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《シーヴァス暦357年 夏》
貴族の当主や後継者のみが参加出来るサロンがある。
ここでは主に人脈作りや領地経営に活かす情報などが飛び交う。酒や葉巻を嗜み、チェスやカードゲームに興じながら気の置けない会話を愉しむことが出来るのだ。
「先日、妻が新しいドレスを買ったんだが。」
「もしかして、あれか?アーガン伯爵領の?」
「ああ。素晴らしかった。あれはいいね。」
「へぇ。それは羨ましい。愛妾が欲しがっているんだが中々手に入らないんだ。品薄のようでね。」
「分かるよ、妻も随分と待ったから。しかしそれに見合うものだった。」
二人の紳士が葉巻を燻らせ語り合う。
「アーガン伯爵領といえば。」
そこに老紳士がグラスを片手に、加わった。
「生産される布地を使ったドレスも素晴らしく美しいらしいが現当主も、それはそれは人目を惹く容姿らしいねぇ。ご令嬢方や貴婦人方が騒いでいたよ。」
おっとりと告げる。
「そうですね。後継者お披露目の夜会に招待されたので挨拶を受けましたが驚くほどの美形でしたよ。」
「噂には聞きますが、それ程とは。サロンや夜会でも、あまり見かけませんねぇ。」
「確か婚約したと聞いた気がします。」
「しかし、たまに見かけても誰も同伴していませんでしたよ。」
「いらっしゃるようですが、随分と歳の離れたご令嬢らしいですよ。夜会にも連れ歩けないほど幼いとか。いやはや。」
はて、と首を傾げる。
「もったいない。あれほどの見た目なら引くて数多だろうに。私なら考えられないよ。」
「確かに。」
笑い合う紳士たち。
「どうやらその婚約、形ばかりのようですよ。なんでも高貴な生まれの赤い薔薇が関心を寄せていらっしゃるとか。」
「それはそれは!」
「なんとも羨ましい!」
驚いた声が上がった。いつの間にか周囲には、たくさんの紳士たちが集まっている。
「いやはや。これは気になりますなぁ。」
のんびりと会話を切り上げた老紳士は口元に微笑を浮かべつつグラスを傾けた。




