acte,reine
《シーヴァス暦357年 初春》
薔薇庭園の中、用意されたティーテーブル。優美な曲線の椅子に腰掛け、ゆっくりと白磁のカップへ唇を近づける。琥珀色の紅茶から立ち上る芳香。香りを楽しんだ後そっと口に含む。満足げに微笑みながらカップをソーサーに戻すと、ゆったりと手を横に差し出した。控えていた侍女が、そっと近寄り扇を渡す。受け取って開くと口元に寄せ、微笑む王妃マニエラ。
「相変わらず、美味しいわ。」
「勿体なきお言葉にございます。」
対面に座る、紳士が微笑む。ここは王妃が許したもののみが訪れることを許された通称、白薔薇の庭。マニエラは殊の外、白薔薇が好きだった。薔薇庭園には真っ白な薔薇が咲き誇り、シットリとした香りが立ち込めている。マニエラはスッと扇を閉じると顎に添え、満足気に大小様々な白薔薇を見つめた。
「わたくし、白薔薇が特に好きなのよ。」
「はい。正に王妃殿下を象徴する花かと。」
「まぁ。嬉しいことを言ってくれるわね。」
「事実ですから。」
大袈裟なほどに相槌を打つ紳士へ、ちらりと目線を送るとマニエラは再び扇を開き口元を隠した。
「でもねぇ。貴方はそう言うけれど王国の高貴な薔薇といえば、赤いのでしょう?」
紳士が一瞬言葉に詰まる。
「どうでしょう。私は白薔薇こそ気高く美しく、王国を象徴する花だと思っております。」
はっきりと告げられてマニエラは微笑んだ。
「そう。ではもちろん、その王国を象徴する花が何を望むのか……知っているわよね?」
「はい。」
しっかりと紳士が頷いた。
「父が、赤い薔薇が咲くに相応しい場をご用意した、と申しておりました。」
「まぁ。そうなの?」
「はい。狩猟大会はどうかと。」
「ふぅん。どうするのかしら?」
「開催地に王家の森ではなく、ある伯爵領を推薦したと申しておりました。」
「……それはもしかして、ギベオンナイトの?」
「さすが王妃殿下、ご明察にございます。」
にっこりと笑い紳士が答える。
「ふふ。それは面白いわね。」
「ええ。なんでも素晴らしき獣までいると聞き及んでおります。きっとご満足頂けるかと。」
「楽しみだわ。狩猟大会が終わったら。ふふ。褒美は何が良いかしら?」
「有り難きお言葉。しかし私どもは王妃殿下に、お喜び頂けるだけで光栄にございます。」
「あら。それは駄目よ。わたくし自ら、わざわざ聞いてあげているのよ?望みくらい、言いなさいな。」
「であれば。」
身を僅かに乗り出し、ひそひそと紳士が囁く。
「まぁ。本当にそれでよいの?」
「はい。」
姿勢を戻し、簡潔に答える紳士の髪が風に揺れる。マニエラはホゥッと溜め息を吐き、わざとらしく首を傾げた。
「欲がないわねぇ。」
いやいや、欲まみれですよ。
紳士は微笑みを浮かべながら心の中で、ほくそ笑んだ。




