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私はお兄様を愛している  作者: こつめ
本編第1章 邂逅

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acte-001

 僕に妹がいると知ったのは、彼女が9歳の頃だった。


 当時の僕は17歳。アーガン伯爵家の後継者として、お披露目の夜会が終わった深夜、父が僕を書斎に呼び「お前には腹違いの妹がいる。」と徐ろに告げたのだ。驚き固まる僕を尻目に、父は聞いてもいない不貞相手と異母妹の話を始めた。

 

 不貞相手はアルマ26歳。

 異母妹の名はティアナ9歳。

 二人は今、()()()()()王都の下町で暮らしている。

 

 その三点だけ告げると、話は終わったといわんばかりに書斎を出された。少しも納得がいかないし、なんなら不信感しかない。こんな話を中途半端に聞かされて、一体どうしろと言うのか。自室に戻り、ソファに腰掛ける。まだ夜会服は着たままだし、寝る前に湯浴みもしたい。こんな時間まで着替えも出来なかったのは、婚約者のいない僕に娘を売り込む貴族家が後を絶たなかったからだ。疲れ切った夜会の後、深夜にわざわざ聞かされた話がこれとは……。


 何も考えたくない。かと言って今聞いた話は「はい、そうですか。」と終わりにできる話でもなかった。とりあえず、考えるのは明日だ。そう決めてベルを手に取ると侍従を呼んだ。


*****


 翌朝、目が覚めると自分で身支度を整え自室で朝食を摂った。


 15歳で貴族学園を卒業し、そこから二年かけて直接領地経営に携わってきた。今では決裁権の殆どを僕が握っている。タウンハウス、領邸のどちらも自室の隣に執務室を作ったのは仕事の効率と、()()()()()からだった。

 

 食事を摂りながら父の話を思い出す。まず、あれだけでは何も分からない。事実だけ考えると彼女は16歳で妊娠し、17歳で出産したことになる。妊娠期間を考えると今から約十年前だ。当時の父は38歳、二人の年齢差は22歳にもなる。


 どこで知り合った?


 父は領地経営をこなしながら、王宮にも出仕している。とは言っても生活基盤は領地で、王宮への出仕は年に数回程度。社交シーズンに合わせて登城するくらいだった。それ以外の社交は全て、一年前に亡くなった母がタウンハウスで執り仕切っていた。いくら考えても二人が出会う場所に見当もつかない。分からないことが多すぎる。


 朝食を途中で切り上げると部屋に控えていた侍従に下げるよう言い、話があるので時間を貰えないか父に聞いてくるよう指示を出す。侍従が戻る前に執務室へ移動し、仕事に取り掛かるとノックが聞こえた。


「入れ。」


 ペンを置き、短く応えると侍従が入って来る。立ち止まり一礼してから話し出した。


「失礼致します、エリオット様。旦那様はこれから領地に向かわれるそうで、お時間を頂くことは難しいそうです。」

「分かった、下がれ。」

 

 侍従は再び一礼した後、静かに執務室から退室した。逃げたな、と思った。今はまだ社交シーズンの真っ只中。王宮に出仕する予定もあったはずなのに、登城もせず急いで領地に向かう理由がない。これ以上僕と話をする気はない、と言うことだろう。ゆっくりと目を瞑り、息を吐きながら考えに耽る。


 昨日、父の書斎には侍従長のベントリーが同席していた。気配を消していたが彼はいつもそうだ、影のように仕える。祖父の代からアーガン伯爵家に仕えており、このタウンハウスのことで知らないことなどない。ならばベントリーに聞くしかないだろう、間違いなく彼は詳細を知っている。


 問題は僕に話すか、だ。


 そう決めてからは気持ちを切り替え、仕事に戻った。正午には自室に戻り、昼食を摂る。紅茶で一息吐くと自室を出て一階まで降り、中庭を散策しながら深く息を吸い込んだ。


 さて、ベントリーと話をするか。


 タウンハウスへ戻ると控えていた侍従に「ベントリーを執務室へ。」と指示する。そのまま執務室へ戻り、ソファに座った。


 さて、どうやって聞き出すか……。


 目を瞑って食えない侍従長の顔を思い出していると、ノックが聞こえた。


「入れ。」

「失礼致します。お呼びと伺いました。」


 扉を開けてすぐ、深く腰を折るベントリーを眺める。


「聞きたいことがある。」


 そう言えば姿勢を戻したベントリーは、心得たように頷いた。そっと扉を閉め、ソファの近い位置に立つ。


「なんなりと。」


 意外な返答に面食らうが、なんでも答えてくれると言うのなら話は早い。


「昨日父上が言っていたことについて聞きたい。知っていることを全て話せ。」

「……畏まりました。旦那様とご令嬢が出会ったのは、今から約十年前に王宮で開かれたデビュタントボールです。旦那様はその日、出仕されておりました。同僚方から誘われ、急遽参加することにしたようです。」

「どこで出会ったのかと思えば、デビュタントか。」

「はい。私は旦那様から付き添いをするよう指示されました。会場には入れませんので、伯爵家控室にて待機するよう申しつけられました。」


 出会いの場所は分かった。だが通常デビュタントは身内か婚約者がエスコートするものだ。誰かしらそばに居ただろうに、父親ほど年齢差のある男とどうやって出会ったのだろうか。黙って続きを促すと、ベントリーは少しだけ目を伏せた。言いにくいことを言おうとしているのだと分かった。


「夜会が始まり、二時間ほど過ぎた頃でしょうか。旦那様が白いドレスのご令嬢を抱えるようにして控室に戻ってこられました。なにがあったのか問う間もなく、部屋を出るよう言われました。どう見ても今夜デビューしたご令嬢で意識がありません。叱責覚悟でご令嬢はどうしたのかと伺いました。」


 嫌な予感しかしない。


「旦那様は何も答えず、ご令嬢をソファに横たえると私を部屋から出し鍵をかけられました。ドアを叩いて騒ぐわけにもいかず、かと言ってご令嬢のご家族が誰かも分かりません。せめて人が近づかない様に扉前に立つことしか出来ませんでした。」

 

 ベントリーを責めることはできない。彼が仕えるのはアーガン伯爵家であって、面識のないご令嬢ではないのだから。ただデビューしたばかりの非力なご令嬢に対して、罪悪感を抱かずにはいられなかっただろう。


「時間にして三十分も経たなかったかと思います。開錠の音が聞こえ、旦那様自ら扉を開けられました。お声かけするよりも先に、今すぐ馬車を用意するようにと言われました。ご令嬢をこのまま連れ帰るというのです。流石にそれは承服出来ませんでした。」


 あまりの非常識さに呆れる。どこに連れ帰ると言うんだ。ここまで聞いた話だけでも、明らかに同意を得た関係とは思えない。意識のないご令嬢を連れ込み、中で一体何をしていたのか。たとえ何もなかったとして貴族女性は異性と二人きり、部屋に居たと言うだけで貞操を疑われると言うのに。


「旦那様にご令嬢がどこの誰なのか伺い、ご家族にお任せするよう進言致しました。大分渋っておられましたがカーリア男爵のお名前を聞き出し、すぐに王宮の使用人を呼んで、一人でお越しいただくよう伝言を頼みました。かなり不躾かと思いましたが、これ以上旦那様とご令嬢から目を離すわけにはまいりませんでした。」


 もうこれ以上聞きたくない、と目を瞑った。カーリア男爵と言えば、このシーヴァス王国に本店を構えるカーリア商会の会頭だ。他国を含め、このスプーナー大陸中に支店を持つ彼の商会は言わば()()()、つまり凄まじい影響力を持っている。当然ながら高額な納税額を納めている為、王家の覚えもめでたい。その娘に目を付けるとは馬鹿なのか?


「現れたカーリア男爵に旦那様は、ご令嬢を見染めたこと、自分は既婚者であること。そして離縁は出来ないのでご令嬢を愛妾として迎えたいことを話されました。カーリア男爵は激怒されました。当然かと思います。」


 予想を超えた父の言動に、目を見開いた。厚顔無恥とはこのことだ。


「旦那様とカーリア男爵が言い争っている間に、ご令嬢が目を覚まされました。泣き出したご令嬢に、旦那様はどれだけ自分が思いを寄せているのか語りかけていましたが……怯えられるだけで。」

「それは、そうだろう。」

「お二人がお帰りになられた後、私に、彼女を迎えたいが何か策はないか?と問われました。」

「……無理に決まっている。」

「はい。答えられない私に旦那様は、自分たちは出会った瞬間から恋に落ち、愛し合ったのだ、と仰いました。」


 絶句した。


「ご令嬢は……その……」


 言いにくいだろうことも今まで話していたベントリーが初めて言い淀んだ。


 ああ。

 本当になんてことをしたのか。


 今までも大して尊敬などしていなかったが、ここに来て父と言う名だけの存在に吐き気がした。

【デビュタントボール】

・貴族女性が満16歳になった年に参加する成人を祝う夜会。通常父親や兄弟、従兄弟又は婚約者などがパートナーとしてエスコートする。爵位が上のものから王族に挨拶をして寿いでもらい、ファーストダンスを踊ることで成人と見なされる。


【シーヴァス王国】

・スプーナー大陸の西に位置

・建国300年を超える

・大陸での序列は3位


【カーリア商会】

・設立200年を超える

・元は平民が興した商会

・今から約100年以上前に当時の会頭が男爵位を叙爵

・シーヴァス王国に本店を構える

・現在スプーナー大陸中に支店を持つ大商会


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