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かつて英雄と呼ばれた男は、今はただ幼竜と生き延びたい  作者: 雪沢 凛
第七章:触れられない真実

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幕間 猟犬亭・カルロス

 店の喧噪が次第に遠のき、カルロスは片隅に身を預けていた。

 指先が癖のように木杯の縁をなぞる。脳裏に焼きついて離れない——あの冷ややかな眼差し。


 ――あの目を、忘れられるわけがない。


 伝説で語られる「竜の背の少年」の勇姿ではない。

 彼の記憶に残ったのは、北境戦線の後方、帳幕の奥を偶然覗いた一瞬の光景だった。


 物資を運ぶ途中、誤って王国軍の幕舎に足を踏み入れた。

 少年が兜を脱ぎ、汗が頬を伝って落ちる。

 まだ幼さの残る眉間、その若さに、息を呑んだ。


 ――歳が……あんなに。


 だが、その背にすでに「王国の英雄」という名が載っていた。

 カルロスは小さく笑い、片手で顔を覆う。


 「昨夜はただの病弱貴公子かと思ったが……まさか、お前だったとはな」


 闇市の連中は物語を作る。英雄も魔女も、結局は「商売の種」だ。

 だが、あの目だけは——嘘で作れるものではない。


 空になった杯を押しやり、低く呟く。


 「英雄、ね……。必要な時は神棚に飾り、いらなくなりゃ地に落とす」


 そこでふと動きを止め、口の端にかすかな笑みを浮かべた。

 笑みは軽く、だがどこかで何かを押し殺している。


 「……ま、そんなこと——俺には関係ねえ」


 言い捨てて、カルロスは立ち上がる。

 群衆の波に紛れ、その背が灯りの中に消えていく。

 振り返ることは、もうなかった。

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