acte-009
タウンハウスで会ってから、ダビデは人を使ってアーガン伯爵領を調べた。とは言っても見知らぬ人間が嗅ぎまわれば目立つ。領地を行き来する商人たちに話を聞くくらいだが、それでもこの糸や布地の話は出てこなかった。
当主交代の話もそうだ。この男は思ったよりも手が広い。
完全に掌握しているのだ、アーガン伯爵領を。同時にこちらも探られているだろうとは思っていたが。複雑ではあるが父として、味方にすれば心強い。商人としては、ほぼ決まっている。だがアルマの気持ちが最優先だ。手に持っていた糸と布地をそれぞれが戻すと三人は紅茶に手をつけた。昂った気持ちを落ち着ける。その間、エリオットは何も言わずに泰然と座っていた。
「あの、いいですか。」
「どうぞ。」
バルクがいきなり話し出した。ぎょっとしてダビデとアルマが顔を上げる。
「もし、義妹が予備爵を譲ってもらった場合ですが。」
エリオットがバルクの瞳を見つめ返した。黙って先を促す。
「社交界に出るには、些か問題があるかと。他国にいることになっていますから。それはどのようにお考えですか。」
「出なくて良いと思うが。」
「「「えっ?」」」
三人揃って思わず声が出た。
そう、爵位を受ければ社交は必須だ。なのに出なくていい?
「お渡しする爵位を受けてくださるのなら、考えている策があります。」
続きを待つとエリオットはにこりとした。初めて見た作り物めいた笑顔に三人で固まる。
「まず、アルマ嬢には名を変えて頂きます。周囲にはなるべく沈黙で対応する予定です。家名をわざわざ声高に言うつもりもない。隠し切れなくなってきたら偽の情報を小出しにしましょう。」
「偽の情報、ですか?」
バルクが鸚鵡返しに答える。
「ああ。例えば、他国にいた我が伯爵家の縁戚が、帰国するので予備爵を譲ったと言うのはどうだろう?」
「どう、だろうって。少し無理が……。」
言いかけバルクが押し黙った。思っても口にするには憚られた。しかしエリオットは首を傾げる。
「そうか?もし茶会や夜会の誘いがあってもアーガン伯爵家が後見に付いているから私が断る。王家主催はそもそも子爵位以下は滅多に呼ばれないだろう?呼ばれるのは褒賞授与の時くらいだ。」
じっとアルマを見つめて付け加える。
「それでも足りなければ顔に傷が残っていると常にベールで隠していれば?そうすれば出歩く時、顔を晒さず好きに行きたいところへ行ける。カーリア男爵やバルク殿と外で会うことも可能だと思うが?」
いくらでも言いようはある、と首を竦めたエリオット。三人は再び呆気に取られた。




