の草花が溢れ、王都だと言うことを束の間忘れさせる。
別邸と小川の間には素朴な景観の四阿が建っていた。




