acte-007
そこからはバルクが質問し、ダビデが答えると言った中で互いに軽食を摘み、紅茶を飲んだ。人心地ついた頃、続き扉からノックが聞こえたことで、ダビデがバルクを制しながら、立ち上がって向かう。扉を開くと、そこにはアルマが一人、立っていた。唇に人差し指を当て、困ったように笑う。
「ごめんなさい、お父様。ティアナが馬車の中で寝ちゃって。今ソファで横になってるの。」
痛そうに肩を揉みながらアルマが言う。
「そうか。一人にして大丈夫か?」
「ええ。起きたら多分、声を上げるから、すぐわかると思うわ。」
そのままダビデの後に続き、話しながらアルマが入ってきた。
「久しぶりね、バルク。」
「久しぶり、お嬢。」
軽く片手を上げるバルク。その顔に広がるのは満面の笑みだった。改めてダビデが座り、アルマも空いているソファに腰掛ける。一人がけのソファがテーブルの周りに四つ並んでいる為、一つ空席があった。
「アーガン伯爵を呼んでおいたよ。」
「ありがとう、お父様。」
「で。これからどうします?」
バルクが二人を見つめる。ダビデとアルマが、お互い視線を合わせた後、頷いたダビデが応えた。
「あちらの提案を改めて、聞いてみようと思っている。」
アルマが続ける。
「私も聞いてみたい……私の望みはティアナが幸せになることなの。その為なら出来ることは、なんでもしたい。でも現実には満足な働き口もないし、今までずっとお父様に助けてもらってきたのよ。」
ぐっと決意したようにアルマが腿の上で両手を握り合わせる。
「だから、それを変えたい。もし、伯爵様の提案が私たちにとって得難いものなら……受けたいの。」
「なるほど。」
頷くバルク。
「せっかくの機会だし。アーガン伯爵の提案とその意図とやらを真っ向から聞いてみますか。」
「そうだな。あの男に迂遠な手は悪手だろう。正直に聞いた方が、まともに返しそうだ。」
「じゃ、そう言うことで。相手の出方を見て、その後でまた話し合いましょう。」
バルクが軽い口調で纏める。
「それはいいが。バルク、お前くれぐれも言葉遣いには気をつけろよ。」
「あー。はい。」
へらっと笑うバルクを見てアルマはやっと肩から力が抜けた。三人で話し合い、方向性を決める。それぞれ一息ついた頃、隣の使用人控室で声がした。アルマが立ち上がり、飛び出していく。開け放った扉から話し声が聞こえた。ややしてアルマがティアナと入ってくる。続いてエリオット、その後ろにはお仕着せを着た妙齢の女性が付いてきた。ダビデとバルクは立ち上がると、エリオットとそれぞれ挨拶と握手を交わす。そうしてエリオット以外が妙齢の女性に視線を向けた。
「彼女はエマと言います。話し合いの最中、ティアナを見ていてもらおうかと思いまして。」
「エマと申します。宜しくお願い致します。」
女性が深く一礼した。
「彼女は私の元乳母で、王都へ来るまでは領地で私の専属侍女として仕えていました。当主になりましたので、王都へ呼び寄せたんですよ。」
エリオットの紹介にエマが微笑を浮かべた。
「そうですか。わざわざありがとうございます。」
ダビデが答え、エリオットを促す。四人それぞれがソファに座るとエマがテーブルを片付け始めた。そのままワゴンに近寄ると、紅茶の準備を始める。きょろきょろと視線を動かすティアナにアルマが手招きした。
「ティアナ。隣の部屋でエマさんと一緒に待っていてくれる?」
「うん。」
こくりと頷くティアナの頭を撫で、ぎゅっと抱きしめる。アルマはエマに頭を下げた。
「エマさん、宜しくお願いします。」
「畏まりました。」
紅茶を出すとエマは「では参りましょう、ティアナ様。」と言って手を差し出した。ティアナは躊躇いながらも握り返すと、二人で使用人控室へと戻っていく。ぱたんと扉が閉じられ、部屋に沈黙が降りた。それぞれのカップから湯気が立ち上り、束の間、静寂が訪れた。




