acte,prince héritier
《シーヴァス暦356年 晩冬》
王太子執務室。
王城の一角にある、その部屋の扉前には騎士が二人立ち、常から固く守られている。今、室内は人払いがされ、王太子ローレンスとその側近であるキースが執務机を挟んで対面していた。椅子に腰掛けているローレンスは、重厚な天板に両手を組んでおくと、目の前に立つキースを視線で促す。
「手紙が届きました。」
「そうか。」
受け取り、封蝋を割る。開いて取り出した便箋へ目を通しながらキースに話しかけた。
「公爵と話をする。手配を。」
「畏まりました。」
読み終わった手紙をキースに渡す。心得たように受け取って流し読むと軽く頷き、そのまま胸の内ポケットに仕舞い込んだ。ローレンスは両腕を組み、背もたれに身を預けると俯きながら低い声で呟いた。
「難しいな……。」
キースの顎にぐっと力が入る。主の心労を思って不満を覚えた。両脇に下ろした拳を握りしめ、苛立ちを隠す。
「とにかく、ここまできたら引き返せない。何としてもアーガン伯爵には受けてもらう。」
しっかりと視線をキースに合わせ、ローレンスが告げた。脳裏に浮かぶ、美しい青年。初めて会った時、視線が吸い寄せられた。会話をする機会があり、是非側近にと願ったこともある。だが今は、あの頃とは状況が変わった。自分が望む未来のために、彼には犠牲になってもらわねばならない。
そう。ローレンスには彼が、どうしても必要なのだ。




